だいぶ間が空いてしまいましたが、この連載、ちょっと方向性を変えることにしました。これからしばらくは、Apple関連のこぼれ話を集中的に追いかけてみたいと思う。
断っておくが、筆者はMacユーザでもないし、Steve Jobsをカリスマのように慕う信者でもない。もっとはっきり言えば、Appleはあんまり好きな会社じゃない。ただ、一企業として見たとき、MicrosoftやIBMといった巨大企業、GoogleやYahoo!のような新興勢力、そういったほかのITベンダとは明らかに違う、何ともいえない独特の立ち位置を保っている不思議な存在だ。その“何ともいえない”部分を、Appleをめぐる動きを眺めながら、少しずつ解き明かせていければ、と思う。
目をつけたのは「マイクロプロセッサ」
現在、IT業界は買収や提携、分社化などの動きが激しい。有名なところではYahoo!をめぐるMicrosoftとGoogleの攻防や、OSS界隈ではビッグニュースになったSun MicrosystemsのMySQL買収、とにかくエンタープライズソリューションなら何でも買っちゃえ!という勢いのOracle、ハゲタカ株主にさんざん脅され、とうとう携帯事業を切り離さざるを得なくなったMotorola…まったくお盛んなことです。
一方、こういったにぎやかなM&Aの動きにほとんど、というか、まったく名前が出てこないのがAppleである。10年以上前、資金繰りが相当ヤバくなってMicrosoftに援助してもらったことはあったが、もちろん買収されるなんて事態にはならなかった。経営が好調な今、どこかに身売りするようなことは間違ってもないだろうが、不思議なのは、買うほうにも名前が上がってこないのだ。すでに相当な体力を蓄えているだろうに。
ところが、である。Forbes.comのニュースによれば、どうもつい最近、Appleはちょっとした“お買い物”をしたらしい。その会社はP.A. Semi、知る人ぞ知るファブレス半導体企業である。同社を率いるのはDan Dobberpuhl、今は亡きDECにてAlphaとStrongARMの設計のリードデザイナーを務めていたチップ業界の伝説的人物だ。
「伝説のアーキテクト」が率いるP.A. Semiとは?
おそらく“少数精鋭”という言葉がこれほどぴったりの企業もそうはないだろう。従業員は150人ほどだが、開発チームにはOpteron(AMD)、Itanium(Intel)、UltraSPARC(Sun)などに関わっていた連中がごろごろしているという。会社設立は2003年、2005年あたりから製品発表を始め、以来、省電力とコストパフォーマンスにすぐれたチップを世に送り出してきた。現在の主力製品であるデュアルコア64ビットプロセッサ「PA6T-1682M PWRficient」はわずか14Wの消費電力で2GHz動作という驚異的なパフォーマンスを実現しており、最近ではNECのストレージアレイにも採用された実績を持つ。
Forbesの報道によれば、AppleはJobs CEOが自らP.A. Semiの買収を指揮していたようで、自宅を交渉の場にしたこともあったとか。3年前からひそかに目を付けていたとあって、相当入念に準備したことが伺える。
気になるのは、P.A. Semiの技術がどういった形でApple製品に使われるかだ。さすがにあれこれ注文したIntel Core 2をMacから追いやることはしないだろう(たぶん)。新しいiPodやiPhone、それとも今後リリースする予定の製品に組み込まれる、と考えるのが妥当な線だ。いずれにしろ“省電力”というブランドイメージをもつポートフォリオを手に入れられたことはAppleにとって大きいはずだ。何しろApple製品、とくにノートブックのイメージといったら…(以下自粛。以前に比べてかなり改善されているのはもちろん知っています)
4月23日現在、まだどちらからも公式には発表されていないが、24日のApple決算発表で、何らかのアナウンスがあるかもしれない。Forbesによれば買収金額は2億7,800万ドル、最近の買収合戦で飛び交う数字に比べたら、かなりおとなしめである。今後、どう展開するかはわからないが、精鋭の開発部隊も含めてまるごと手にできるとしたら、けっこう“いい買い物”のような気はする。