不定点観測所

第9回国民ID導入は電子政府普及の突破口になるか

国民ID導入の背景

政府のIT戦略本部は今年5月、2013年度までに国民ID制度を導入すると発表した。複数の行政領域で活用できる国民IDは過去にも検討されたものの、国民総背番号などと批判を浴びて導入できなかった。

最近になって国民IDが再検討された背景として、電子政府の再構築が検討される中で低迷する電子窓口の利用率を高め、行政サービスを相互に連携させるためにも必要性が高まっていること、消えた年金などが社会問題化したことで導入する効果を説明しやすくなったこと、クラウドによる自治体システムの集約にも有用と考えられることなどがある。

共通のIDに対して名寄せによる国民のプライバシー侵害への不安があったものの、諸外国の運用を参考に、必要に応じて連携しつつ名寄せを抑止する方策についても検討の俎上(そじょう)に上がっている。

国民IDの使途と範囲

とはいえ国民IDの使途や範囲についてはさまざまな案がある。内閣官房の「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」はドイツのように税務分野に限定するA案、米国のように社会保障分野でも利用するB案、スウェーデンのように各省庁・自治体などでさまざまな手続きでも利用するC案の3つを提示した。その後の参院選で菅首相が消費税の値上げと低所得層に対する還付を公約したが、国民IDの在り方は消費税の制度設計にも大きく影響する可能性もある。

ネット上のIDと国民ID

ネット上のIDと国民IDとの関係も争点だ。いまの電子行政サービスでは本人確認に住民基本台帳カードとICカードリーダが必要だが、民間IDとの連携などを通じて認証手順を簡便化することで敷居を下げて、低迷する電子窓口の利用率を底上げすることが検討されている。

たしかに物理的なICカードが必須だと、携帯電話やスマートフォン、電子書籍端末など、普及しつつある多様なデバイスに対応させることが難しい。一方で民間のIDと連携させた場合に政府がセキュリティ水準を保障できるのか、現実にID詐取などが発生した場合の責任分界点を明確にできるのか等の課題がある。

最大の課題

そして何より最大の課題は、国民IDを導入した後に、精度の高いデータを構築できるのかに尽きるのではないか。電子政府のシステムこそ再構築できても、データは長い期間かけて積み上げてきた記録を引き継がざるを得ない。不正確なケースも想定される従来のデータを引き継ぎつつ、システム移行後に行政手続きの過程で、新たな国民IDと古いレコードとを紐づける膨大な作業が発生する。

次世代の電子政府の真価

その過程で仕様の抜け漏れや不整合が判明することも予想される。別々に設計された幅広い分野でシステムを統合した場合ほど、さまざまな想定外の条件でデータの不整合が発生することが懸念される。

自治体や省庁/個別業務の枠を超えたシステムは、自治体や省庁の壁を超えてしか解決できない厄介な問題を惹起(じゃっき)しないだろうか。国民IDを通じて国民本位の住民サービスを提供することが期待される次世代の電子政府は、構築よりも運用の過程で真価を問われるのではないか。

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