第1回の今回は、Zabbixの概要とZabbix 4.0の新機能の概要、その中でもWebインターフェースの改善について解説します。
統合監視ソフトウェアZabbixとは
Zabbixはヨーロッパのラトビアという国で開発されているオープンソースの統合監視ソフトウェアです。サーバーやネットワーク機器、アプリケーションの稼働状況やリソース使用状況を一元的に行う監視サーバーとして動作します。システム全体の稼働状況を定期的に確認し、収集したリソース使用状況をグラフ化して確認したり、あらかじめ閾値設定を行っておくことで障害検知を行わせ管理者に通知メールを送信することが可能です。
Zabbixは以下の機能を有しており、システム全体の稼働監視を一元的に行うことができ、オープンソースとしてすべての機能を無償で提供していることが特徴です。有償製品と比較しても劣らない機能を有しながら、無償で利用できる監視ソフトウェアとして近年利用ユーザーが増えています。
Zabbixエージェントを利用したサーバー監視(Windows, Linux, Solaris, AIX, HP-UX, FreeBSD, NetBSD, OpenBSD, MacOS)
Ping監視、TCPポート監視
リソース監視やプロセス、サービスの監視
ログ監視
SNMP v1/v2c/v3を利用したネットワーク機器やストレージ装置などの監視
SNMPトラップ監視
IPMIを利用したサーバーのハードウェア監視やJMXを利用したJavaアプリケーションの監視
Webページの閲覧可否の監視
メールやスクリプトによる障害通知
リソース使用状況(CPU、メモリ、ディスク、ネットワークトラフィック)などのグラフ化
ネットワークマップやグラフなどを配置して作成できるダッシュボードやスクリーン機能
また、開発はコミュニティベースではなく、Zabbix社が企業として開発を行っています。企業による開発を行なっているため安定して修正や新機能の追加を行えていることや、日本では子会社であるZabbix Japanを設立しており、必要に応じて公式な有償サポートやトレーニングなどのサービスを受けることもできるため、重要なシステムの監視サーバーとしても安心して利用いただくことが可能です。
Zabbixに関する情報について
Zabbixのリリースやドキュメントの参照、ソフトウェアのダウンロードなどはZabbix社の公式サイトから行えます。
その他にも以下の方法で最新の情報を取得できます。
Zabbixの構築を依頼したい、公式サポートやトレーニングに興味があるという場合もZabbix社サイトからご確認ください。日本では50社を超えるパートナー企業がおり、構築やアップデートの作業なども依頼することが可能です。
また、公式なサポートではありませんが日本Zabbixユーザー会コミュニティがあり、様々な情報交換を行っているためご参考ください。
Zabbixのリリースと2.2から4.0までの新機能
Zabbixは6ヶ月に1度のメジャーバージョンのリリースを目標に開発を行っています。また、3バージョンに一度LTS(Long Term Support )バージョンをリリースします。LTSリリースは標準で5年間の開発継続とサポート(( 日本国内では7年間のサポートを提供)を実施するバージョンであり、日本国内ではLTSリリースを利用しているユーザーがほとんどです。本記事の執筆時点で最新のメジャーバージョンは2019年4月2日にZabbix 4.2がリリースされていますが、直近のLTSリリースは2018年10月1日リリースの4.0です。
筆者は2019年7月10日に「Zabbix統合監視実践入門 -障害通知、傾向分析、可視化による省力運用- 」の第3版を出版しました。前の版である第2版から、Zabbix 2.4, 3.0, 3.2, 3.4, 4.0の各バージョンの新機能の解説を盛り込み、最新のLTSである4.0に対応しました。本記事では主にZabbix 2.2からの変更点を中心にZabbix 4.0で利用できる新機能を紹介します。
Zabbix 2.2から4.0までの間には、様々な新機能や機能改善が追加されました。特に利便性が高いものとして、主に以下の機能の改善が行われています。本記事では数回に分けて、以下の機能について具体的にどのような機能改善が行われているを解説します。
Webインターフェースの改善
ローレベルディスカバリの改善
保存前処理と依存アイテム
HTTPリクエストによる監視データ取得
イベントのタグ機能
監視データ取得を即時実行
障害の手動クローズと確認機能
Webインターフェースの改善
Zabbix 2.2から4.0の間に、監視設定を行ったり監視データの表示を行うWebインターフェースには主に以下の点が改善されています。主にデザインやユーザビリティの改善が中心ですとなりますが、いくつかのインターフェースは全く新規に作成されています。
デザインの刷新(3.0)
マップ、スクリーン、スライドショーの作成権限の改善と共有機能(3.0)
障害画面(3.2)
ダッシュボードの刷新(3.4)と新しいウィジェット(4.0)
タイムセレクタの改善(4.0)
Zabbix 3.0ではWebインターフェースのデザインを刷新しています。4.0では各設定画面の設定フォームで必須項目に赤い*マークを表示するようになるなど、細部についても改善を行っています(図1 ) 。
図1
Zabbix 3.0ではマップ、スクリーン、スライドショーの各機能について、ログインしたユーザーはアカウントの権限によらず自分用の設定を作成できるようになりました。スクリーンとは1つの画面にユーザー定義で複数のグラフなどを並べて配置できる機能(図2 ) 、マップはネットワークマップを作成できる機能です。
図2
これまでは設定権限を有しているユーザーがあらかじめ設定した画面のみ確認することしかできなかったものが、3.0以降ではログインしているユーザーであれば誰でも自分が参照するための設定を作成できるようになったことで運用中にもより活用しやすくなりました。また、作成したスクリーンやマップは設定により他のユーザーに共有することができるようになったことで、自身で必要な設定を作成したあと、便利なものであればチームに共有する、という使い方ができるようになっています(図3 ) 。この機能改善により、マップ、スクリーンの設定はWebインターフェースの上部のメニューでは「監視データ」メニューに移動しています。
図3
Zabbix 3.2以降では、発生した障害の確認には新しく作成された「障害」画面を利用します。以前のバージョンではWebインターフェースの上部メニューの監視データメニュー以下には「トリガー」と「イベント」という2つの画面がありました。それぞれ「現在発生している障害」と「障害の履歴」を表示する画面であったものが、3.2以降で作成された「障害」画面に統一されています(図4 ) 。
図4
障害画面は障害の発生と復旧を1つの行で表示するようになり、以前のイベント画面と比べてより障害の発生と復旧の対応が分かりやすくなりました。他にも以前から要望が多かった絞り込みのためのフィルター機能を大幅に強化し、深刻度やタグなどでも絞り込みが行えます。また、障害画面からアクセスできる、以前は「障害対応コメント」の名称であった機能は障害対応のための様々な機能改善が行われており、コメントを入力する以外にも活用できるようになりました。詳細は第3回の記事で紹介します。
Zabbix 3.4ではダッシュボードを刷新し、これまで表示される内容が固定であったものが、「 ウィジェット」をユーザー定義で配置して様々な情報を表示することができるようになりました(図5 ) 。新しいダッシュボードもスクリーンやマップと同様にすべてのユーザーが自身の設定を作成でき、他のユーザーに共有することができます。
図5
新しいダッシュボードで実施できることやウィジェットとして配置できる情報は、スクリーンを利用して表示できることとほぼ同様です。スクリーンと異なるのは各ウィジェットの幅や高さをより細かく配置できること、4.0で追加された新しい形式のグラフとマップナビゲーションを利用できることです。新しい形式のグラフは全く新規に開発したグラフ機能となっており、グラフの表示エリアをマウスオーバーすることでデータの詳細を表示するツールチップや障害の発生期間を表示したり(図6 ) 、表示するデータをアスタリクスを利用して指定するなど利便性が高くなりました。なお、今後は4.4以降のバージョンでスクリーンは廃止し、ダッシュボード機能を活用していく方向で開発が検討されています。
図6
また、Zabbix 4.0ではグラフや障害の表示画面で、表示期間を選択する方法も改善が行われています。以前のバージョンではスライダーを利用して操作する方式であったものを、よく使う期間はリンクから利用でき、期間を指定する場合は「開始」「 終了」の指定を柔軟に行えるように改善しています(図7 ) 。
図7
次回は監視データの収集機能関連として、ローレベルディスカバリの機能改善と保存前処理、依存アイテム、HTTPエージェントなど新機能について解説します。