9.10の新機能(『ほぼ』確定版)その2
前回 に引き続き、今回も9.10の新機能を見ていきましょう。なお例によって、“ 「やっぱり無理」というコメントとともに10.04に延期される” というケースはありえますので、あくまで『ほぼ』確定、ということに注意してください。
Wubiの強化
9.10ではWubiが強化され、「 Wubiからの実パーティションへのインストール」( Wubiで使っていた環境を、そのまま「HDDに普通にインストールした」Ubuntuへ移行できる)がUbiquityの機能の一部に組み込まれ、より簡単に設定できるようになります。また、Intel Macへの対応(BootCampにならって、“ UbuntCamp” と呼ばれます)が行われます 。
なお、「 WubiにPotrableUbuntuを組み込む」というアイデアも存在していましたが、coLinuxカーネルをUbuntuカーネルに組み込むことが非現実的なため(有効なcoLinuxパッチは2.6.22ベースで、しかも強烈かつ無茶なパッチが含まれており、もはや片手間で何とかできるレベルを超えているので) 、Kernel Teamのエンジニアを割り当てるだけの余裕がないこともあり、採用は見送られています。
Kickstart Updates
Ubuntu・Debianでは、Red Hat系ディストリビューションと同じように、Kickstart ファイルの記述による自動インストールをサポートしています。しかし、これはKickstartファイル(.ks)の記法がRed Hat Linux 9時代のものとしか互換性がなく、RHEL5 ベースのKickstartに比べるとサポートされている機能が非常に少ないものでした。
9.10では、Kickstart機能が強化され 、RHEL5と機能・記法の面で互換性を持つようになります。ただし、iSCSIサポート(iSCSIでマウントしたディスクへのOSインストール)はまだサポートされません。これにより、大規模なサイトで「まっさらなサーバーにOSを自動インストールして本番環境に配備する」といったオペレーションが行いやすくなるでしょう。
初期設定の明確化(oem-config)
UbuntuのAlternate CDのインストーラ(d-iベース)には「oem-config」と呼ばれる、「 OEM業者が、PCにUbuntuをプリインストールして販売する」ための設定モードが存在します。この機能を使うことで、Windows PCを開梱して電源を入れた際に表示されるような、初期ユーザーの登録・タイムゾーンの設定・キーボードの選択といった、いわゆる「初期設定画面」を表示させることができるようになっています。
が、この機能はまだ十分にこなれておらず、「 PCを買ってきたユーザーがいきなり目にする画面」としては不十分だ、という要望が挙げられていたようです。具体的には、「 タイムゾーンとして100個以上の候補が出てくるのは止めてほしい」 ・「 キーボードの選択画面が初心者には分からないし、そもそもOEMはキーボードをセットで売るのが普通だから、もっと絞った選択肢でいい」 ・「 言語パッケージのセットアップにはネットワーク設定が必要なのに、無線LANの設定画面を呼び出す方法がなく、そこで詰んでしまう」「 タイムゾーンの選択肢の中にハワイがない」「 タイムゾーン選択画面で地図をクリックしても反応がない都市がある」などです。また、oem-configを利用するにはAlternate CDを使う必要があり、これも不評を買っていました。
そこで9.10では、oem-config の機能強化が行われ、Ubiquityからoem-configを導入する設定が行えるようになり、さらにこれらの要望が取り込まれたものに更新される予定です。Ubuntuをプリインストールして販売する場合には役に立つことでしょう。
Server installerの機能強化
Ubuntu Serverのインストーラが強化され 、インストール時にLVMとMDを併用した設定が可能になりました。( ホームだけでなく)パーティション単位での暗号化も可能となっています。また、インストール時にEucalyptusのセットアップが可能になっています。
9.10の開発状況
Alpha6やベータを目標に、搭載される仕様やデザインの一部がテスト可能になりつつあります。今週発生した大きな動きは次の通りです。
Ubuntu Oneのローンチ
9.10でOS本体にクライアントが組み込まされた状態で公開される『Ubuntu One』サービスを提供するサイトのURLが、「 https://ubuntuone.com」から「https://one.ubuntu.com」に
変更され 、名実共にUbuntuの公式サービスの一つとして稼働を開始しました。Ubuntu Oneは、Dropboxに似たオンラインストレージサービスです。LaunchpadのアカウントをOpenID認証として用いますので、利用にはLaunchpadのアカウントが必要です。
現時点ではUbuntu用のクライアントしか存在していませんが(ブラウザから利用することは可能です) 、プロトコルは公開されており、いずれWindows用のクライアント等も公開されるはずです。
UNRのUI基本部分完成
9.10版のUNR(Ubuntu Netbook Remix)の主要ソフトウェア が
ここからブラッシュアップが行われ(さらにUNRの場合は「サポート対象」となるネットブックの選定とテストが実施され) 、リリースに向けて完成度を高めていく作業が行われます。
なお、試すのに少々覚悟が必要ですが(色々な事情で「リリースされるだけで、リリース後のサポートは提供されない」という位置づけになっています) 、UNRのライバルにあたるUbuntu Moblin Remix のDaily Buildも存在します。それなり以上に覚悟して試さないと「なにも動かない」可能性もありますが、試せる環境[1] がある方はテストしても良いでしょう。
[1] MoblinはAtom搭載ネットブック以外の環境(や、仮想環境)では起動させることすら困難なので、「 Atom搭載のネットブックが余っている」必要があります。また、しばしば内蔵無線LANが認識されず、「 無線LANを使うにはアップデートが必要だが、アップデートにはネットワーク接続が必要」といった問題に遭遇することもあり、USB有線LANの追加購入を強いられる可能性もあります。
[1] なお、リリース品質に耐える形で実装できなかった等の理由で、「 リリース版には含まれていません」という展開もありえます。ただし、Ubuntu Moblin Remixは現状「UbuntuのコアパッケージにMoblin(Clutter)の“ ガワ” を追加したものなので、本家Moblinよりは多くの環境で動作するはずです。
なお、日本語ロケールでインストールしようとすると、日本語フォントが含まれていないために文字がトウフになってしまいます。インストール時は英語ロケールを用いて、インストール後に「language-support」をインストールし、日本語入力設定を行ってください。
Ubuntu Weekly Newsletter #158
Ubuntu Weekly Newsletter#158 がリリースされています。
その他のニュース
今週のセキュリティアップデート
今回リリースされているPAMの脆弱性は、一般的な環境で問題になることはありません(意図的に「そうした環境」にするのでなければ、偶然同じ環境になることはほとんどありえません) 。一般的な環境では「次の機会のアップデート」で適用すれば問題ないでしょう。
Ubuntuに限らず、なんらかのソフトウェアの開発者になりたいと考えている方は、セキュリティ的な問題点よりも、「 どうしてそうしたバグが発生したのか」という技術的な興味があるなら、追いかけてみることをお勧めします。
usn-828-1 :pamのセキュリティアップデート
Ubuntu 8.10・9.04用のアップデータがリリースされています。LP#410171 で報告された問題を修正します。
標準的な設定と大きく離れた環境(debconfの設定にreadlineベースのインターフェースを使うように設定しており、かつlibterm-readline-gnu-perlがインストールされていない状態)で、priorityとしてlowもしくはmediumを指定した場合にPAMの設定が不正なものになり、全ての認証が自由に通過できるようになってしまうことがありました。この現象が発生した場合、GDMログイン・SSHログイン・sudoなどを自由に利用できてしまう状態になります。
対処方法:通常の場合、アップデータを適用することで問題を解決できます。
備考:Ubuntuを通常通りインストールし、debconfの設定を明示的に修正していない場合はこの問題に遭遇することはありません。