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2013年6月3日MSのネガキャンには負けない! ミュンヘン市がLinux導入効果を再アピール

競合相手をこき下ろして自社の優位性をアピールする、いわゆる"ネガティブキャンペーン"は米国ではわりとよく使われる宣伝手法だ。マーケティングの世界では「FUD(Fear, Uncertainty and Doubt⁠⁠」と称されることが多いが、このネガキャン/FUDをかなり頻繁に行っている企業がMicrosoftである。

同社の目下の最大の標的(敵?)はGoogleで、Google Apps、Gmail、検索エンジンなどに対するネガキャンを、かなりの予算を投じて絶賛展開中だ。最近ではAppleのiPadをけなしてWindows 8タブレットの良さを打ち出そうとしたCMが話題になったが、逆に「iPad、やっぱカッコイイ!」というイメージを世間一般に拡める結果となってしまった。世の中はうまくいかないものである。

Windows 8: Less talking, more doing

さて、Microsoftがネガキャンを張るのはGoogleやAppleのような大企業に対してだけではない。ある年代以上ならおなじみの「ハロウィン文書」に象徴されるように、もともとMicrosoftには企業体質としてLinuxやオープンソースの文化を快く思わないDNAが息づいている。さすがにここ数年は世の中のトレンドに逆らえないことを自覚したのか、Windows Azure上でLinuxを使えるようにしたり、自社開発のMapReduceライクなビッグデータ技術「Dryad」を諦めてHadoopに鞍替えするなど、オープンソースやLinuxに対してかなり寛容、と言うよりむしろオープンソースにすり寄ってきているフシがあった。だがしかし、やはりデスクトップの話となるとLinuxを簡単に許容するわけにはいかないようだ。

本コラムでは何度か欧州の自治体によるWindows→Linuxの大規模マイグレーションの話題を取り上げてきた。その成功事例のひとつであるドイツのミュンヘン市では、2003年にWindows/OfficeからLinux/OpenOfficeに変更したことで1000万ユーロ以上のコスト削減効果を得られたと2012年末に公表している。ところがこのアナウンスにリプレースされた側のMicrosoftが噛みついた。いわく「ミュンヘン市は実際にはLinuxへの移行により、6000万ユーロ以上のコストを支払ったはずだ」というもの。

これはMicrosoftの依頼によりHPが調査したレポート(ドイツ語)に基づいており、⁠当時のWindows NT 4ベースの環境からWindows XPとOffice 2003に移行していれば1700万ユーロ程度で済んだであろう。その後のWindows 7へのアップグレードも入れていたら長期的に見てもっとコストメリットがあったはずだ」としている。

HPが示した6000万ユーロという莫大な額は、ミュンヘン市の独自ディストロ「LiMux」と同じDebianベースのUbuntuを導入するという前提で試算されており、サポートやアプリケーション開発、SIなどに多額の費用が計上されている。WindowsやOfficeのライセンス費用よりも、LinuxやOpenOfficeのサポートコストのほうがはるかに高くつく、というのがHPおよびMicrosoftの主張だ。

ミュンヘン市はこの移行プロジェクトの期間を10年と定めており、今年10月にその期限を迎える。現状では80%ほどのリプレースが終了しており、約1万4000台ほどのLinuxマシンが稼働中だ。Microsoft/HPのレポート発表からしばらくして「期限終了後、予想外のコスト増に耐えかねてミュンヘン市はLinuxからWindowsに再び戻るのではないか」という噂が一部で拡がることになる。とりあえずFUDが奏効したわけだ。

だが、もちろんミュンヘン市はこのFUDに黙ってはいなかった。5月22日、ベルリン市で開催された「LinuxTag」というカンファレンスにおいて、ミュンヘン市のLinuxプロジェクトリーダーであるPeter Hofmann氏はMicrosoftおよびHPに対し「我々の達成したことを何ひとつ見ていない。1000万ユーロの削減も事実」と強く批判、⁠我々は現在の方針を変えず、オープンソースをベースにした市政におけるITの独立と自動化をさらに推進していく」と明言している。また、ミュンヘン市のITサービス事業部門の幹部は同じイベントで「学生がまとめたレポートよりもひどい分析で話にならないレベル」とこのFUDを酷評している。

ミュンヘン市が10年という長い時間をかけてLinuxへの移行を推進した理由は、もちろんコストの面が大きい。だがそれ以上に彼らが力をかけて取り組むべき課題として設定したのが、Windows環境に縛られたサイロなITからの脱却だった。OSに依らず、アプリケーションの互換性を担保できる柔軟なIT環境でなければ、いまの時代に見合った適切なITサービスを市民に届けられない。電子政府化が進む欧州では、とくに行政サービスの自動化に積極的に取り組む自治体が多く、そうしたシステムには柔軟性とアジリティが欠かせない。オープンソースを指向する自治体が増えているのはそうしたところに大きな理由がある。

Hofmann氏によれば、ミュンヘン市は近い将来、さらなるコスト削減と電子政府化の推進のためUbuntu/LibreOfficeへのスイッチを進めていくとしている。数年後のミュンヘン市を見てMicrosoftはどんなコメントを出すのか(or出さないのか)にも注目したい。

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