SHUT THE FUCK UP! だまりやがれ、この野郎! お前何年カーネルメンテナーやってんだよ!!
──我らがLinus Torvaldsは怒りのボルテージが上がると、相手が誰であろうとF*CKという言葉のつぶてを容赦なく投げつける。だが、今回のLinusの怒りようは尋常ではない。同じF*CKで相手を罵倒するにしても、NVIDIAに中指立てたとき、あるいは米大統領選の最中のロムニー氏を小馬鹿にしたときに比べて、その怒りの度合いははるかに大きい。そしてだからこそ、Linuxユーザは改めて彼を強く尊敬することになる。
まずは英語が得意ではない方でも、以下のリンクを開いてざっと目を通してみてほしい。Linusの怒りのほどがひしひしと伝わってくるはずだ。
- Re: [Regression w/ patch] Media commit causes user space to misbahave (was: Re: Linux 3.8-rc1): gmane.linux.kernel
多少のトラブルはあったものの、無事に12月初旬にLinux 3.7をリリースしたLinusとカーネルメンテナーたちは、現在、来るLinux 3.8に向けて開発を進めている。12月22日には最初のリリース候補であるLinux 3.8-rc1が公開された。
このrc1を受け、UVCドライバ(uvcvideo)がらみでエラーが発生するという報告があった。カーネルメンテナーでIntelのRafael J. Wysocki氏によるもので、「自分のマシンのKDE環境下でPulseAudioを使うと音が出力されない。通知プロセス(knotify4)がCPUコアのひとつをすべて占有してしまっているようだ」とカーネル開発者のメーリングリストに投稿し、自分が使っているパッチを当ててみてほしいと付け加えた。
この投稿に対し、Red Hatのカーネルスペシャリストであり、カーネルメンテナーのひとりでもあるMauro Carvalho Chehab氏は「それ、PalseAudioのバグなんじゃないの? リグレッションのレベルじゃなくね?」と軽くいなした。つまりカーネルメーリングリストで取り扱うような話題ではないだろうとコメントしたのである。
このChehab氏の言葉にLinusはブチ切れた。Wysocki氏が提示したバグは、明らかにカーネル由来のものである。カーネルは決してユーザスペースに悪影響を及ぼすようなことはしてはならない──これはLinuxカーネル開発者が最初に頭に叩きこむルールのひとつである。Linusは自分自身も含め、カーネルメンテナーが開発のルールから逸脱することを決して認めない。例外を許せばカーネルの品質が落ちることがわかっているからだ。たとえ遠回りであろうとも、ルールに則り、目の前のバグをひとつひとつ潰し、カーネルとしての完成度を高めていく。だからこそLinuxは20年に渡って続き、組込みセンサーからスパコンまで、世界中のあらゆるシステムを支えるプラットフォームになり得たといえる。
Chehab氏の発言は一見、それほど大きな問題ではないように思える。彼の指摘のメールはあまり感じはよくないが、大人なリーダーであれば見過ごすこともできたはずだ。だが、Linusは空気を読んで見なかったふりをするような大人ではない。どんな小さなことでもカーネルメンテナーがルールを逸脱した発言を行えば、Linux開発の根幹を揺るがすことにつながる。
メールの後半、すべて大文字で書かれた「WE DO NOT BREAK USERSPACE!」というシンプルなフレーズにLinusの強くて熱い思いが見えてくる。この思いが20年以上に渡ってLinux開発を支えてきた。Chehab氏の発言はそれを明らかに踏みにじるものであり、Linusには決して看過できるレベルではなかった。世界中のユーザにログが見える公開メーリングリスト上で、F*CKを連発し、子供のように怒りを露わにするLinus。その姿を嘲笑うLinuxユーザはいるだろうか。
「カーネルメンテナーの口から二度とそんなクズみたいなセリフは聞きたくないね。マジだからな」「お前のメールの指摘は全部間違ってる。そのファッキンなコンプライアンスツールを取り替えろ。マジで壊れてるから」「ついでにカーネルプログラミングへのアプローチもイチから勉強しなおせ」など、さんざんに叱られたChehab氏は、Linusに平謝りのメールを出している。カーネルメンテナーの地位にぎりぎりのところで踏みとどまれたようだ。