予定よりやや遅れはしたものの、5月21日に無事に正式公開となったLinuxカーネル3.4。そして3.4のリリースと同時に3.5のマージウインドウがオープンしている。まだ最初のリリース候補も出ていないが、Linux 3.5ではDRM GPUドライバ関連のアップデートが数多く実施されるほか、タッチデバイスの入力サポート強化、サウンド関連の拡張なども予定されている。
そして数ある変更点/強化点のなかで、今回はLinux 3.5におけるARMアーキテクチャ対応について触れてみたい。ご存知の方も多いと思うが、メインラインにおけるARMサポートに関しては昨年、Linus Torvaldsが「ARMドライバを考えなしにカーネルに取り込むのは(カーネルが肥大化するので)やめてほしいんだけど」といった趣旨の発言をし、ちょっとした話題を呼んだ。Linusはカーネルの肥大化を好まないことで知られるが、意味のある拡張ならともかく、やたらに機能が追加されるだけで、誰もメンテナンスしなくなる事態を招き、コードにゴミが蓄積されることを嫌がっての発言とされている。
- Re: [GIT PULL] omap changes for v2.6.39 merge window -Linus Torvalds
そんなLinusをどう説き伏せたかはともかく、3.5ではARMアーキテクチャ向けの拡張がいくつかなされる予定になっている。STマイクロエレクトロニクス製の組み込みマイクロプロセッサ「SPEAr(Structured Processor Enhanced Architecture)」ファミリはARMコア(ARM Cortex-A9)を搭載するシステムだが、そのうちの1シリーズであるSPEAr 13系のメインラインサポートが決定している。メインラインではすでにSPEAr 310/320などがサポートされており、3.5でさらに充実することになる。
そのほかにもNVIDIA Tegraのサポート強化やSamsungのスマートフォン向けプロセッサExynos向けドライバが新たに追加される予定だ。
カーネルにおけるARMサポートの強化は、スマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスの普及とともに今後も続くと予想される。この流れはディストロベンダにも共通で、とくにリリースを重ねるごとにモバイルへの対応を強化しているUbuntuは、ARM対応も積極的に進めており、モバイルだけでなく、サーバ版でもARM対応を強化している。どちらかと言うとARMへの対応はRed Hat系よりDebian系のディストロのほうが進んでいるようだ。
ARMはモバイルや組み込みに強い印象があるが、最近はARMの省電力性を活かし、サーバへの搭載も増えており、DellやHPといったサーバベンダは、ブレードサーバとは異なるタイプの中~小型の高密度サーバにARMを採用している。データセンター事業を拡大中のDellは最近、4プロセッサ搭載の省電力エコサーバを謳う「Dell "Copper" ARM Server」にUbuntuとCloudera Hadoopを搭載したシステムをデータセンターに向けて販売している。とくにHadoopクラスタを必要とするWebのフロントエンド業務における導入をターゲットとしており、ビッグデータ案件の増加とともに設置台数を増やしたい構えだ。
モバイルとビッグデータという二大トレンドに押されるようにして、Linuxカーネルでの存在感を増してきたARM。とりあえず3.5の開発ではLinusがブチ切れることがないことを祈る。