短い構築時間、地理的・時間的にすぐには集まれないメンバー……、本章では実際のネットワーク構築にあたって直面した課題をCONBUがどのように解決してきたかを紹介します。また、カンファレンス参加者との接点を作り、CONBUとの交流を深めてもらうための新たな試みもお伝えします。
会場ネットワーク構築の実際
CONBUは、前身であるLLNOCを含めると、本当にさまざまな会場でのネットワーク構築に挑みました。その中で遭遇した共通的な課題と解決方法を紹介します。
開場まで1時間!?
カンファレンスの開催期間は、カンファレンスの規模に比例して長くなる傾向があります。大規模なカンファレンスであるほど会場ネットワーク構築の難易度が高くなると思われがちですが、実際には小規模なカンファレンスのほうが難易度が高いです。なぜならば、大規模なカンファレンスは開催前日に会場設営のための時間が設けられていることが多く、現場でのトラブル対応やテストを行う時間の余裕がありますが、小規模なカンファレンスではそういった時間が確保されていないからです。前日の設営時間など存在せず、スタッフの会場入りからカンファレンスの開会時間まで1時間程度しかなく、設営できる時間が45分と非常に短いこともありました(図1)。
さすがに設営時間が短すぎるため、主催者さんから「お昼ごろに提供できれば良いですよ……」とご配慮いただけたものの、そこは何とかして、カンファレンスの開会宣言までには会場ネットワークを提供したくなるのがCONBUです。そこで会場ネットワークの設営工程と費やした時間を分析したところ、「開梱/梱包作業」と「トラブル対応」の2つがとくに多くの時間を占めていることが判明しました(図2)。
開梱/梱包作業
会場ネットワークを構成する機材の中で、もっとも数が多い機材は無線AP(アクセスポイント)です。1カンファレンスあたり、予備機材も含めると約30台の無線APを会場に持ち込むため、30回の開梱作業と梱包作業が発生します。とくに無線APは精密機器となりますので、これでもかというくらいに緩衝材に包まれており、開梱/梱包作業にかなりの時間と労力を消費します。これを改善するには、複数の無線APが収納可能で、1台1台を緩衝材に包まなくても衝撃から保護され、蓋を閉めるだけで発送が可能な無線AP収納箱が必要となります。残念ながらそのような都合の良い製品は世の中になかったので、自分たちで設計して作ることにしました(図3)。
作成には、折りたたみコンテナ、プラスチックダンボール、緩衝材のクッションを用い、すべて手作業で作りました。上下方向の緩衝にはクッションを、水平方向の緩衝にはクッションと仕切りのプラスチックダンボールそのものが緩衝材となるしくみです(写真1)。実際に使用してみたところ、20分ほどかかっていた開梱作業が1分程度で終えられるほどの効果を発揮しました。また、1箱あたりの無線AP収容数は18台と台数が決まっているため、一目で機材の数を確認できます。最近では会場ネットワーク設計の議論を行う際、「無線APは何箱必要かな?」という感じで浸透しつつあります。これにより、開梱/梱包作業にかかる時間の短縮に一歩踏み出すことができました。
トラブル対応
会場ネットワークの設営時に発生するトラブルは本当に困ります。ただでさえ配線や機器設置に追われている状況なのに、さらにトラブルシューティングまで加わると心が折れてしまいそうになります。しかし、大半のトラブルは事前の準備不足に起因するもので、準備を十分に行っておけば回避できるものばかりです。そうとわかっていても、事前準備を十分に行うことにもまた困難が伴います。会場ネットワークの事前構築やテストなどの準備は1週間ほどの時間を必要としますが、CONBUに所属するメンバーは会社や勤務地、そして勤務時間もバラバラなのです(図4)。
このため、事前構築やテストに何日も同じ場所へ集合するのはとても難しく、有休を使ってまで事前準備をしたり、準備不足のまま本番に突入してしまうことも珍しくありませんでした。
そこで考えたのが「オンライン事前構築」です。
会場ネットワークに必要な機材をインターネット回線がある場所へ集め、物理的な配線とリモートログインのみできるような最低限の設定だけを済ませ、本格的な設定やテストはインターネット越しに行うという方法です。リモート設定ですので、フィルタやインターフェースの設定を間違えないよう細心の注意を払う必要がありますが、空いた時間にどこからでも作業を進められるのはとてもすばらしいことです。結果的に設定やテストにかける時間を多く確保できるので、事前準備を満足にできるようになりました。
このようにとても地味ではありますが、CONBUはひとつひとつの小さな課題を解決することで、よりコストパフォーマンスの高い会場ネットワーク構築手法の確立を目指しています。
来場者との接点を増やすために
CONBUの理念として、「ネットワークの提供を通してコミュニティを超えた人の交流を大切にする」が挙げられます。これは、カンファレンスの運営者や来場者と交流することで、他業界の情報を得たり、人とのつながりを増やすことで視野を広げたいという思いからきています。しかし現状は、カンファレンスの運営スタッフさんには仲良くしていただいているものの、来場者との交流はあまりできていません。これはCONBUが会場のインフラ担当に納まっているためで、インターネットという土管しか提供していないのが原因だと捉えています。この状況を打開するため、CONBUから何らかのコンテンツを発信することにより、もっと来場者のみなさんと交流することができないかと考えています。
CONBUが提供できるコンテンツの1つとして、会場ネットワークの情報をAPIにより提供する計画があります。具体的には次の情報提供を考えています。
- 装置固有ID(MACアドレスは特定できない形に加工)
- 装置固有IDの電波強度
- APごと、またはスイッチごとのトラヒックレート
- APごと、または全体の端末接続数
- アクセス先(ドメインレベル)
これらを提供することで、次に挙げる例1、2のようなコンテンツの提供が可能となるかもしれません。
例1:あの人は今どこ?
会場地図と無線APの位置をマッピングし、どの端末がどの無線APに接続しているかをリアルタイムに取得することで、誰がどこにいるかを把握できます(図5)。もちろんプライバシーに配慮し、位置情報の発信希望者のみに適用できるようOAuthなどと組み合わせます。これにより目的の人がどこにいるかを知ることができます。
例2:お友達かも?
複数の発表会場にわたるマルチトラック方式のカンファレンスに適用できるコンテンツです。前述の「あの人は今どこ?」と同じように会場の地図と無線APの位置をマッピングし、来場者の端末がどの無線APに接続しているかをリアルタイムで取得します。これにより時刻ごとに来場者がどの部屋にいるかを把握できるので、聴講している発表プログラムを割り出すことができます。ここから同じプログラムを聞いている人のクラスタ化を行い、「一定回数同じプログラムを聞いている≒同じ興味を持っている」と捉え、興味が似ている来場者同士をあとから提示することで、懇親会などで盛り上がってもらうというものです(図6)。
これらは構想や試作段階です。ネットワーク情報を取得できるAPIを提供することで、例1、2のようなコンテンツの作成が可能だと考えています。また本誌を読んでいるみなさんは、我々が思いつかないすばらしいアイデアをお持ちだと思っています。もし、みなさんのお知恵を拝借できるなら「こんな情報をAPIで取得できると、こんなコンテンツが作れるよ!」ということを教えていただけると助かります。
まとめ
CONBUは2014年の結成より1年が経過しようとしています。この間、さまざまな団体様、企業様、そしてCONBUに携わってみたいと思ってくれた人々から多大なご支援、ご理解をいただき今日まで歩んでくることができました。この場をお借りして感謝いたします。今後もCONBUは、「ネットワークの提供を通してコミュニティを超えた人の交流を大切にする」を軸に、カンファレンスネットワークの構築を継続していきます。
新しいチームメンバの募集について
CONBUの一員、プロジェクトチームメンバーとなって、会場ネットワークを構築してみたい熱い方を募集しています(会場ネットワークを作ってみたい若手の方、現場を離れているものの久しぶりに手を動かしてみたい方……)。詳しくはhttp://conbu.net/をご覧ください。