実践!仮想化ソフトウェア 2010 Updates

第1回2010年の仮想化ソフトウェア概観─各ソフトウェアの特徴と最新動向

2010年は仮想化のコモディティ化を受けて、さらに仮想化の導入が進み、仮想化することが当たり前になりつつある1年といえます。その中で、各種仮想化ソフトウェアも少しずつですが変化してきています。まず連載第1回の今回は、この1年間で各ソフトウェアがどのように変わったかを解説します。

VMwareが「vSphere 4.1」にマイナーバージョンアップ

昨年メジャーバージョンアップが行われたVMware vSphere 4が4.1にマイナーバージョンアップしました。

今回のバージョンアップの最大のポイントはこれまで有償ライセンスとしてAdvancedエディション以上でないと使用できなかった「VMotion」⁠ライブマイグレーション機能)が最廉価のStandardエディションでも使用できるようになったということでしょう。ライバルの他社製品がすべて無償か最廉価版でライブマイグレーション機能を備える中、VMwareとしても差別化要因にはできないという判断が働いたのでしょう。

その他の変更点をリリースノートから拾っていきましょう。

今後のバージョンアップではESXiのみとなっていく

現在のハイパーバイザーはサービスコンソールという一種の管理用OS環境が動作するESXと、サービスコンソールが無いESXiの2種類が用意されていました。vSphere 4にバージョンアップする時点でESXiのみになると言われていましたが、実際にはESXも提供されていました。今後ESXiのみになるということが改めてアナウンスされたので、これからバージョンアップや新規導入する場合には、ESXiで導入を行っておいた方がよいかもしれません。

I/Oのコントロールが可能になる

リソースのコントロールとしてこれまではCPUの優先度などが変えられましたが、ストレージおよびネットワークのI/Oがコントロール可能となりました。

メモリ圧縮

これまでのメモリ管理ではメモリ不足の際に不要なメモリをストレージにスワップアウトする方法しか無かったため、メモリが不足した場合に大幅に性能が劣化することがありましたが、不要なメモリを圧縮して待避できるようになりました。待避先もメモリのため、ストレージへのスワップアウトほど性能が劣化しないで済むようになります。

全体的に見て、それほど大きな変更点はありませんが、I/Oのコントロールは要望の多かった機能ではないでしょうか。いずれにしろ、VMware vSphereの基本機能はかなり変化が少なくなってきており、今後はVMware FTのような高可用性を実現する機能や、クラウドを構築するためのAPIサポートなどに軸足が移っていきそうです。

Citrix XenServer 5.6にバージョンアップ

Citrix XenServerがバージョン5.6となりました。5.5から5.6ですのでマイナーバージョンアップに見えますが、実際には管理コンソールである「XenCenter」のユーザインターフェースが大幅に変わったことで、メジャーバージョンアップのような印象を受けます。

XenCenterの管理コンソールのUIが大幅に改良された

XenServerの管理はXenCenterで行いますが、これまでのバージョンではやや使いにくさが残っていました。しかし新しいバージョン5.6では管理コンソールのインターフェースが大幅に変更され、より使いやすくなりました。

ストレージ周りが使いやすくなった

前のバージョンでは仮想マシンの利用するストレージの管理が独特であったことや、光学式ドライブが取り扱えないなどの問題がありましたが、バージョン5.6ではこの部分が大幅に改善されました。

仮想マシンのスナップショットをサポート

Xenは仮想マシンのスナップショット機能のサポートがなぜかとても弱かったのですが、XenServer 5.6ではきちんと仮想マシンのスナップショットをサポートするようになりました。

Dynamic Memory Control(DMC)のサポート

DMCは仮想マシンに割り当てたメモリを動的に増減させる仕組みです。メモリのオーバーコミットと呼ばれる機能を実現します。

XenServerもハイパーバイザーのレベルでは大幅な機能追加はありませんでしたが、管理コンソールのXenCenterが大幅に改善された点が大きな変更でしょう。

Linux KVM

Linux KVMはLinuxカーネルに組み込まれている仮想化機能のため、バージョンが把握しにくいのですが、Fodoraを見ているとLinux KVMの新しい機能が使えるようになっているのが分かります。Fedora 13では、以下のような機能が取り込まれています。

vhost-netによるネットワーク性能向上

仮想ネットワークの性能を向上させる機能。具体的にはシステムコールの呼び出し回数を減らしてオーバーヘッドを少なくする仕組みを提供する。

Virt x2apicのサポート

x2apicはAPICアクセスを高速化する仕組み。このサポートによるゲストOSの実行が高速化される。

KVM Stable PCI Addressesのサポート

仮想マシンの設定が変更されてもPCIアドレスが変更されないようにする。Windowsが再アクティベーションを要求しないようになる。

Virtio-Serialのサポート

仮想マシンで複数のシリアルI/Oのサポートを可能にする。

XenからLinux KVMへのマイグレーションをサポート

既存のXen上で動作する仮想マシンをV2Vマイグレーションする仕組みを提供する。

Linux KVMはその性質上、バージョンアップで変化する点は実装レベルの細かい改善点が多いといえます。ユーザの立場からすると、ディストリビューションの種類やバージョンのレベルでおおまかに追いかけておいた方がわかりやすいかもしれません。

Hyper-V

Hyper-Vは現時点ではバージョンアップしていませんが、今後リリースが予定されているWindows Server 2008 R2 Service Pack 1ではDynamic Memoryのサポートが予定されています。

Dynamic Memoryのサポート

Dynamic MemoryはXenServerのDMC同様、仮想マシンに割り当てられたメモリを動的に増減させる仕組みです。メモリのオーバーコミットメントがサポートされます。

全体としての動向

CPUのマルチコア化が進むと共に、1台のサーバーマシンに数多くの仮想マシンを稼働させたいという要求が高まってきています。メモリも徐々に大容量、低価格化していますが、現実的なコストでのバランスを考えると限界近い大容量のメモリを搭載するのは困難です。このような状況を背景に、各ソフトウェアともにメモリの効率的な利用を促進する機能を強化しているのが最近の状況と言えます。

仮想化環境の設計においても、メモリ容量、そしてI/Oの性能を中心に設計を行うと良いでしょう。

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