利用しているOSが最新バージョンだからといって、すべてが最新の環境とは限らない。とりわけエンタープライズOSの場合は、中身を見るとオブソリート(obsolete:時代遅れのIT技術を指すときによく使われる形容詞)な技術の集合体であることも少なくない。とはいえ、オープンソースへのコミットを会社の理念として掲げているRed Hatが、その看板ディストロをオブソリート扱いされるのは、やはり気持ちのよいものではないようだ。
まずはRed HatのエバンジェリストであるJan Wildeboer氏が2月11日に投稿したGoogle+のポストを見てほしい。
“最新版のRHEL”とあるから、おそらくRHEL 6.3のことだろう。その上でGoogle Chromeを起動しようとしたら「Google Chromeはもうあなたの環境ではアップデートできません。なぜならあなたのOSはオブソリートだからです」というメッセージが表示されたのだ。納得いかないWidleboer氏は「Windows XPみたいな(オブソリートな)OSをサポートしているのに、なんでRHEL 6がオブソリートなんだYO!」とポストした。それがLinuxユーザの間で話題を呼び、100以上のコメントが付く事態となっている。
RHEL 6.3は昨年6月にリリースされている。したがって"オブソリート"呼ばわりされるほど古いOSではない。だが、RHEL 6.3がベースにしているのはFedora 12(2009年11月)およびFedora 13(2010年5月)であり、カーネルのバージョンも2.6.3x系である。アップデートを頻繁に行い、最新の機能強化を次々と図るGoogle Chromeにとって、古いOSと古いライブラリをいつまでもサポートすることはセキュリティメンテナンス上も好ましくない。RHEL 6.xで使われているGCCのバージョンが低すぎることが理由なのでは、という推測もあるが、Googleは本件に関するコメントをしていないので詳細は不明だ。だがGoogleの政治的判断というよりも、Chromeのバージョンがもう古いライブラリをサポートしきれなくなったというのが事実に近いのではないだろうか。
Red Hatは昨年4月、日本企業からの強い要望もあって、RHELの5系と6系に関しては10年サポートを行うと表明している。したがってたとえブラウザであっても「動いていたものが動かなくなる」という事態は可能な限り避けたいはずだ。RHELはデスクトップOSではないからブラウザがChromeでなくとも問題はないだろうとする意見もある。だが、オープンであることをを何よりも重要視しているRed Hatにとって、先進的なオープンソースプロジェクトを数多く抱えるGoogleから、看板製品に対して時代遅れの刻印を押されることはかなり屈辱的な出来事のように思える。
銀行や通信といったエンタープライズ業界では"安心/安全"を謳って高い人気と普及率を誇るRHELだが、オープンソースプロジェクトのFedoraでは最新性をつねに追いかけることでバランスを取っていた。だが、もしかしたらそのバランスはいま、少しずつ変化してきているのかもしれない。長期間サポートを求めすぎるエンタープライズ業界への警鐘とも取れる今回の一件、はたしてGoogleはどういう対応を取るのだろうか。