KindleとiPadは黒船か?
電子書籍への関心が高まっている。2009年10月からAmazonのKindle (英語版) が日本でも発売され、4月にはAppleがiPadを発売する(予定)など、電子ブックリーダーがより身近になりつつある。
経済産業省、総務省、文化庁が共同で検討会を発足させ、国立国会図書館が蔵書のデジタル化に乗り出すなど政府の動きも相次ぐ。その背景には、日本からデジタルで洋書が簡単に手に入るようになった一方で、和書の電子流通が進まないことに対する危機感があるのだろうか。
これまで先行してきた国内メーカーだが……
出遅れているかに見える日本だが、実はこれまで電子ブックの分野で世界をリードしてきた。電子ブックリーダーとしてはNECが1993年に発売した「DB-P1」を皮切りに、電子ペーパーを利用したリーダーも2004年にソニーが「LIBRIe」を、パナソニックが「Σブック」を発売した。
ところが、コンテンツが集まらず両社とも数年で撤退。ソニーは欧米に進出して市場を開拓したが、大きな顧客ベースを持ち、コンテンツの価格を下げて参入したKindleに一気に追い越された。ただ、ソニーは依然として3割以上のシェアを持ち、昨年末にはKindleのウリであるデータ通信モジュールを内蔵したモデルを投入するなど、巻き返しを図っている。
一般書のデジタル販売こそ出遅れた日本だが、つい最近までは世界最大の電子ブック市場だった。インプレスR&Dによると日本の2008年度の電子ブック市場は464億円、うちケータイ向けが86%を占める。よくケータイサイトにバナー広告を出しているアダルトコミックが中心だ。
電子書籍のためのファイル形式
日本は電子書籍のためのファイル形式をIEC/TC100(AV・マルチメディアシステムおよび機器)に提出し、BBeB(BroadBand e-book)、XMDF(MobileDocument Format)などとして標準化を進めてきた。
ところが最近の電子ブックリーダーはKindleの「MobiPocket/AZW」、またGoogle BooksやSONY ReaderやiPad の「ePub」の規格が台頭している。現在はMobiPocketを採用したKindleが過半のシェアを握るが、iPadの登場でePubの存在感が一気に高まるだろう。
電子書籍フォーマットの本命と目されつつあるePubだが課題も少なくない。現時点では和書を電子化しようにも縦書き、ルビ、縦中横などの組版に対応しておらず、規格改定の過程で改善を要する。SONY ReaderやiPadが同じePubを採用することでコンテンツの互換性を期待する向きもあるが、リーダーごとの実装のバラツキやDRM(Digital RightsManagement:デジタル著作権管理)の相互運用性など、課題は山積している。
出版業界のエコシステムを再構築する時期がきた
そして、最大の課題は出版業界が培ってきた出版社/書店/取次/印刷会社とどう共存共栄するかだ。電子ブックの使い勝手は発展途上にあり、規模は限定的なものに留まると予想される中、実際に本を売るには書店/取次との良好な関係が欠かせない。出版社としては著者との関係強化や出版契約の見直しなど中抜きリスクに対処しつつ、書店/取次/印刷会社との関係に気を配りながらも、日本での電子書籍普及を見据えた布石を模索する段階にあるのではないか。