ニッポンのIaaSを牽引するIDCフロンティア

#5数十万枚~百万枚もの画像配信を行うインフラの秘密とは? アスクルが選んだIDCフロンティアの「分散ストレージサービス」

19ナインの堅牢性と6ナインの可用性を実現したストレージサービス

膨大な画像や映像を配信するWebサービスにおいて、コスト削減や運用負荷の軽減といった目的から、外部のストレージサービスを利用するケースが増えてきました。しかし従来のストレージサービスは十分なパフォーマンスを得られないことも多く、場合によってはレスポンスが低下してしまうことも珍しくありません。こうした課題を解決できるサービスとして、IDCフロンティアにおいて提供を予定しているのが「分散ストレージサービス」です。正式提供は今春の予定ですが、それまでは先行提供期間として無償でサービスを利用することが可能です。

この分散ストレージサービスは、ストレージプラットフォームとして高く評価されているBasho Technologiesの「Riak CS Enterprise」を利用して提供されているサービスです。大きな特長として、拠点内でのデータの多重化保存に加えて遠隔地にもデータを自動的に分散することなどにより、99.99999999999999999%(19ナイン)という高い堅牢性と、99.9999%(6ナイン)の可用性を実現したことが挙げられます。システムの停止が即座にビジネスに影響するWebサービスでは、こうした高い堅牢性と可用性は大きな魅力でしょう。

また主要なストレージサービスと比べて最大約6倍とする高いパフォーマンスを備えているほか、REST APIに対応しているため容易に開発が行えることもメリットです。正式サービスとしてスタートした後は閉域網経由で接続することも可能であり、機密性の高いデータも安心して保存することができます。

この分散ストレージサービスをいち早く採用したのがアスクルです。同社ではヤフーと協業し、昨秋から「LOHACO」⁠ロハコ)という一般消費者向けのネット通販サービスを提供しています。このサービスは「かさばる日用品を宅配購入で課題解決」をコンセプトに、企業向けの通販サービスと同様に当日、あるいは翌日配送に対応しているのが大きな特長です。このLOHACOにおいて、サービスで利用される画像ファイルを蓄積するためのストレージとして、分散ストレージサービスが採用されました。今回は、アスクルのe-プラットフォーム本部 e-プラットフォーム・テクノロジー 部長の上村謙介氏と、ヤフーからの出向で同BtoCカンパニー Web戦略企画本部 Web戦略企画部 システム企画の北岡睦玄氏に、分散ストレージサービスの採用に至った背景を伺いました。

アスクルが外部ストレージサービスを採用した理由

――まず「LOHACO」のサービス提供を開始した背景を教えてください。
アスクル e-プラットフォーム本部
e-プラットフォーム・テクノロジー
部長 上村謙介氏
アスクル e-プラットフォーム本部 e-プラットフォーム・テクノロジー 部長 上村謙介氏

上村氏:アスクルではもともと、法人様向けにカタログ通販サービスを提供していましたが、新たに市場を開拓するという目的のもと、Yahoo! JAPANとの提携を機に一般消費者向けの市場に本格的に打って出ることになりました。そのプロジェクトの第一弾となるのが「LOHACO」になります。昨年10月にスマートフォン向け、11月にはPC向けのWebサイトをオープンしました。

――最初にスマートフォン向けのWebサイトを公開したのは、どういった理由からなのでしょうか。

上村氏:Yahoo! JAPANでは開発方針として「スマホ・ファースト」を掲げており、今後のアスクルにおいても同様のコンセプトでビジネスを展開していきたいと考えています。そうした背景もあり、これからスマートフォンやタブレット端末の進化に先駆けてサービスを展開するという意味も込め、スマートフォン向けのWebサイトを先に提供することになりました。

Webサイトだけでなく、iOSとAndroid端末向けにネイティブアプリも提供しています。現在はいつも買っているものをすぐに発注することができる「LOHACOアプリ⁠⁠、そして天気情報やニュースのチェックやスケジュール管理なども可能な「LOHACO LIFE」の2種類があり、お客さまのニーズに合わせて選択していただける形になっています。

iOSおよびAndroid向けに提供されている、⁠LOHACOアプリ」⁠左)「LOHACO LIFE」⁠右⁠⁠。いずれのアプリでも、スムースにLOHACOを使って商品を注文できる
iOSおよびAndroid向けに提供されている、「LOHACOアプリ」(左)と「LOHACO LIFE」(右)。いずれのアプリでも、スムースにLOHACOを使って商品を注文できる
――そのLOHACOにおいて、IDCフロンティアの分散ストレージサービスを採用することになった背景を教えてください。

北岡氏:LOHACOでは「Yahoo!トップページ」並び「Yahoo!ショッピング」からの誘導が予定されており、このことからYahoo! JAPANからのトラフィック流入が相当数あることが見込まれていました。アスクルが以前から展開している法人向けサービスでは、基本的にフロントのWebサーバで画像を配信する仕組みになっていましたが、同じ仕組みでLOHACOのサーバを構成すると膨大なトラフィックに対応できない可能性がありました。

ヤフーからの出向で
アスクルBtoCカンパニー
Web戦略企画本部 Web戦略企画部
システム企画の北岡睦玄氏
ヤフーからの出向でアスクルBtoCカンパニー Web戦略企画本部 Web戦略企画部 システム企画の北岡睦玄氏

そこでYahoo! JAPANが運営しているCDNを使うことを考えたのですが、オリジナルの画像データを保存するサーバをどうするかが問題となりました。それをIDCフロンティアに相談したところ、最適なサービスがあると言って紹介されたのが「分散ストレージサービス」だったわけです。

上村氏:法人向けサービスの場合、アクセス数が突然跳ねることは少なく、トラフィックが読みやすいためインフラの構成がやりやすいんですね。ただコンシューマ向けサービスの場合は、トラフィックが突然増加して場合によってはサービスが利用できない状態に陥る可能性があるという指摘を北岡から受けました。そこで画像ファイルを外に出せないかということを検討し、最終的にIDCフロンティアの分散ストレージサービスを使うことにしたのです。

数十万~百万枚もの画像ファイルを分散ストレージサービスで配信

――配信している画像の数はどの程度になるのでしょうか。

上村氏:非常に多いですね。1つの商品に対して、サイズの異なる5種類程度の画像を使い分けています。現状で17万アイテム程度の商品を扱っていますが、今後販売する商品も含めると30万アイテム程度になります。さらに写真も商品によっては2~3種類あるため、それらをすべて掛け合わせた程度の写真を使っているということになります。

このように写真を大量に利用しているのは、少しでも写真をきれいに見せてお客さまに訴求したい、印刷されたカタログを見ているようにWebサイトに掲載した写真を見ていただきたいと考えているためです。ただ、場所によって当然画像を表示するスペースの大きさは異なるため、それに合わせた写真を用意する必要があり、どうしても写真の数は膨大になってしまいます。これを自前のサーバで配信していると、どこかで立ち行かなくなっていたでしょうね。

――パフォーマンスというところでは、どのように評価されていますか。

上村氏:具体的に数値で測定したわけではありませんが、自前のWebサーバで配信するよりもはるかに速いと感じています。これだけ重い画像データを入れているWebページにもかかわらず、表示はスムースでストレスを感じることはありません。

LOHACOの通常ページは、今までのアスクルのサイトのページよりも3倍から5倍の数の写真を掲載していますが、それがスムースに表示されていて、お客さまからページ表示が遅いといったご指摘をいただくこともありません。

LOHACOのPC向けWebサイト。クオリティにこだわった写真が多数掲載されている
LOHACOのPC向けWebサイト。クオリティにこだわった写真が多数掲載されている
――パフォーマンス以外の点で、メリットを感じられるところはありますか。

上村氏:まず大量に集客したいといった場合に、トラフィックの増加を意識せずに済むというのは大きかったですね。もし現状のインフラで対応できないということになれば、サーバの追加や回線の増強といった対応を図る必要があります。しかしクラウドサービスであれば、インフラのことを気にすることなく集客に専念できます。

また、お客さまが使われている環境次第ですが、今後はさらに高解像度の画像を使って写真のクオリティを高めていきたいと考えています。そのときに、容量やネットワークの負荷を考えずに済むというのもメリットです。

実績のあるストレージプラットフォームを採用した点を高く評価

――外部のクラウドサービスを使って画像を配信することに躊躇されることはなかったのでしょうか。

上村氏:正直なところ、画像や映像はオンプレミスで持っていても仕方がないのかなと考えています。今回、分散ストレージサービスを利用して改めて実感したのですが、おそらく競合サービスでもCDNや外部のストレージサービスを利用して、ストレスなくWebサイトにアクセスできる環境を整えることが当たり前になると思うんですね。そうすると、オンプレミスで画像や映像を配信していると相対的にとても遅くなるというリスクがあるわけです。

特にLOHACOではクオリティの高い画像にこだわっているため、画像の配信を自前でやっているとサーバやネットワークのことも考えながら進めなければなりません。そういった点を踏まえると、特にセキュリティをそれほど意識する必要がないデータについては、積極的にクラウドを活用していくべきだと思います。

――サービスを選定する際に注意したこととしては、どういったことがありますか。

北岡氏:実は別のストレージサービスを検討していたのですが、そもそも我々のような使い方の実績がなく、また担保される信頼性なども考えると厳しかったんです。一方で分散ストレージサービスは、基盤として使われているのがアメリカで実績のあるBasho Technologiesの「Riak CS Enterprise」ということだったので、それなら大丈夫かなということで選定しました。

上村氏:それとは別に他サービスも検討しました。ただ、他サービスだとは東京リージョンを選択できずネットワークの遅延の懸念があったり、東京リージョンであってもアメリカのパトリオット法[1]の対象になったりといくつかリスク要素がありました。そのリスクは大きいと判断し、今回分散ストレージサービスを選択することになりました。

――導入作業でトラブルはなかったのでしょうか。

北岡氏:ほとんどありませんでしたね。実は今回のプロジェクトを担当していただいたベンダーのエンジニアの方が、Amazon S3のAPIに詳しい方だったんですね。分散ストレージサービスで提供されているAPIはAmazon S3互換だったため、作業はすんなり進んだという印象ですね。

上村氏:唯一トラブルらしいトラブルだったのは、最初に画像をアップロードしたときですね。いきなり何十万という画像ファイルをアップロードしたのですが(笑⁠⁠、エラーでアップロードできなかったんです。それでファイルを何回かに分けてアップロードするということがありました[2]⁠。

――今後の展開について教えてください。

上村氏:アスクルではLOHACO以外にもいくつかのWebサイトを運営していますが、基本的にフロントのWebサイトで画像を配信しているため、レスポンスが悪いときがあるのではないかという懸念があります。今後はLOHACOだけでなく、アスクル全体で画像のクオリティアップを図っていきたいと考えているので、LOHACOで採用したCDNとクラウドストレージの組み合わせのように、お客さまがストレスを感じることなく高画質の写真を見られる環境を整えていきたいと思います。

――本日はありがとうございました。
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