ようやく、というか、今さら、というべきなのか、とにかくLinux/オープンソース関係者をほっとさせるには違いないニュースが飛び込んできた。8月10日(現地時間)、ユタ州の連邦裁判所が「UNIXの正式な著作権保持者(社)はNovellであって、SCOではない」という判決を下したのだ。4年以上に渡って続いてきた泥仕合も、そろそろ終わりの瞬間が近づきつつあるようだ。
OSS業界に燃え広がったSCOの訴訟問題
ご存知の向きも多いとは思うが、改めてこの「訴訟合戦」をざっと振り返ってみよう。SCO(正確にはThe SCO Group)がIBMを「AIX(IBMのUNIX OS)のソースコードをLinuxユーザに不当に開示している。これはSCOの知的財産の侵害だ」として訴えたのが2003年3月。唖然とするIBMやLinuxユーザに対し、「Linuxによって当社は得られるべき利益を逸している。Linuxを使い続けたかったらユーザは1CPUあたり700ドルをSCOに払え」というライセンス料金を突きつけた。当然ながらIBMは反論し、SCOの逆提訴に踏み切った。これに呼応するかのように、Red Hatも「Linuxの普及を妨げる違法行為には我慢ならない」としてSCOを提訴している。
だがIBMやRed Hat以上に憤慨したのは世界中のLinux/OSSユーザたちだった。SCOのCEOであるMcBride氏は2003年の来日記者会見で「GPLは問題だらけで知的財産の侵害も甚だしいライセンス。すぐに改定されるべきだ」とコメントしているが、よくもそんな恐ろしいことを口にできたものだと思う。とにかく一連のSCOの言動はコミュニティの怒りに火をつけ、それはすぐに燃え広がっていった。ふだんあまり表に出ることがない、あのLinus Torvalds氏さえメディアに登場し、「放漫経営のツケをオープンソースコミュニティに払わせようとする汚いやり方」とSCOを厳しく批判している。勢いあまったハッカーの手によるDDoS攻撃でSCOのサーバはダウン、広報窓口には苦情や嫌がらせが相次いだという。
SCOは1年後の2004年にLinuxのユーザ企業(ダイムラー・クライスラーなど)を訴え出るというさらなる行動に出る。SCOにとってみればIBMやユーザに対しての威嚇のつもりだったのだろう。だが、この脅しとも取れる提訴もすでに効を奏さなくなっていた。訴訟が始まってからもLinux市場は縮小することもなく、SCOに1CPUあたり700ドルを払う企業も名乗り出なかった。市場はすでにSCOの提訴を"ネグレクト neglect"していたのだ。
"UNIX"は誰のものか?
SCOが主張する「知的財産権」とはUNIXのソースコード(System V)だ。これは1995年、SCOがNovellからUNIX/UnixWareを購入したことに遡る。SCOはこれにより、著作権を含むUNIXに関するすべての権利を同社が有していると主張している。そしてLinuxにはSystem Vのソースコードが違法に使われているから知的財産侵害だ、という。
もし仮にLinuxのソースコードにSystem Vのそれが使われているとしたら、その部分を開示して証明せよという声が上がるのは当然だろう。だがSCOは頑なにそれを拒んだ。「とにかくLinuxのコードは違法だ」と繰り返すばかり。これにはLinus氏も「System Vのコードなんか、Linuxには1行もないってば。あるというならどこなのか示してくれよ」となかば呆れてコメントしている。
もうひとつ、SCOの主張を危うくしたのはNovellとの権利関係だ。SCOはUNIXの全権利を主張するが、Novellは「UNIXに関連する著作権までSCOに売却したつもりはない」という。つまりSCOの訴えはお門違いとばっさり切っているわけだ。SCOはもちろん反論、「1995年の取引で、UNIXのすべての権利は我が社のものになっている」とし、2004年1月にNovellを名誉毀損で訴えた。
そして4年の歳月を経て、司法は「UNIXの権利保持者はNovell」とはっきり認定した。NovellのシニアバイスプレジデントであるJoe LaSala氏は「この判決に非常に満足している」とコメント、「これによってSCO訴訟の大部分の片が付くのでは」との期待を寄せている。当然、SCOの勝利はない形で、だ。
ITジャーナリストやアナリストの間ではSCO訴訟のことをすでに"風化した事件"とみなしていた人も多い。だがオープンソース関係者にとっては、確信していた勝利だったとはいえ、手にした喜びはひとしおのようだ。The Linux Foundationのエグゼクティブディレクター James Zemlin氏は「これでLinuxが安全なソリューションということが証明され、ユーザは何の躊躇もなく選択することができるようになった」と言う。喉に刺さった小骨のごとく、やはり皆どこかでSCOのことを気にしていたのだろう。ユーザグループやコミュニティも喜びの書き込みでいっぱいだ。
SCOは8月13日の時点でまだコメントを出していない。