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第1回IDCフロンティアにみる和製クラウドの未来

先月IIJ外気冷却コンテナ型データセンター実験に見る和製クラウドの未来という記事を書きましたが、今度はIDCフロンティア ビジネス開発本部サービス企画部長 粟田和宏氏に最近のデータセンター(ここではインターネットデータセンター/iDCを「データセンター」と表現しています)事情と、IDCフロンティアの取り組みを伺ってきました。伺った話は、データセンターの変化、消費電力削減取り組み、データセンターが郊外へ移転する可能性、ソーシャルアプリプロバイダとクラウドなどです。

粟田和宏氏
粟田和宏氏

IDCフロンティアはデータセンター専業事業者の大手で、価格.comやpixivへのサービス提供を担っている会社です。

データセンター事業者の守備範囲が変わって来ている

今回は、私がデータセンター業界を知らないので、業界全体としての流れを含めつつ、IDCフロンティアで行われている活動を教えていただきました。

まず伺ったのが、データセンター事業者の守備範囲が徐々に変化しているというお話です。これまで、データセンターはお客様の設備を収容し、そのための環境を用意することが主な事業でした。いわゆるコロケーションというICTサービスです。

非常にザックリと表現すると、データセンターは場所を提供し、そこでホスティング事業者などのMSP(Management Service Provider)が運用や監視の業務を行い、SIerが顧客のシステムを開発するという分業が行われていました。しかし、場所貸しという事業から、データセンター事業者が自ら運用まで行うマネージドサービスを行う傾向になっているとのことでした。

逆に、今までSIerであった事業者がデータセンターを構築するという事例も増えています(例:TISやCTCによるデータセンター構築⁠⁠。今までは「層」のように分業が行われていた状態でしたが、今は徐々に事業の境界線が曖昧になり、お互いが競合する形になります。

粟田氏は「データセンターそのものの付加価値は今後下落していくでしょう。そして場所貸しとしてのデータセンターだけでは利益を産み出せなくなっていきます」と危機感を持ちつつ、その打開策として従来の場所貸しだけではなくリソース貸しサービスへの取り組みに注力されていると話していました。

「クラウド」という流れ

クラウドという流れに関して粟田氏は「従来は、データセンターのお客様は、サービスを提供するためにシステムを構築し、その運用のためにデータセンターを利用していました。しかし、クラウドコンピューティングの登場で、インターネット上でサービスを実現するリソースがあれば良いということに気がつきはじめています」と表現していました。コロケーションという場所貸しではなく、リソース貸しというマネージドサービスを望む顧客が増えているようです。

日本国内でのクラウドといえば、Nifty CloudやIIJ GIOなどがありますが、IDCフロンティアにはNOAHというクラウドサービスあります。⁠従来の場所貸しというデータセンタービジネスに取って代わる可能性がある」というマネージドサービスですが、IDCフロンティアでも事業規模が徐々に拡大しているとのことでした。

IDCフロンティアにおけるマネージドサービスの事業規模拡大には、SNSやソーシャルアプリの爆発的な普及が背景としてあります。

ソーシャルアプリプロバイダとクラウド

IDCフロンティアの提供するクラウドサービスのNOAHは、⁠最近ソーシャルアプリケーションプロバイダからの問い合わせが活発である」とのことでした。これは、モバゲーで有名なDeNAのデベロッパーサイトで、IDCフロンティアのNOAHが一番最初に紹介されているからでもあるようです。

DeNAデベロッパーサイトより

DeNAデベロッパーサイトより

この、NOAHソーシャルアプリパックの特徴で、個人的に注目したのが、設定済みのサーバをバックアップで用意しておいたうえで実際に稼働させた場合だけに追加サーバ分が課金されるというシステムです。バックアップを用意しておく分は無償で、実際にトラフィックが増大したときにだけ課金されるというのは非常にリーズナブルですし、あらかじめ稼働させるサーバの上限を設定することになるので、サーバ稼働による課金が青天井になりません。

あと、もう一点着目したのが、コンテンツ同期やロードバランサが無償オプションとして提供されている点です。非常に地味ですが、ある一定規模以上のサービスでは非常に大事だと思いました。

サイジングの相談

このように「予備サーバは無料」というサービスが実現可能となっているのは、事前にどれだけのサーバが必要であるか打ち合わせを行い、稼働率予測を立てているからだそうです。

粟田氏は「他社のクラウドサービスには、Webで申し込んですぐに利用できるものもありますが」と前置きをしつつ、⁠しかし、お客様が実際に求めているのは一分後にCPUが増えることではありません」と述べていました。日本の顧客の傾向として、一瞬で何かができることというより、⁠必要な最適解を求める」傾向があるとのことでした。

たしかに、仮想化されたクラウド的なサービスの場合、どのように構築されているのかが明示されていない場合も多く、性能に関しての明確な基準もないので、実際に使ってみないとサーバの性能はわかりません。そのため、クラウドサービスを提供する事業者と相談をしないと、最適なサイジングを推測できないという側面がありそうです。それまで物理サーバを専用サーバとして借りてきたような顧客も、クラウドに移行するときにサイジングが全くわからないので、クラウドサービスを提供する事業者の営業と相談をするような必要性があるようです。

そのため、非常に柔軟性が高く何でも出来るようなシステムよりも、電話やミーティングを行いながらサービス提供を行う事業者と相談しつつ最適解を模索するサービスが好まれるようです。

「申し込んでから設定変更まで2~3営業日かかる」というとクラウドコンピューティングとして柔軟性に欠けるサービスのようにも一瞬思えますが、事業者とソーシャルアプリプロバイダの双方が相談することで適切なサイジングを推測し、⁠使わなければ無料」という運用を実現するのは、実は非常に合理的であると感じました。

なおNOAHは、サイジングだけではなく、DBチューニングなどの相談も受けているようです。

他社との連携

NOAHのソーシャルアプリ関連案件は、IDCフロンティアだけで完結しているわけではないようです。

たとえば、ソーシャルアプリケーションプロバイダによるゲーム開発の場合、NOAHのサービスはCPU、メモリ、ディスク、ネットワークのサーバリソースサービスで、その上で利用するミドルウェアは他社のものが利用できたり、サーバの運用そのものは運用を行うMSPにお願いするという形態があるそうです。

「ミドルウェアであれば、その分野で優れている事業者がいます。たとえば、我々だけでやったら10のうち4しかできないけど、自分たちに欠けている部分を他社と組むことで、7や8へと伸ばす事ができます」と粟田氏は述べていました。データセンターが場所貸しからリソース貸しへと守備範囲を広げることで、今まで協調関係にあった会社が競争関係へと変わる一方で、それまで全く関係がなかった会社と提携が開始されるなどの変化があるのかも知れないという感想を持ちました。

北九州データセンター

IIJコンテナ型データセンターの取材では主に外気空調システムに着目して書きました。やっぱり、そこら辺も聞いとかないと思って外気空調システムなどに関して質問してきました。

北九州データセンター
北九州データセンター

IDCフロンティアでは2008年から、外気空調システムを利用したデータセンターであるアジアン・フロンティアを北九州で運用しています(※1⁠⁠。

「環境対応型データセンター」とIDCフロンティア(当時はソフトバンクIDC)が呼んでいる北九州のデータセンターは、外気空調を行いつつ、排熱を閉じ込める事で空調消費電力を削減し、サーバルームの効率的な冷却を行っています。 最近のトレンドとして、サーバを冷却するために消費される電力を削減するために、冷気か暖気のどちらかを閉じ込めるという方法が行われていますが、アジアン・フロンティアでは暖気を閉じ込める方式です。

同社は冷気を閉じ込める方式としてColdMallという方式を開発していますが、アジアン・フロンティアは「GreenMall」と命名された方式で構築されています。冷気を閉じ込めるColdMallとは異なり、GreenMallでは暖気を閉じ込めます。

GreenMallは暖気を閉じ込めるだけではありません。それに加えて、外気空調、床高と天井高を十分に確保することで空調効率の最適化を測っており、その構造全体がGreenMallであるとのことでした(※2⁠⁠。外気空調を入れることによるアジアン・フロンティアでの消費電力の削減効果は4割弱ぐらいだそうです。4割弱という数値は、半年ぐらい実証実験を行った結果得た数値です。プレスリリースでは「これは1,000ラック規模のDCで外気空調を行った場合、金額換算で4千万円強/年の空調消費電力の削減が実現できることになります」と述べられています。

プレスリリースでは、データセンター内から出る廃熱を再利用する案として、ビニールハウスに暖気を送って、その中で農産物を育てるという実験が行われていることも紹介されています。これは、平成21年度の経済産業省情報分野における公募事業「データセンターの高信頼化に向けた技術開発・実証事業」のひとつである「外気冷却型データセンターの高信頼化に向けた実証事業」によるものです。

モジュール型

アジアン・フロンティアは、外気空調を行っているという特徴とともに、モジュール型のデータセンターとしてニーズに応じて設備を追加できるという特徴もあります。

「テクノロジの進化は早いので、今の技術が3年後も最先端ということはありません。その時々の最新テクノロジを反映させたデータセンターを設計することが可能で、常に最新の技術を採用できます。今は2棟ですが、全体では12棟まで拡張可能です」と粟田氏は述べていました。

IIJのコンテナ型データセンターもモジュール型ですし、北海道石狩に構築される、さくらインターネットの郊外型データセンターもモジュール型です。郊外に構築されるデータセンターは、必要な時に必要なだけ建築されるというのが最近のトレンドのようです。

何故、北九州?

「何故、北九州にデータセンターを建てたのですか?」という質問をしてみました。

その理由として最初に挙げられたのが「地盤が強固だった」ことでした。防災マップでデータセンターの場所を見ると低災害地区となっています。敷地が潤沢にある場所であることも選択ポイントの要素だったようです。

さらに、ネットワーク環境が良かった点も挙げられるそうです。日韓ワールドカップで、韓国をつなぐ海底ケーブル(光ファイバ)が北九州で陸揚げされており、それに伴ってネットワーク環境が整備されているとのことでした。海底ケーブルの陸揚げが行われている場所の近くには、国内の各拠点へと繋がる光ファイバがあることが多いため、データセンターの立地条件として考察されることが多いようなイメージがあります。

電力供給を近くから受けることができると同時に、電気代を節約可能という要素もあるようです。

このような理由から、アジアン・フロンティアは北九州に作られたとのことでした。

何故、外気空調を行おうと思ったんですか?

2008年からアジアン・フロンティアでは外気空調を実稼働させています。日本国内における商用データセンターでの外気空調に関する取り組みとしては、かなり早いほうであると思われます。粟田氏は、⁠徐々に世間は外気空調になっていますが、アジアン・フロンティアは日本国内の商用データセンターで外気空調を実稼働させた初めての例じゃないかと思います」と述べていました。

では、なぜ、その時期に外気空調を行おうと計画したのかを質問してみました。すると、以下のような回答でした。

外気空調を採用したデータセンターの建築は、事業形態が大きく変わったことがきっかけでした(※3⁠⁠。

弊社は、2005年にソフトバンクの傘下に入りました。そして、データセンター専業事業会社となりました。

それに伴い、iDCとして最先端のものを作ろうというプロジェクトが発足し、検討を開始しました。実際にアメリカの最先端iDCを見学し、海外事例の研究も行いました。その中で、外気空調設備が検討項目のひとつになりました。当時のアメリカのiDCは、広大な土地に平屋立てで、外気空調というのがトレンドでした。

また当時は、コンピュータの値段が下がり、機械のコストが下がっているのに、iDCそのものを運用するコストが減っていませんでした。そこで、空調のコスト圧縮が課題となり、解決策として外気空調を採用しました。

昔は、データセンターという閉じた空間の中でガンガン空調をまわしてとにかく冷やすというのが常識でした。2000年頃になってからがホットアイル、コールドアイルと空気の流れを分けることで効率化する方法が登場し、今では当たり前になっています。そのうち外気空調も「それまで何でやらなかったのだろう」と思うようなことになっているのかも知れません。

アメリカでの空調に関してのトレンドは、今も変わり続けています。今、アメリカで新しいiDCの空調は水冷方式のものがあります。アメリカでは水冷が流行っているように見えますが、アメリカのような広いところだと水冷の方が良いのかも知れません。ただし、iDCの建設コンセプト、技術要素、気候を含めた建設する土地柄などの組合せによっても状況が変化するので、アメリカでコレが主流だから最先端はコレということにはならないと思います。

徐々に進化しているということですね……。

今後はデータセンターも適材適所に

粟田氏は「今後、データセンターは適材適所に建てることになるでしょう」と推測していました。同時に、徐々にデータセンターそのものは付加価値が減って行くという予想もされておられました。

付加価値が減るため、今のままでは十分な利益を出せないため、今までにない付加価値創造を求めて「クラウド」へと向かっているのかも知れません。そして、多くのデータセンター事業者がクラウドへと向かうことで、他の業種も従来の事業形態では付加価値を実現できなくなり、新たな方式を模索していくという玉突き現象が発生しそうです。

どちらにせよ、ここ数年でインターネット上で行われているさまざまな事業が大きく形態を変化させていくのかも知れないと思いました。

東京都環境確保条例

今後、データセンターが都内ではなく地方で増える可能性がある理由の一つとして、東京都環境確保条例が挙げられます。 これまで努力目標であった二酸化炭素排出量の削減が義務化され、削減目標を達成できなければ排出量取引で対価を払って相殺することになりました。

しかし、都内にある古いデータセンターの空調システムを外気空調に変更するなどの対策は現実問題として難しいため、場合によっては都内での運用規模を縮小したり、都内での新規データセンター構築を避けたり、地方へ移動するなどの方法が必要かも知れないという考えもあるようです。

コロケーションの販売には都内のデータセンターが有利ですが、東京都環境確保条例での削減目標義務化の流れとクラウドへの移行が相まって、地方へのデータセンター進出が増える可能性もありそうです。

一方で、東京都の環境確保条例が義務化ても、都内データセンターが非常に多い状況は特に傾向が変わらない可能性もあります。 これは、最終的に評価を行う時期が来た時に、どれぐらいの事業者がどれだけ削減目標を達成できたかにもよりますが、排出量取引よりも東京都内で運用が行われ続けることのメリットが勝る可能性があるためです。

最後に

アメリカでは既に「クラウド」と呼ばれるサービス形態が非常に普及していますが、日本でも徐々に「クラウド」と呼ばれるサービスが増えているようです。 しかし、日本国内で展開される「クラウド」は、アメリカでの「クラウド」とは多少おもむきが異なるように思えます。 これは、日本国内で事業を展開する事業者側の性質だけではなく、サービスを利用する顧客側の違いも大きいのではないかというのが最近の感想です。

あと、もう一つ感じるのが「クラウド」という単語そのものが徐々に陰り始めている雰囲気です。 ⁠クラウドという表現は曖昧なので、これからはIaaSと表現するようにすることも検討しています」という話も聞くので、そのうち「クラウド」という単語も賞味期限を迎えるのかも知れないと思う今日この頃でした。

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