物理サーバをクラウドサービスとして提供する、「 ベアメタル型アプリプラットフォーム」はどのような背景から生まれたのでしょうか。サービス提供元であるリンクの事業部長 内木場健太郎氏(写真1 ) 、技術開発部 有原武彦氏(写真2 ) 、営業技術 山本誠一郎氏(写真3 )の3人にお話を伺いました。
自動化へのこだわりから生まれたベアメタルサービス
――それでは、まずベアメタル型アプリプラットフォームをサービスとして提供することになった背景を伺わせてください。
内木場 :このサービスを開発するプロジェクトが始まるきっかけとなったのは、仮想サーバをクラウド上で提供するIaaS(Infrastructure as a Service)では、ほかのユーザの影響を受けることが多いというユーザの声でした。それを聞いて、ユーザが1台のハードウェアを専用し、その上で仮想サーバを動かす形にしたらどうかと思ったのです。しかし議論を重ねていく中で、仮想化は不要ではないかという話になりました。そこで、ハードウェアにOSを直接インストールして提供し、それをクラウド的に扱えるようにする形になったのです。そこからベアメタル型のサービスとして提供することが決まりました。
有原 :弊社ではこのサービスの前身として、物理サーバのパッケージサービスである「アプリプラットフォーム」というものを提供していました。こちらはいわゆるサーバ占有型のホスティングサービスでしたが、実は物理サーバのプロビジョニング作業を自動化するためのしくみを裏側で作り込んでいたのです。ベアメタル型のIaaSを提供するという話を聞いて、このしくみが使えるんじゃないかと考えたところから開発がスタートしています。
写真1 内木場 健太郎 氏
内木場 :コントロールパネルからの操作で物理サーバが使えるという意味では、実は従来のアプリプラットフォームとの大きな違いはありません。ただこれまでは、ユーザが物理サーバを直接コントロールすることはできませんでした。プロビジョニング作業の自動化などを図りつつも、裏側で我々が動いていたわけです。それに対し今回のサービスでは、ユーザが物理サーバをオンデマンドで制御できるしくみを整えました。本当の意味でのベアメタルクラウドにした点が従来のサービスとの大きな違いです。
山本 自動化にはこだわりましたね。物理サーバをセットアップするところから、返却された物理サーバをリソースに戻すところまで、我々がオンサイトで作業することは基本的にはない設計にしています。
内木場 それによって無駄なコストを省き、ユーザの方々に低価格で物理サーバを提供することが我々の狙いです。その一方で、以前のアプリプラットフォームからの強みであるサポートに関しては引き続き力を入れています。サポートの品質の指標は、何か問題が起きてから対応するのではなく、問題が起きる前から能動的に動いていけるか、ということだと考えています。物理サーバの構築や運用については自動化を進めていますが、サポートにはしっかりリソースを割いてサービスを運営しています。
物理サーバのメリットを享受し、デメリットを解消するための工夫
――ベアメタル型アプリプラットフォームを開発する上で、とくに意識したポイントはありますか。
有原 先ほどお話した自動化にもつながりますが、ユーザ自身で操作できる領域を広げるということです。たとえば障害が発生したとき、ベアメタル型アプリプラットフォームではコントロールパネルから過去のバックアップデータを使ってリストアできます。トラブルが発生してもユーザ自身で対応できるので、いちいち我々に復旧を指示し、実際に作業が行われるのを待つ必要がありません。サービス開発では、このあたりをとくに意識していました。
写真2 有原 武彦 氏
内木場 私が意識していたのは、ハードウェアは必ず壊れるという前提に立つことです。壊れたときに止まらないようにしたいわけですが、あまりコストはかけられないケースもあるでしょう。そこでバックアップ機能などで工夫し、何かが起こったときに迅速に復旧できるサービスを目指しました。
山本 物理サーバにはパフォーマンス面でのアドバンテージがある一方、障害が発生したときの対応が煩雑というリスクもあります。それに対してベアメタル型アプリプラットフォームは、障害が発生したらそのサーバを捨て、新しい物理サーバにバックアップデータをリストアするといった作業を自動的に行う「自動復旧」機能などを盛り込んでいます。このように物理サーバのデメリットを解消していることは、ベアメタル型アプリプラットフォームの大きな特長です。
これからのクラウド活用は仮想と物理の使い分けの時代へ
――ベアメタル型アプリプラットフォームの使いどころや、おすすめの使い方を教えてください。
内木場 やはり、わかりやすい例は、ソーシャルゲームのプラットフォームのようにパフォーマンスを求められる用途ですね。ただ、パフォーマンス以外の観点からでも物理サーバに対するニーズは大きいと感じています。たとえば、セキュリティなどの理由から、ほかの企業のサーバとはリソースを共有できない。しかし、サーバを自社の資産として持ちたくはない。そういった理由からお問い合わせをいただく機会が増えています。
山本 先日新たに追加した、データ消去証明書(図1 )も予想外に反応がありました。機密情報を扱うシステムでは、削除したデータが本当に消えていることの証明を求められるケースがあります。ですが、仮想化された環境で、データがさまざまな場所に分散して書き込まれているようなサービスでは、データの確実な消去の証明は難しいのです。その意味でデータ消去証明書は、物理環境ならではのサービスだと考えています。
図1 ハードウェア内に蓄積されたデータが完全に消去されたことを示す「データ消去証明書」 。ユーザが特定のハードウェアを占有する、ベアメタルクラウドならではのサービスといえる
内木場 サーバの仮想化技術はもちろんすばらしいものであり、それによってインフラ運用の考え方が大きく変わったのも事実です。とはいえ、それだけですべてをカバーできるのかというと、けっしてそうではないと思うんですね。そのように考えていくと、今後は使い分けになってくるのではと思います。たとえばパフォーマンスが要求される場面では物理サーバを利用し、一時的な使い方をする場面では仮想サーバを使うといった形です。しかし、今さらオンプレミスで物理サーバを運用するのはなかなか厳しいでしょう。そこでクラウドのように物理サーバを使える、ベアメタル型のクラウドサービスを活かせるのではないでしょうか。
ベアメタル型アプリプラットフォームの今後のロードマップ
――実際にベアメタル型アプリプラットフォームを提供して、ユーザの反応をどのように感じていますか。
写真3 山本 誠一郎 氏
山本 思ったよりも「ベアメタル」という言葉そのものが知られていない印象があります。なので、イベントやセミナーでも、まずベアメタルクラウドそのものの説明から始めていますね。
内木場 我々が実際にお客さまのところへ伺ってサービス内容を説明すると、「 こういうサービスを待っていました」と仰っていただくケースは多いですね。驚かれるのは、コントロールパネルからの操作だけでオンデマンドに物理サーバがプロビジョニングされる点や、バックアップの機能です(図2 ) 。バックアップはとくに高い評価をいただいていて、物理サーバでもこんなことができるんだと驚かれます。
図2 ベアメタル型アプリプラットフォームの特徴的な機能である「バックアップ」機能。サーバが異常なときは破棄して新しいサーバにリストアする自動復旧機能も提供する
有原 バックアップには特別な技術を使っているわけではなく、昔から実現されていたことの形を変えただけという認識なのですが、思いのほか評価が高いですね。
――ベアメタル型アプリプラットフォームの今後の展開について教えてください。
有原 一番近いところでは、仮想サーバの機能強化を計画しています。たとえば開発環境など、パフォーマンスはそれほど求められない用途でベアメタル型アプリプラットフォームをそのまま使うと、仮想サーバを提供する一般のIaaSと比べると割高になります。そこで仮想化技術を使って物理サーバのリソースを分割利用できるようにして、より柔軟に使えるようにしようという考えが背景にあります。現状でも、すでに物理サーバ上で仮想環境を構築するためのしくみは提供していますが、コントロールパネルから各仮想サーバのリソースを制御できるようにするなど、さらに機能強化を図っていく予定です。
内木場 クラウド上で物理サーバを提供するというと、どうしてもパフォーマンスが要求される状況を思い浮かべますが、我々はそれだけに限らないと考えています。用途の幅を広げるには、1台の物理サーバのリソースを柔軟に利用可能にする、仮想化機能の強化は非常に重要になります。その他、HA(High Availability)構成を可能にするためのしくみ、そしてファイアウォールをはじめとするセキュリティ関連の機能強化にも取り組んでいきます。
有原 ユーザからの要望が多いのは、仮想サーバのバックアップを物理サーバにリストアするV2P(Virtual to Physical)や、その逆のP2V(Physical to Virtual)ですね。たとえばスモールスタートでサービスを開始しようとする場合、仮想サーバからスタートできれば、よりコストを抑えられます。また、仮想サーバ上で検証環境を作り、それが完了した段階で物理サーバに展開して本番環境として運用するといったニーズもあるでしょう。このようなところも今後対応していきたいですね。
――本日はありがとうございました。