ここ最近、LinuxディストリビューションのMySQLからMariaDBへのリプレースが止まらない流れとなっている。とくに先月発表された、openSUSEとFedoraという2つの大きなディストロが次のリリース(openSUSE 12.3、Fedora 19)からMariaDBを採用するというニュース─これらがオープンソース界隈に小さくない衝撃をもって迎えられたことは記憶にあたらしい。
ご存知の方も多いと思うが、MariaDBはMySQLのファウンダーであるMichael "Monty" Wideniusが中心となって開発するオープンソースのRDBMSである。MySQLからフォークしたプロダクトであるMariaDBはMySQLの代替となることを目指してデザインされており、メジャーなオープンソースのエンジンをほぼすべてカバーしているだけでなく、APIやユーティリティも同じものを使える。つまり開発者にとってMySQL→MariaDBへのスイッチはとくに支障がないというわけだ。
だがopenSUSEやFedoraが今回のリプレースを決定した理由はそれだけではない。最も重要なポイントは、MySQLが完全なオープンソースとは呼べなくなってしまっている状況にある。
FedoraプロジェクトのマネージャーであるRed HatのJaroslav Reznik氏は、今回のリプレースに関する発表を行ったメールにおいて、「MySQL ABを買収したSun MicrosystemsがOracleに買収されて以来、OracleはMySQLをクローズドな存在へと変えていった。ここで問題になるのは重大なセキュリティ上の問題(CVE)を共有できなくなっているということだ。リグレッションテストの提供も、バグ情報の公開もない」とOracleのMySQLに対するクローズドな姿勢を強く批判している。オープンソースの名を冠しながら実態はクローズドな面が目立つMySQLよりも、完全なオープンソースであるMariaDBのほうが、プロジェクトの理念にも、ユーザの利便性にも適っていると判断したのである。
MySQL 5.6のリリースを控えているOracleにとって、FedoraがデフォルトRDBMSからMySQLを外すというのは何としても避けたかった模様で、何度もFedoraプロジェクトと交渉したらしい。だが結局、プロジェクトの幹部による投票では7対0という大差でMariaDBへのスイッチが決定した。
今回のニュースを受けて、いくつかのメディアがMySQLの行く末を占う記事を掲載している。Sunの買収後、Oracleはいくつものオープンソースを捨て去った。大きなものではオフィススイートのOpenOffice.orgが挙げられるだろう。OOoの場合、ある一定期間、Oracleの手元に置かれたことがプロジェクトの弱体化に拍車をかけ、OOoのメイン開発者はほとんどが離脱してLibreOfficeへと移った。OOoはその後、Apache Foundationに移管されたが、以前の勢いはどこにもない。MySQLをクローズドに囲い込むOracleの姿勢が顕著になるにつれ、MySQLはOOoと同じ運命を辿るのでは、という声が強くなるのは当然の成り行きだろう。
だがOracleはもはやMySQLを手放すタイミングを逸してしまったのかもしれない。OracleがSunを買収したとき、時代は今ほどクラウド指向ではなかった。クラウドコンピューティングにおいては、増え続けるデータを格納するための拡張性を維持するにあたり、ソースコードがオープンであるかどうかは非常に重要な指標となる。セキュリティにしろ、あるいは独自の仕様をかぶせるにしろ、システムを構築する側がソースが読めないということは、もはやハンデに近い。PostgreSQLの採用が世界中のクラウド業界で急速に拡がっている理由もそこにある。世界は理念ではなく、利便性の追求によってオープンソースを選択する時代になっているのだ。
だとすればOOoと異なり、Oracle DBの最大のライバルとなる可能性をもつMySQLを、Oracleは簡単に手放すことはできない。かといって、MariaDBのようにMySQLを完全にオープンな姿勢に転じさせることも、企業戦略上ありえないだろう。しばらくは時代の趨勢と逆行していると批判されても、MySQLをオープンソースのままクローズドに囲い込み、MySQL 5.6の派手なリリースでそうした不安を(一時的に)打ち消す施策に出て、その後は?……ぜひともOracleの回答が聞きたいところである。