今回は「エンジニアとマネジメント」という話題について触れてみたいと思います。
「ラインに行ったら負け」なのか?
エンジニアもある程度成長してくると、30前後あたりでだいたいの人が「このままスペシャリストとしてやっていくのか、ラインとしてマネジメントにも携わっていくのか」という問題にぶちあたります。
わからなくもないですが、エンジニアには「ライン(マネジメント)に行ったら負け」というような風潮があります。職人と管理は相容れないような雰囲気ですね。
でも、エンジニアがみんなスペシャリストでやっていけるということは現実にはありません。もちろん会社によってもその比率は違いますが、某○ニーの子会社にいたころは、30歳(だったかな?)以降で選べる進路として、スペシャリスト1割に対してライン9割というような比率でした。
また、スペシャリストになれないからラインになるというネガティブな考え方をするのではなく、マネジメントをもっとポジティブに捉えることはできるし、実際そうだと筆者は思います。筆者は実際、これまでラインとして上に行くチャンスがあれば喜んでそれを掴んできました。
そこで、なぜ筆者はマネジメントをプラスに考えているのか、の理由を挙げてみたいと思います。
「正しいことをしたければ偉くなれ」
まず、自分の意見というか信念を通しやすくなる、というものがあります。
何かに技術的に取り組むとき、そこに絶対唯一の解があることはありません。だいたいの場合において複数の手段があるのが普通です。でもエンジニアというのは、自分の選択する手段が何らかの理由において正しいと思っているものです。もちろんそこで「いつもこうだから」とかでは駄目なのですが。普通はトレードオフで何を重視するかで決まるでしょう。
そして、筆者がマネジメントで上位に行くことが良いと思う最大の理由のひとつが、「自分の選択権が増える」というものです。「正しいことをしたければ偉くなれ」というのはどこかの映画のセリフですが、実際そういう面はあると思います。
次に、自分は差配できるリソースが大きくなる、というのも筆者は大きいメリットだと思います。特にインフラエンジニアの場合、リソースの大小による仕事の大小というのはあると思います。自分のアウトプットではなく、自分のチームのアウトプットによってより大きい仕事に携わることができるのは、プラスに考えられることでしょう。
また、自分がマネジメントするエンジニアが増えると、より自分がやりたいことができるようにもなります。自分がすでにマスターしているような事柄は部下にやらせることによって、自分はそれを何度もやらなくて良い、また部下はそれによって新しいことを覚える、という一石二鳥な面もあります。
エンジニアがマネジメントを嫌がる大きな理由として「マネジメントをすることで技術を追求する時間がなくなる」というものがありますが、少なくとも筆者の経験としては、マネジメントしているほうがより自分がやりたいジャンルや事柄の技術を追求する時間が増えました(まあ会議に何時間もかけるような組織の場合には違うかもしれませんが)。
他にもメリットとして、人に指導や教育をすることで自分のスキルが上がる、という面もあります。
これは経験したことがある人も多いと思いますが、なにか技術を習得した(と思っている)とき、結構実際には曖昧な状態であったりするものです。ところがそれを人に指導教育する場面になったときは、曖昧なままでは化けの皮が剥がれてしまうので、きっちりすみずみまで理解していなければなりません。人を指導することは自分の勉強にもなるのです。
もちろん単純に、自分が評価されていると感じる、雇用の条件が良くなるといったわかりやすい理由も、マネジメントをプラスに考える理由です。
当然のことですが、企業の全ての活動というのは最終的には収益と成長を目指しているので、エンジニアの活動も本来必ずそこに帰結するはずなのです。逆にいえばそこに帰結しないことをやっていると、それは的外れなことをしていることになります。「いま自分のやっていること、やりたいことは、その会社にとってプラスでないかもしれないけど、許されているもしくは見過ごされているからいいや」というのは、エンジニアとして成長できない姿勢だと、筆者は思います。
そしてマネジメントをすることは、自分のやることと企業の目的を、よりすり合わせやすくすることだと筆者は考えます。
エンジニアがマネジメントを厭うワケ
次に、ここまでもすでに言及してはいますが、なぜ一般的にエンジニアがマネジメントを厭うのかについて考えてみたいと思います。
すでに前述しましたが、やはり一番の理由は、「マネジメントをする時間がもったいない。その時間があれば技術を追求するほうに使いたい」というものではないでしょうか。
ただこれについては、あくまで筆者の私見でありますが、すでに前述したように、むしろ「マネジメントをすることでより技術を追求する時間が増える」のだと思います(所属する組織などによって一概には言えないとも思いますが……)。
ただ、ここで思うのは「やった経験がない状態で推測してもしょうがない」ということです。
実際にやってみて、「ああマネジメントしたほうがより技術の追求という面でもプラスがあるなあ」と思うかもしれませんし、「やっぱりマイナスだった」と思うかもしれません。それは本人の資質、上司などの周辺の環境、どの程度のマネジメントか(上位のマネジメントなのか、中間管理職なのか)によっても変化してくるとは思いますが、いずれにしてもやったことがない状況で、盲目的に「マネジメントは技術力の向上という点でマイナスだ(だってそう聞くし)」というのは、良いことではないと思います。
他にマネジメントを厭う理由として、あくまで相対的にですが、エンジニアは人との必要以上のコミュニケーションをそもそも厭う、という面があると思います。人とのコミュニケーションを厭うからエンジニアになる人もいる、といっても過言ではないと思います。
もちろんそうではない、人とコミュニケーションすることが大好きなエンジニアもたくさんいますし、そういうエンジニアはだんだん増えてきている気がします。社会で生活していくうえで、またプロとしてやっていく上で、人とのコミュニケーションは取れるほうがいい、また取れるようになるほうがいいのは間違いないですが、そうはいってもここは個人の資質による部分でもあるので、あまり無理強いするものではないとは思います。
人に命令することがそもそも嫌い、という人も結構いるものですし。ただ、「コミュニケーションするのはあまり好きではないから、マネジメントを厭うのはしょうがない」と考えるのではなくて、「コミュニケーションがあまり好きではないので、マネジメントをやりたいと思うチャンスを逸している」と考えるほうが、より的を射ているのではないかと思います。
筆者が思いつくマネジメントを厭う理由は上記の2つくらいですが、もしかしたら他にももっとあるかもしれません。
そしてこの2つの理由のうち、前者についてはいわゆる「食わず嫌い」な面も多々あると筆者は思いますので、ぜひそう言わずにチャレンジしてみて欲しいというのが、実は今回の記事の主眼でもあります。後者については、なかなか無条件に「改善したほうがいい」と言えることでもないので、難しい面もありますが。
エンジニアよ、上を目指せ!
エンジニアがもっとマネジメントをプラスに考えて取り組むようになると、良いことがたくさんあると思います。
まず1つは、後進の育成がより一層進む、という点です。せっかく身につけた技術を、自分だけのものにしておくのではなく、後進にも伝えていくことによって、その組織や企業全体の、もしくは国、さらには世界のエンジニアの底上げができるというものです。
もう1つは、エンジニアが管理職に増える、特に経営層などの意思決定層に増えることによって、より技術やエンジニアに理解の高い企業が増えるということです。
もちろん技術やエンジニアをそのコアコンピタンスに置いていない企業ではその必要はないですが、ネット系の企業であれば技術というものが重要な経営の要素の1つであることは言うまでもありません。ところが意思決定層に技術ばわかるメンバーがいないと、往々にして中途半端な知識で意思決定してしまったり、上から受けがいい人の意見がそのまま通ったりします。「中途半端な知識は無知より怖い」と言いますがこれは本当だと思います。
そうすると、意味の無い(というか適切でない)投資をしてしまったり、技術的な競争力を失ってしまったり、単に上から受けがいいだけの人が大きな顔をして下がやる気を失ったりということが起こらないとも言えません。
筆者の考えですが、他の職種に比べても、エンジニアというか技術職はもっと意思決定層にいるべきだと思います。そして企業の技術に関する意思決定がより適切に行われることも、またエンジニアが適切に評価されて成長することにつながり、結果としてエンジニアの底上げにつながると筆者は思います。
この連載の一連のテーマは、エンジニアがどうやって成長していくか、というものです。これまでのトピックは、成長する側について触れることがほとんでしたが、今回は成長させる側の視点から言及してみました。