9月16日(米国時間)、リチャード・ストールマン(Richard Stallman)が自身で創設したFree Softwre Foundation(FSF)のプレジデント職およびボードメンバーを退任したというニュースは、ある程度予測されていた事態とはいえ、ソフトウェア業界に大きな衝撃をもたらした。ストールマンはFSFと同時にMITの人工知能研究所(MIT CASL)の職も辞しており、自身のブログで「MITと私に対する一連の誤解および脅迫の圧力により、辞任することにした(I am doing this due to pressure on MIT and me over a series of misunderstandings and mischaracterizations)」と述べている。
- Richard M. Stallman resigns - Free Software Foundation
- 14 September 2019 (Sex between an adult and a child is wrong) -Richard Stallman
"ソフトウェアの自由"を掲げ、長年に渡って過激で強力なコピーレフト運動を展開してきたストールマンが、ある意味"追放"にも近いかたちでFSFを去ることになったのは、すでに報じられているとおり、未成年者に対する性的虐待および人身売買で告発されたジェフリー・エプスタイン(すでに刑務所内で死亡)の被害女性を侮辱する発言が公になったことに起因する。ストールマンは自身の友人でMIT CASLの設立者であった故マービン・ミンスキーがエプスタインの斡旋で未成年者と性交渉を行ったことをかばい、当時17歳の被害女性について「自分から喜んで求めに応じた」とメールで発言、世界中から多大な批判を浴びた。
この件に関してはオープンソースコミュニティからも多くの批判が相次ぎ、とくに強い態度を示したのがGNOME Foundationだ。GNOME FoundationのエグゼクティブマネージャであるNeil McGovernは9月16日(英国時間)、自身のブログにおいてストールマンの一連の発言はGNOME Foundationの掲げるゴール「"多様性と包摂(ダイバーシティ&インクルージョン)"を重んじるコミュニティ」を著しく毀損すると抗議、ストールマンがFSFおよびGNUプロジェクトの代表の座を降りなければ、「GNOMEとFSF/GNUとの間でフォーマルな関係を続けいてくことは難しい」としており、ストールマンに代わる新しい代表の就任を求めていた。
- GNOME relationship with GNU and the FSF -Liberal Murmurs
結局、ストールマンはMcGovernのブログ公開とほぼ同時に辞任を発表することになる。これまでのストールマンの功績から彼を神格化に近いかたちで崇拝する人々も多いが、一方でソフトウェアライセンスに対するその苛烈すぎるスタンスを嫌悪する向きも少なくない。今回の一連の発言は、ストールマンの退場を望んできた人々にとって完全に一線を越えた、時代の流れに反する内容であり、FSFも辞任を認めざるを得なかったようだ。ストールマンであろうと誰であろうと、開発者が他人を侮辱する発言や態度を取ることは許されない時代であることを如実に示した事件だったといえるだろう。