達人が語る、インフラエンジニアの心得

第16回情報発信の意義

今回はインフラエンジニアに限った話ではなく、エンジニア全般における情報発信について触れてみたいと思います。

「時空を超える」コミュニケーションとは?

もともとエンジニアというのは、特にスキルが上がるにつれて情報発信をするようになるものだと思います。以前であれば、各種のメーリングリストやネットニュースで(もっと前はNIFTY-Serveのfunixなどのフォーラム?⁠⁠、そしてもちろんWebが登場してからはそれも含めて、さまざまなメディアでの情報発信がされてきました。まずは情報の経路について考えてみることにします。

ネットが普及する以前は、情報源といえば同僚や友達とのリアルなコミュニケーションか、本や雑誌などが主たるものだったと思います。もちろんこれら(リアル、本や雑誌)は今でも廃れていない重要な情報源です。体系だった知識や網羅的な知識を手に入れるには書籍は非常に有効ですし、インタラクティブに知識を吸収するにはリアルなコミュニケーションが最適です。

これら既存の情報経路の特徴としては、書籍や雑誌は発信できる人が限られている、検索がしづらい、広い範囲の読者全員に同じ内容を提供する、などが挙げられます。またリアルなコミュニケーションは、物理的時間的制約が多いという点があります。

ネットという情報経路はこれらを埋め合わせる効果があります。これは筆者の持論ですが、もともとネットというのは空間を超越するというのが、その一番大きな意義だと思っています。ネットを通信と置き換えてもいいですが。相互に交換できる情報の量はリアルには敵いませんが、空間を超越するという強みと、本質的に非同期性を持つという特徴が、非常に情報発信(と受信)に向いていると筆者は思います。

まとめると、下記のようなことになるのかと思います。

インタラクティブ性距離の制約時間の制約
リアル
強(同期)
無(非同期)
ネット
弱(本質的非同期)

「本質的非同期」というのは、本当は非同期だけど同期としても使える、というような意味です。筆者の造語ですw。

「問題の存在を知らせること」のすばらしさ

今回のテーマは情報のやりとりの善し悪しではなく情報発信自体なので、この中でも最も情報発信に向いている(と筆者が思う)ネットでの情報発信について主に考えてみます。

中でも、先ほど触れたようにメーリングリストやネットニュースなども重要な情報発信のメディアではありますが、やはり現在の状況を考えるとWebがその中心にあるというのは間違いないところですので、これ以降は特にWebにフォーカスしてみます。

Webが登場してからの情報発信のしやすさというのは、それまでとケタ違いだと思います。当初はサーバをどうする?という話もありましたが、VPSやblogサービス、そしてTwitterやFacebookなどが登場してからというもの、情報発信に関する実質的金銭に関するコストはないと言えます。また、メーリングリストやネットニュースと違って、発信前にそもそも承認というステップもありません(ネットニュースは承認なしのニュースグループもありますが⁠⁠。

つまり自分で「こういう情報を発信したい!」と思えばそれは自由にできるのです。しかも、各種ソーシャルサービス(ソーシャルブックマークなど)によって、それらが簡単に拡散していきます。もちろん、有益な情報でないと拡散しないのは言うまでもありません。

誰からも制約を受けずに、技術的に自分が有益だと思うことを発信できる、しかもその内容に対する反応、フィードバックを目の当たりにすることができる、なんて素晴しいことなのでしょう。⁠ネットに関する知識はネットにある」とはよく言ったものです。

実際、以前は周囲に詳しい人がいるか、あとは書籍か雑誌、そして自分でトライアル&エラーするかソースリーディングくらいしか手段がなかったのが、いまはググればたいがいの情報は出てきます。もちろん、先端に行けば行くほど英語の情報しかなかったり、そもそもまだネットに何も他の情報がないケースもあります。

そして、ネットというかWebの素晴しいところは、⁠まだ存在しない」ということもわかることなのです(検索スキルにもよりますが…⁠⁠。

もし自分がなにかの問題にぶつかって、それがまだ他の人が情報を発信していないとしたら、解決しなくても「こういう問題がある」ということを発信するだけでも十分に意義があります。⁠あ、これは他でも発生することなんだな」とわかること自体に意味があるからです。そしてもちろん、自身でその解を見つけたら、他の人にとって非常に有益な情報なのでとても良い情報発信になりえます(その問題の発生頻度にもよりますね⁠⁠。

なぜ情報発信できないのか?

とはいえ、まだまだ現状では、Webを使って情報発信をしている人は、ごくごく一部の人に限られているというのが正直なところです。これは何故でしょうか。⁠面倒くさい」⁠自分の発信する情報に自信がない」⁠発信しても自身の得がない」などでしょうか。

筆者もそれほどたくさんネットでの技術情報の発信はしているわけではないので、偉そうなことは言えません。技術情報に関していえば、雑誌とイベントで発信していることが多いのと、ネットでは非技術情報の発信が多いです。

それはさておき。

blogで継続的に有効な技術情報を発信しているエンジニアの方は、実に素晴しいと思います。もちろん自身の知識や経験を世の役に立てている、という直接的な点も素晴しいですし、自分の知識、経験をまとめる、整理しなおすという姿勢も素晴しいと思います。

そして、前述したように、技術力と情報発信力というのは、おおよそ比例していると思います。もちろん、高い技術をもっているが情報発信はしていない人もたくさんいますし、まだまだ技術力が低いが頑張って情報発信をしている人もたくさんいます。

先ほどの「面倒くさい」⁠自分の発信する情報に自信がない」⁠発信しても自身の得がない」という理由について考えてみると、⁠面倒くさい」という点については、そもそも面倒くさがらないから技術力が高くなった、というのはありそうです。また、技術力が高ければ、⁠もしかして間違ったことを発信してるんじゃないだろうか」と思う機会は減るでしょうし、それに加えて、間違ってるかどうかを気にしないわけじゃないけれども、まずは発信しようという人のほうが成長すると思います。

この点は重要なので、また後ほど触れてみたいと思います。

「発信しても自身の得がない」というのは、これはエンジニア以前に社会人としてちょっとどうかとも思いますが、でも実際こういうケースは多いのではないかという気がします。

情報発信が成長につながる4つの理由

さて、情報発信についてなぜ取り上げたかというと、この連載を通じたテーマとして「どうやって成長していくか」がある点もありますが、エンジニアとして「成長したければ情報発信すべきだ」といえると思うからです。もちろん絶対条件ではありませんが、かなり有効な手段だと思います。

「スキルが高い(成長した)エンジニアだから情報発信しているんだ、情報発信していた人が成長したんじゃない」と思ってしまえばそこでおしまいです。そしてそんなことはないと思います。同じ時間、同じ業務に携わっているのであれば、継続して情報を発信しているエンジニアのほうが、必ず成長すると筆者は思います。

そう思う理由をあげてみましょう。

まずやはり「自分の知識経験を整理してまとめることで自分の糧となる」という点が挙げられます。同じ問題に取り組んで結果をだしたとき、それで終わりの場合と、それを整理するほうが後々までより確かな知識、経験になりやすいのは間違いないでしょう。

次に「他人の目に触れる形で情報を発信するためより真剣になる」という点もあるかと思います。情報を発信しないのであれば、必要最小限の解さえ出せばそれでも良いですが、自身のアウトプットとして発信する以上、細かい点や解の裏付けなども気になってくるものです。つまり同じ問題に取り組んだときに、その解の深さが変わってきます。

ほかにも「情報を発信してフィードバックを得ることが刺激になる」という点もあるでしょう。良い情報を発信すればそれが評価されてモチベーションにもなるでしょうし、たとえ間違った情報を発信してもその訂正のフィードバックが得られれば、それもまた自分の糧となります。また、そうやって情報を発信している他のエンジニアとの接点も増えていくので、より刺激や励みが得られることもあるでしょう。自身のblogが人気になれば、記事や連載、書籍などを書くチャンスが巡ってくるかもしれません。

あと「自身で情報を発信しているほうが他の情報により敏感になる」という点もある気がします。自身で情報を発信すると、情報を発信する側の立場と視点で物が考えられるようになるため、自分が情報を探しているときにより探すのが上手にもなるでしょうし、そもそも普段からの情報感度も上がると思います。

筆者が思うに、このように情報を積極的に発信することには、良い点が非常に多いといえます。そして現在は、Webとその上でひろがるソーシャルメディアがたくさんあり、以前よりずっと情報が発信しやすくなっているのですから、よりイケてるエンジニアを目指すのであれば、これを使わない手はないと思います。

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