先日アメリカで行われたAkamai Customer Conference 2010 で、AkamaiによるIPv6への対応スケジュールが紹介されました。
AkamaiによるIPv6対応スケジュール発表の背景として、IPv4アドレスの枯渇が近づいていることが挙げられます。現時点の予測では、枯渇時期は来年前半~中旬であるとされています(参考:potraoo予測 ) 。
それに伴ってIPv6への移行が世界中で開始されつつありますが、世界のWebトラフィックの15~30%を配信していると言われるAkamaiがIPv6への対応スケジュールを発表したことには非常に大きな意味があります。
Akamaiは、世界的な規模を持つ企業のWebサイトや各国政府Webサイト、ウィルスパターンファイル配信、オバマ大統領就任スピーチなどの世界的なWeb動画配信をサポートしています。また、チリ鉱山事故の救出現場のインターネット動画配信でもAkamaiの技術が利用されていたようです(CNN: Miners' rescue among top Web events ) 。
自身でコンテンツを生成して配信するわけではなく、他の事業者に対してコンテンツ配信プラットフォームを提供するAkamaiがIPv6サービスを開始するということは、世界中の多くの事業者がIPv6に対応することに近い意味があります。各コンテンツ事業者は従来通りのIPv4による情報発信を続けつつ、AkamaiがIPv6プロキシの役割を果たします。
今まで常に鶏卵問題であったIPv6への移行ですが、コンテンツ事業者側がIPv6に対応できる環境がひとつ増えたことになります。実際にIPv4アドレスのIANAプールが枯渇する来年ぐらいから、世界中でユーザへのIPv6サービスが開始されることもあり、来年以降はコンテンツ事業者側もIPv6への対応が増えていくものと思われます。
AkamaiによるIPv6対応ロードマップ
今回、Akamaiによって発表されたのは正式なIPv6対応スケジュールというよりも、「 IPv6対応スケジュール案」という、まだ未確定な情報でしたが、そのタイムラインは以下のようなものでした。
2010年Q4 State of the IPv6 Internet Whitepaperの公開
2010年Q4 IPv6対応ロードマップの正式版を発表
2011年Q1 IPv6 Technology Preview版を公開
2011年Q4~2012年Q1 一部顧客に対して限定的にβ版を提供開始
2011年Q1に公開予定のTechnology Preview版には、以下のような制限があるそうです。
HTTPのみサポート
HTTPSは未サポート
Edgescapeによる地域制限機能は提供されない、など
その他、Technology Preview版でのWAF(Web Application Firewall)による防御機能が未対応な点や、IPv4版と比べて不十分な部分にどのように対応していくのかは、今後確認が必要だと思われます
その後、2011年Q1~Q4にかけて機能のテストや開発を行い、2011年Q4~2012年Q1にβ版が一部顧客に対して限定的に公開される予定になっているとのことでした。
Akamaiのβ(ベータ)という表現の使い方は、「顧客に提供可能な品質」を意味しています。一部の顧客に提供しつつ、要望等を受け取ったうえで世界的な一般サービスになっていくというのが、Akamaiの製品ラインナップの特徴である気がします。
AkamaiのIPv6対応と「2つのインターネット」
アジア太平洋地域でのIPv4アドレスが枯渇するタイミングと前後する時期に、AkamaiのIPv6サービスβ版が開始される予定のようですが、IPv6対応によって裏で動くAkamai網の複雑度は上昇するのではないかと思いました。
IPv4とIPv6は全く別のプロトコルであり、直接的な互換性はありません。さらに、いまのところ、IPv4インターネットのネットワークトポロジとIPv6インターネットのネットワークトポロジは全く違うものになりそうです。
たとえば、先日書いた「さくらインターネットのネットワーク構成 」を見ていただいても、BGPによるAS間接続の形がIPv4とIPv6で全く違うのがわかると思います。
IPv6に対応するには、このように全く異なるトポロジの2つのインターネットを計測しつつ、最も効率的にコンテンツ配信を行えるパスをAkamai独自に計算しなくてはなりません。2つのものが3つになるのとは異なり、1つのものが2つになるには、大きく設計変更を行わなければならない箇所が数多くあるような気がします。そのような意味でも、AkamaiによるIPv6対応は「単にIPv6に対応する」という単純なものではなさそうだと推測しています。
AkamaiのIPv6アドレス利用状況
Cyclops を利用して、BGPによる経路情報からAkamaiが関連するAS番号をオリジンとするIPv6アドレスを探してみると、以下の項目が発見できます。
AkamaiのAS Peer IPv6アドレス 最初に観測された日 最後に観測された日
AS20940
AS30071(TowardEX Technologies International, Inc.)
2001:4878::/32
2009-03-23 2010-01-12
AS20940 AS5539(SpaceNET AG, Munich)
2001:4878:10::/48
2009-07-14 2010-10-14
AS21399 AS6939(Hurricane Electric, Inc.)
2600:1400::/27
2009-10-19 2010-10-14
AS20940 AS35244(KMS Munich)
2001:4878:10::/48
2009-11-03 2010-10-08
AS21399 AS3549(Global Crossing Ltd.)
2001:4878::/32
2010-03-02 2010-10-14
AS20940 AS13722(Default Route, Inc.)
2001:4878:30::/48
2010-04-19 2010-05-01
AS20940 AS1239(Sprint)
2600:1404::/48
2010-08-05 2010-10-14
今年に入ってからBGPでのピアリングが行われる箇所が増えているように見えます。一番最初に経路が登場するTowardExは、ボストンにあるデータセンターのようです。
その後、経路が登場するSpaceNETとKMSはミュンヘンとあるので、2009年時点ではAkamaiのフランス支部がIPv6開発の中心だったのではないかと思いました。個人的には、現時点ではフランスが世界で一番IPv6に関して活発な国であるというイメージを持っています。
フランスで真っ先にIPv6関連ピアリングが行われ、それが今でも維持されているのが非常に印象として残ると同時に、2010年に入ってから本格的なIPv6のためのピアリングが行われている点も見逃せません。今年3月にTier1のGlobal Crossing、8月にSprintによる経路が登場しています。本格的なIPv6運用のために、Tier1によるマルチホーム環境が整えられたようです。
IPv6アドレスの取得時期
これらのIPv6アドレスが、いつどこで取得されたのかを調べてみると、以下のようになっています。
RIR IPv6アドレス 割当日
ARIN 2001:4878::/32 20050317
ARIN 2600:1400::/27 20100421
両方ともアメリカ(ARINは北米、カナダ、およびカリブと北大西洋地域なので正確には「恐らくアメリカ」 )で取得しているようですが、2001:4878::/32に関しては2005年3月時点で既に取得はされていたようです。しかし、Cyclopsのデータを見る限り、2009年の3月が初登場です。ただし、2001:4878::/32は、過去のBGPフルルート情報に掲載されていないようですが、BGPによる外部への経路広告が行われていないだけで、組織内部で実験的に利用されていなかった可能性もあるので「2009年までIPv6アドレスは使われてなかった」とは言い切れません。
2600:1400::/27は、今年の4月に入ってから取得されています。新たなアドレスブロックが何故必要だったのかは、今のところわかりませんが、IPv6への取り組みが2010年に入ってから活発になっていたことが推測されます。
最後に
IPv6への移行において、最大で世界の3割という膨大なWebトラフィックを配信するAkamaiの存在は大きな要素といえます。
しかし、今までAkamaiはIPv6対応に関しての明言を行ってきませんでした。今回が初の対外的なIPv6対応計画発表でした。
公表されたスケジュールはドラフト段階であり、今後変化する可能性もありますが、個人的には非常に興味深い発表であったと思います。
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