6月29日に全米で発売されたAppleのiPhone 。Steve JobsとAppleの巧妙なマーケティングもあり、発売される前から注目の的だった。日本やヨーロッパと違い、携帯電話を通話以外で使うことが一般的ではない米国において、スマートフォンであるiPhoneがどこまで受け入れられるのか、そこかしこで否定的な憶測もなされたりした。だが、全米中のApple Storeの前に長蛇の列を作った発売時のお祭り騒ぎに始まり、発売から2ヵ月経った現在も順調に売れ続けているという。日本円で最低6万円もする端末が、である。
ちなみにThe New York Timesの名物ITジャーナリスト David Pogueは、名曲"I Did It My Way"のメロディに乗せながら"I Want an iPhone" と歌い上げ、発売日の狂騒を面白おかしく伝えている。動画像はここ にあるので、興味のある方はどうぞ。
iPhoneは欲しいがAT&TはNO
だがしかし、iPhone自体は欲しくても、ある理由 からiPhone購入に至らない人々(長年のApple/Macユーザ含む)が米国には少なからずいる。もちろん価格のせいではない。彼らを非iPhoneユーザに踏みとどまらせているのは全米最大手の通信キャリアAT&T の存在である。そう、iPhoneユーザになるためにはAT&Tと契約しなければならないのだ。
日本の携帯通信キャリア3社も熾烈な競争を展開しているが、米国の通信業界も似たようなもので、やっと捕まえたユーザをヨソに持っていかれないように、各社ともあれやこれやと囲い込みの手を講じている。日本でもおなじみの家族割引制度や、長期契約と通話料金のトレードオフなどもそのひとつだ。
今年に入ってすぐ、AT&TはAppleとiPhoneに関する独占契約を結んだ。本当は契約したのはAT&Tの子会社であるCingular Wireless なのだが、AT&TはiPhoneを売るためにブランド名を「Cingular」から「AT&T」に変更した のだ。iPhoneという、この上ない差別化要素を手に入れられるならブランド名変更くらいお安い御用である。
さてさて、日本でも「ド○モ嫌い」「 バ○ク嫌い」な人々がいるように、米国にも「AT&Tなんて使いたくねー」と嫌がる人々がいてもおかしくない。iPhoneは欲しい、でもAT&Tはイヤだ…こんなとき、普通のユーザはどちらかを諦めるのだが、そのどちらも諦めないGEEKがニュージャージー New Jersey にいた。
バラして解決!ネットで公開
グレンロッ クGlen Rock に住む17歳の高校生George Hotz 、彼はどうしても家族割で使っているT-Mobile (AT&Tのライバル)でiPhoneを使えるようにしたかった。AT&TとT-Mobileは同じGMSネットワークを使用している。SIMロック を解除すればT-MobileのSIMカードでもiPhoneは動くはず…ということでHotzくん、半田ごて片手にiPhoneを分解し、格闘すること本人曰く「500時間」 、ついにiPhoneのSIMロックを外すことに成功する。T-MobileのSIMをiPhoneに挿すと無事に……動いた! "T-Mobile iPhone" の誕生である。すごいぞ、少年。
若さというのは本当にパワーそのものだ。こんなすごい成果を17歳のハッカーが自分の胸にだけしまっておけるわけがない。Hotzは自分のブログ でiPhoneのアンロックに成功したことを宣言しただけでなく、このアンロック方法を堂々と公開 した。つまり腕があるなら誰でもHotzと同じ方法でiPhoneのSIMロックが外せることになったのだ。もっともこの「腕がある」が重要で、ハード/ソフトに関する相当の知識がないと難しい。T-Mobile iPhoneどころか、数万円がゴミになる 可能性のほうが高い。Hotz自身は「非常にシンプルな方法」と言っているが…。
あなたにはバラす勇気があるか?
Hotzの"偉業"は瞬く間に知れ渡り、彼は多くのメディアから取材を受けた。もちろん顔出し&実名である。ここの画像 にもあるように、なんとも誇らしげな表情が印象的だ。いくつかのメディアはHotzがAppleまたはAT&Tから訴えられることを懸念しているが、当の本人は「何で? 訴えられるような違法なことは何もしてないよ。分解して、SIMカードを替えただけだもの」とけろり。この秋からロチェスター工科大学 Rochester Institute of Technology に通うというHotz、つい最近、この改造したiPhoneをeBayに出品した。代わりに手にしたものは…大学生の必需品というにはちょっとゼイタクな"Nissan 350" フェアレディZである。
現時点(8月29日)ではAppleもAT&Tも本件に関してノーコメント、Hotzに対しても何の措置も取っていない。なおHotz少年より前に、6人のメンバーから成るiPhoneSimFree.com というグループが、iPhoneのアンロックに成功したと公言している。彼らはこれでビジネスを行うつもりでいるため、その方法については公開しないという。