Linus Torvaldsは9月16日(米国時間)、次期Linuxカーネル「Linux 4.19」の4本目のリリース候補(RC)版「Linux 4.19-rc4」をカーネル開発者向けメーリングリスト「LKML.org」にて公開した。そしてこの投稿のタイトルとその内容が現在、Linuxコミュニティを騒然とさせている。
- Linux 4.19-rc4 released, an apology, and a maintainership note
Linusがapology ―タイトルだけを見ると何を言っているかわからないという気にさせられるが、本文ではさらに「僕は自分の態度をかなり改める必要があると思っている。そして僕の態度によって傷つき、おそらくそのことによってカーネル開発から完全に抜けてしまった人々に謝りたい」と書かれている。いったい何がLinusに「謝りたい」という気持ちにさせたのだろうか。
事の起こりはLinusが11月にカナダ・バンクーバーで開催が予定されていたカーネルメンテナーのカンファレンス「The Linux Kernel Maintainer Summit」のスケジュールを勘違いしてしまった件から始まる。サミット主催者側のTheodore Y. Ts'oがLinusにスケジュールを再確認したとき、Linusはすでにその時期に家族旅行の予定を入れていた。そのためLinusは「僕が出なくても、そのままバンクーバーでメンテナーサミットを開催したらいいんじゃないかな」と提案したという。
Kernel Maitainer Summitはその名の通り、カーネルメンテナーというごく限られた30名ほどのメンバーだけが参加できる招待制のイベントであり、非常に特殊性が強い。参加メンバーの顔ぶれもほとんど変わっていない。Linusは「この20年、僕はメンテナーサミットに毎年参加していたけど、今年くらい行かなくてもいいんじゃないかと正直思った」とコメントしているが、自分がいなくてもカーネルメンテナーたちだけで十分に濃い議論ができると考えていたのだろう。だがサミットの主催委員たちの多くは「Linusのいないメンテナーサミットなんてありえない!」と主張、これを受けてT'soが中心となって再調整を繰り返し、ようやく9月6日に、英エディンバラで行われる「Open Source Summit Europe」に合わせて"with Linus"でメンテナーサミットを開催することが決定している。
- [Ksummit-discuss] CHANGE OF PLAN: Maintainer Summit will be in Edinburgh
自分のミスのせいで何度にも渡って変更作業が生じたことに贖罪の気持ちが生まれたのか、それとも以前から自分の言動に対して何らかの違和感を覚えていたのか、それはわからない。だが少なくとも今回のトラブルがきっかけとなり、Linusは「自分は周りの人々の気持ちがまったく理解できていない人間だと思い知った。"鏡の中の自分自身をよく見ろ"という声が聞こえる瞬間がついにやってきた」という心境に至ったようだ。そして、これまでの自分の発言や態度で傷ついた人々への謝罪を示し、当面は「態度を改めるため」に休養を取り、Linux 4.19の開発作業に関しては長年のメンテナー仲間であるGreg Kroah-Hartmanに統括を任せると宣言している。
今回の件は僕が"git"と呼ばれる小さなツールを書く必要があったときにカーネル開発を抜けていた時期と似ている。今後の振る舞いを変えるために、そして自分自身の調整とワークフローに向き合うために、僕にはブレイク期間が必要なんだ
(Linus)
Linusは復帰の時期を明言してはいないが、Linux 4.19が正式にリリースされ、ゲストとして登壇するエジンバラのカーネルメンテナーサミットが開催される10月後半には、何らかの新しい動きを見せることが予想される。「鏡の中の自分(myself in the mirror)」を見つめ直したLinusは、どんなLinusに変わっているのだろうか。