スマートフォンやタブレットで高精細なゲームや動画を楽しめるようになった背景には、モバイルGPUのめざましい進化が挙げられる。ARMプロセッサで動作するSoC(System on Chip)タイプのモバイルGPUが進化したからこそ、デスクトップPCや据置型の家庭用ゲーム機に迫る動画クオリティをモバイルデバイスでも得られるようになった。
そしてGPUのトップベンダであるNVIDIAは現在、「Tegra K1」と呼ばれる次世代モバイルSoCの開発を行っている。Tegra K1はデスクトップPC向けGPUと同じアーキテクチャ(Kepler)を採用しており、デスクトップPCで利用できるグラフィクス機能はほぼすべてモバイルでも同様に利用できるようになるという。1月に米ラスベガスで行われたCES 2014では、このTegra K1を搭載した実機が公開され注目をさらった。
ところでNVIDIAといえば以前、Linus TorvaldsからLinuxで利用できるオープンソースのドライバ開発にまったく貢献していないことを理由に「Linuxコミュニティにとって最悪の企業」と公衆の面前でなじられ、「FUCK YOU!」と中指まで立てられた苦い過去をもつ。もっともNVIDIAの貢献が少ないからこそ、NVIDIAドライバのリバースエンジニアリングプロジェクトである「Nouveau」の開発に力が入れられ、カーネルバージョンアップのたびに洗練されていくという皮肉な側面もあるのだが。
だがNVIDIAもいつまでも"Linux(Linus)の敵"でいるつもりではなかったようだ。NVIDIAに在籍する組み込みエンジニアのAlexandre Courbot氏は1月31日(現地時間)、開発中のTegra K1チップである「GK20A」をNouveauでサポート可能にするコードをオープンソースとして提供するとDRIメーリングリストにポストした。これにより最新のKeplerアーキテクチャGPUが搭載されたモバイルデバイスにLinuxカーネルがいち早く対応することが可能になる。もっとも現状で適用可能なのはDRMカーネルドライバだけと限られているが、NVIDIAが開発コミュニティに近い存在となる大きな一歩だといえるだろう。
今回のニュースに対し、コミュニティはもちろん、Linusも至極ご満悦のようで「Hey, this time I'm raising a "thumb" for nvidia.(ヘイ、今回は僕はNVIDIAのために親指を立てることにするよ)」と自身のGoogle+に書き込んでいる。上がった親指がこのまま下を向かないことを祈りたい。