Computex Taipeiでのアナウンス
台湾の台北市で行われているCOMPUTEX TAIPEI 2009[1] において、Ubuntu関連の4つの発表が 行われました。特に、Netbook環境に関して重要な情報が公開されています。
(1)Moblin v2のUbuntu版がリリース予定
Moblin v2のUbuntu版、Ubuntu Moblin Remix がリリース される予定です。正確には、「 MoblinのUbuntu版」ではなく、「 UbuntuにMoblinアプリケーションを加えて、Moblinと同じように動作するように調整したもの」です。
9.04ベースでの作業は順調に推移しているようですので、ごく近い未来にリリースが行われると思われます。これにより、UbuntuでもMoblin v2と同じインターフェースと、Moblin v2向けにリリースされたアプリケーションの動作環境が得られるはずです。一般的な理解としては、「 Moblin v2の成果物をUbuntuに取り込む作業が行われ、『 MoblinのようなUbuntu』が利用できるようになる」と考えれば良いでしょう。MobileKarmicMoblin2 を見ることで[2] 、9.10などでどのように実現されるかを確認することができます。
どのような画面になるかは、Canonical Blog のスクリーンショットを参照してください。
[1] COMPUTEX TAIPEIは、1年に一度、6月の頭に台湾で行われる展示会で、きわめて多くの(ハードウェア・ソフトウェアそれぞれの)新製品が発表される場です。今年はUbuntuに直接関係ないものも含めると、AMD Athlon II・PhenomIIシリーズの新プロセッサや各種Netbook・さらにWindows 7の発売日などもこのタイミングで行われています。
(2) Sandisk 製SSDを採用されるNetbookが開発中
CanonicalとSandiskが協力して、 Ubuntuに「Sandisk 製SSD向け」の設定 が準備されます。
Sandiskは各種リムーバブルメディア(SD・CF・Memory Stickなど)でお馴染みのメーカーですが、NANDメモリを利用したSSDも開発を進めて います。
SSDはHDDとは幾つかの点で特性が異なる(書き換え可能回数に上限がある・ランダムアクセス性能が高いので、デフラグが必要ない・ATAのTRIMコマンドの送出による、「 もう必要ない領域」の通知等)ため、OS側で「HDDとは異なる扱い」をする必要があります。
CanonicalとSandiskが連携することにより、( 少なくともSandisk製のSSDについては)適切な利用が行えるようになり、SSDの性能や寿命をより引き出せる状態になることが期待できます。これは同時に、Sandisk製品以外のSSDに対して有効なアプローチになる可能性があります。もちろん最終的にはSandisk製SSDの方が適切に処理される可能性は高いのですが(特に、ATAのTRIMコマンドは実装の有無によって扱いが変わるため、Sandisk製品以外のSSDではうまく機能しきらない可能性があります) 、SSDのためのチューニング はすでに仕様が書かれており、技術的な問題がなければ9.10に取り込まれる予定です。
なお、今後どうなるかは不明ですが、少なくともHPのMini1000 Netbookシリーズの8GB SSD/16GB SSDモデルなどの内蔵SSDはSandisk製でした[3] 。この提携による機能強化により、Ubuntu+Sandisk SSDの採用事例は今後増えていくと思われます
[3] さらに、Mini1000シリーズには、「 MIE(Mobile Internet Edition) 」という、Ubuntu MobileのHP独自拡張版(“ The Dennis Project ” )が含まれていました。
(3)UNRなどのNetbook環境向けのReal Playerが登場
RealNetworksが、UNRなどのNetbook環境向けのReal Player、「 Real Player for Mobile 」のリリースをアナウンスしました。
これにより、UNR(Ubuntu Netbook Remix)を利用した環境でも、専用のアプリケーションによって快適に動画を視聴することができるはずです。狭い画面・Atomプロセッサのような非力なCPUでも快適に利用できるチューニングが行われていることが期待できます。
ただし、RealNetworksのニュースリリースには、CanonicalやUbuntuの名前は含まれていません(ライバルにあたるXandrosなどの名前はあります) 。「 実はRealPlayer for MobileがUbuntuにも対応するというだけ」という微妙な話なのか、それとも何らかの隠し球が用意されているのかは、現状では不明です。
(4)Classmate PCにUbuntuが導入
(4) Canonicalは、IntelのClassmate PCのOSとしてUNRを提供 します。
Classmate PCは、「 OLPC」プロジェクトの対抗としてIntelが開始した、「 世界中の小学校などの教育機関で利用できる、児童が利用するのに適したPC」の名称です。
「Intelが提供するClassmate PC」は、各ベンダが実際にリリースするClassmate PCのリファレンスデザインにあたります。これをもとに各地域で展開するベンダが独自に調整し、その上で「○○のClassmate PC」といった形でリリースされます。実際にリリースされている機種は、Classmate PCのサイト で確認できます。
こうした背景から、必ずしもIntelのClassmate PCへの採用が「全てのClassmate PC」への展開を意味するわけではありません。が、リファレンスデザインのOSのひとつとして採用されることで、相応の地域で「Ubuntuが導入されたClassmate PC」が展開されることが期待されます。
(番外)多くのARMデバイスがリリース
COMPUTEX TAIPEI 2009では、ARM関連の新製品として、Qualcomm Snapdragon・NVIDIA Tegra・TI OMAP2*/3*・Freescale i.MX3*を搭載したNetbookやTabletなどがリリースされています。ARMデバイスの多くはDebianやUbuntuを動作させることが可能ですので、今のところUbuntuには直接関係ないものの、何割かはUbuntuがプリインストールされる可能性[4] があります。
HPPAのEOL
Ubuntuの対応アーキテクチャのひとつ、HPPA(PA-RISCをCPUとして搭載した、HP製メインフレーム・オフコン・ワークステーション向けハードウェア[5] )のサポートが終了(end-of-life; EOL)しました。HPPAアーキテクチャは9.04が最後のリリースとなり、既存の6.06LTS・8.04LTS・8.10・9.04についても、ビルドはベストエフォートで行われます。これによりパッケージの提供は他のアーキテクチャよりも遅くなるはずです。
この分の作業リソースは他のアーキテクチャのサポートに利用される予定です。
[5] HPPAは、そもそもハードウェアのレベルで出荷台数の多いアーキテクチャではありません。おそらく、ごく一部の企業や好事家をのぞくと、ほぼユーザーはいなかったものと思われます。PA-RISCそのものも2005年6月のPA-8900 のリリースを最後に新しいプロセッサのリリースは行われておらず、アーキテクチャ全体がメンテナンスフェーズに入っています。今後新規にユーザーが増える可能性も低いと考えられます。
Ubuntu MIDはMerベースになります
Ubuntu MID Edition(MID; Mobile Internet Device。一部の通信機能付きPDA、たとえばZaurusなどのような、「 小型の、インターネットに接続して利用することが前提のデバイス」を意味します)は、これまではMoblin v1をベースにしていましたが、9.10からは「Mer」をベースにしたものとなります。このための下準備にあたる作業 が開始されています。
MerはHildon(これまでのUbuntu MIDでも使われていたMobile環境向けのウインドウマネージャ)をベースにした、MID向けのLinuxディストリビューションです。もともとはNokia N8**シリーズ をターゲットにしたLinuxディストリビューション「Maemo」をベースにしており、MerはMaemoの「Nokia以外のデバイスへも導入できるようにしたもの」です。
Ubuntu MIDでどのような形になるかはまだ不明ですが、ベースとなるMerのスクリーンショットは、Maemoのサイト で確認できます。
KMSのテスト
9.10で導入される機能の一つに、「 KMS」( Kernel Mode Setting )ドライバという機能があります。
これはLinux Kernelのレベルでグラフィックドライバを読み込んでしまうことで、これまでのようにKernelの起動完了を待ってからXを起動し、Xからグラフィックドライバを有効にする(Kernelが起動している間はusplashで誤魔化す) 、というアプローチに代わり、「 GRUBからKernelが呼び出された時点でグラフィックドライバを有効にする」というものです。これにより、起動時点から高解像度の画面を提供することができます。
この機能はさまざまな機種依存の問題が発見されることが予測されているので、9.10に導入する前に、いろいろな環境での動作状況を集めるべく、テスト が開始されました。
KMSを使ってみたい方や、お持ちのハードウェアが特殊なものである自信がある方、いわゆる人柱になるのが趣味の方はテストに参加してみると良いでしょう。なお、intel環境では通常の場合に比べて、ドライバのアップデート他いくつかの作業が必要となります。
UWN#144
Ubuntu Weekly Newsletter #144 がリリースされています。日本語版 も翻訳作業予定です。
Full Circle Magazine #25
Ubuntuに関する月刊のWebマガジン、Full Circle Magazineの#25 がリリースされています。今回の主な内容は次の通りです。
ターミナル操作のすすめ。今回はシェルの履歴機能と、エイリアスの使い方、そしてスクリプトによるプレイリストの作成方法です。
HowTo: Inkscapeの使い方、Part2。今回もCircle Of Human(Ubuntuのロゴ)を作成するHowToが続きます。
HowTo: VirtualBoxの使い方。VirtualBoxでgOSを動かします。
HowTo: ゲーム環境向けのチューニング方法。Wineを使って動かす、BllizardのStarcraft専用のXの起動方法の紹介です。
Kubuntuのファーストインプレッション記事。
などなど。
Full Circle Magazineは平易な英語と、豊富なスクリーンショットにより日本人でもそれほど苦労なく読むことができるはずです。興味のある方は、実際にページを開いて確認してみてください。
その他のニュース
今週のセキュリティアップデート
今週のセキュリティアップデートはcronのアップデートのみです。CVE-2006-2607の一部として扱われていますが、このCVE識別番号で取り扱われる本来の脆弱性よりも影響範囲が小さいもので、root権限の奪取は不可能です。ただし、複数のユーザーが利用する環境では、アップデートを行った方がよいでしょう。
usn-778-1 :cronのセキュリティアップデート
https://lists.ubuntu.com/archives/ubuntu-security-announce/2009-June/000906.html
現在サポートされている全てのUbuntu(6.06 LTS・8.04 LTS・8.10・9.04)用のアップデータがリリースされています。CVE-2006-2607 としてLP#46649 で報告された、複数回fork()した後に、cron内で行われる権限チェックのうち、setgid()とinitgroups()の遷移もれを修正します。これにより、ローカルユーザーが任意のグループの権限を奪取することが可能でした。より致命的な結果をもたらす、setuid()の遷移漏れ(によるroot権限の奪取)はすでに修正されているため、この問題による影響はグループ権限の奪取に留まります。
対処方法:通常の場合、アップデートを行うことで問題を解決できます。