IPv6対応への道しるべ

第3回連携サイトのIPv6対応に要注意 ─NECビッグローブ 川村聖一氏に聞く

第3回は、NECビッグローブ(以下、BIGLOBE)の川村聖一氏にお話を伺いました。

川村聖一氏
川村聖一氏

2009年に全サービスのIPv6対応計画を発表するなど、BIGLOBEは先進的なIPv6対応ISPです。川村氏はその中にあって、IPv6に関連する運用や課題に関して各所で発表されています。また、RFC5952の共著者JPNICメルマガvol.780参照)としても知られています。

今回は、BIGLOBEでの経験から得られた「注意すべきこと」を中心に教えていただきました。

BIGLOBEでの取り組み

─⁠─川村さんはいつごろからIPv6に取り組まれていますか?

私自身がIPv6に関わり始めたのは、まさにBIGLOBEに来てからです。それ以前はNECの別の部署にいまして、IPv6とは関係ありませんでした。2004年です。

そのときからIPv6の担当を務めていました。当時は「IPv6担当」というものがあったんですよ(笑⁠⁠。独立したネットワークで作っていて、サーバなども別々に運用していました。

位置づけとしては実験サービスで、たとえばADSL用のIPv6実験サービス、法人へのIPv6提供サービス、マルチキャストなどに取り組んでいました。その頃は「v6をやる人」というのが分かれていました。

2006年ぐらいに一時期盛り上がったのですが、その後v6に関して音沙汰がなくなりました。さらにその後しばらくして、2008年だったと思うのですが、サービスを含めて全社的にIPv6に取り組もうという話になりました。⁠枯渇が来るので、IPv6対応のロードマップを作らないとマズい」ということで、プロジェクトを立ち上げて取り組んだのです。そのメンバーとして全力でIPv6に関わるようになりました。

メンバーの中で私が最も長くIPv6に関わっていたこともあり、役割としては、いろいろうるさく言うような感じになっていました。IPv6を扱った事がないと、サーバもそうなのですが、実際にやろうと思うと、どこから手をつけて良いのかわからないことが多いというのもあるんですよね。

「単純にApacheが入っているサーバにIPv6アドレスをつければ終わりでしょ」と考えがちですが、そうではありません。どういうところに落とし穴があるのか、という部分に関して、別網で実験を行って来たノウハウを活かしてアドバイスを行っていました。

DNSに登録するかどうかの問題はありますが、最近は、BIGLOBE内のほとんどの部分がすでにデュアルスタック化を完了しています。

World IPv6 Dayでわかったこと─立場によってとらえ方が変わる「フォールバック問題」

─⁠─一般ユーザもしくはホスティング/ハウジングサービス利用者が、IPv6対応に際して「ハマるかも知れないので気をつけようね」というようなポイントはありますか?

IPv6対応で気をつけなければならない問題のひとつに「IPv6からIPv4へのフォールバック問題」があります。

フォールバックは、既存の多くのOSやブラウザで遅延を発生させたり、場合によってはフォールバックが上手く働かずに通信が成立しないこともあります。一口に「フォールバック問題」と言っても、実はいろいろと種類があるのですが、今日は特にWebにフォーカスしてお話をさせていただければと思います。

Webサイトを運営していて気をつけなければならないのは、細かくて見えにくい障害にいかに対処するかという話があります。

World IPv6 Dayで凄くよくわかったのが、プロバイダ側の人々とコンテンツ側の人々で大きく意見(もしくは感想)が違うということです。

プロバイダ側の視点では「おおむね問題がない」という印象を持たれた方々が多いと思うんですよ。プロバイダ側から見ると、何か一ヵ所が見えないという理由でユーザ側が問い合わせて来るというのは実は少ないんです。ユーザさんが凄くやさしいというか、ちょっと自分で頑張ってみようというのが多いんです。⁠もしかしたら、今日は調子が悪いのかも知れない。また今度見てみよう」と考えてくれる方も多いのかも知れません。

そういった側面もあり、プロバイダにとっては、World IPv6 Dayでの結果を見て「そんなに問題はない」と感じられている方々が多かったようです。

しかし、コンテンツを持っている側から見ると、⁠思ったほどひどくはないが、全面的にやれるかというとそうでもないかなぁ」という印象を持っているのかなぁという気がします。

弊社が行っているBIGLOBEのトップページだけという条件で、今回World IPv6 Dayに参加したのですが、その中でYahoo!さんと同じような手法で定点観測をずっと行っていました。で、どれぐらいIPv6アクセス率が上がるのかなど、いろいろ見ていたのですが、やはり日本だとNTTフレッツ網で発生しやすいフォールバック問題があるため、Webもその影響を受けます。といっても、もっさりとするぐらいなので、実際に見えなくなるまでの問題が発生することは、そう多くはないと思うんですよ。

自サイトの対応だけでは済まない

ただ、部分的にちょこっと見えなくなるというのは確実に起きている問題です。その「ちょろっと見えなくなる」というのを「大した事は無い」と判断するのか、⁠これは事業にとってよろしくない」と判断するのかは、そのサイトもしくはページの趣旨や事業内容に依存すると思います。

たとえば、ショッピングサイトなどであれば、画像が見えないのはよろしくないですよね。さらに、その部分が広告だったらさらによろしくないわけです。

そのため、今後はWebページの表示そのものが収入に直結するような事業をされていたり、外部からの画像をいろいろと貼り付けているWebスタイルの方々はかなり注意をした方が良いのではないかと思います。

画像
─⁠─その「注意」とは何ですか?

外部データ貼り付けの怖いところが、自分のところがIPv6対応をしていないつもりでも、埋め込まれている外部サイトがIPv6対応をしているという関わり方があることです。

自分としてはIPv6とは無関係だと思っていても、外部サイトがIPv6対応をした結果、自分のサイトで埋め込んでいる画像が表示されなかったり、リンク先に飛べないなどの問題が発生する可能性があります。

現時点では、IPv6対応がまだであっても、今後はリンク先や外部の画像参照元のIPv6対応を含めて注意をする必要があるのではないでしょうか。どのサイトがいつIPv6対応するのかという情報をキャッチできるようにしておいた方が良いと思います。

あと、情報をキャッチするためには、自分のサイトの連携先としてどこが存在しているのかの洗い出しも必要です。

─⁠─IPv6対応を自分がしていないからといって、安心はできないというわけですね?

自分のサイト内で全てが完結している場合には、そういった問題に巻き込まれることはありませんが、他のサイトとの連携がある場合には注意が必要でしょうね。

今、IPv6に関連する設定ミスが非常に多いんですよね。World IPv6 Dayでの各所の準備を見ていてもわかるのですが、IPv6は、まだ運用が熟練されていません。IPv6をよくわかっているエンジニアというのが、そんなに多くないというのがあるので、たとえば、WebサイトをIPv6対応するにしても、AAAAをDNSに登録はしたけど「フィルタを切り忘れた!」とか、よくある話なんですよ。

─⁠─その他にIPv6対応で注意すべき点などはありますか?

自分が他者にAPI等を提供している場合には、その部分でのIPv6対応も注意が必要です。自分がIPv6対応をすることによって、他者との連携がうまくいかなくなる可能性もあります。問題を避けるために、ドメインを分けるなどの対応をされているところが多いと思います。

Webサイトに対して、AAAAを登録するときには連携部分を特に気にする必要があるというのが、World IPv6 Dayでの教訓のひとつであったと思います。Webサイト対応という意味では、そこにつきると思います。

まだまだあるIPv6対応への課題

─⁠─サイト以外にクライアント側の環境、たとえば、どのブラウザでどういった障害が発生するなどの情報はありますか?

弊社の測定では、IE7での問題発生が圧倒的に多いです。IPv6での問題の85%はIE7で発生しました。今現在のブラウザシェアはIE8の方がすでに多いと思うのですが、それでも圧倒的にIE7での問題発生が多いです。先日、IE8のバグフィックスがリリースされたので、IPv6のフォールバック問題に起因するIE8での障害発生率はさらに低下するものと思われます。IE7でのバグフィックスがリリースされる事を期待したいところです。

Facebookさんは非常に正しいやり方をしていると思うんですよね。IE7で使うとWARNINGが出ます。⁠IE7はサポートしてないので、IE8にあげろ」と。そういったWebサイトとしての意思表示をしてもいいのかも知れません。

─⁠─メールなど、Web以外のアプリケーションもIPv6対応でいろいろ課題がありそうですね

World IPv6 DayはWebが中心でしたが、メールのIPv6対応も始めると、それはそれでいろいろと問題が浮き上がるかも知れませんね。我々も一度メールのIPv6対応を行った事があるのですが、凄いクレームが来たので、いろいろと注意しなければならないアプリケーションが多いんだなと思いました。

まず見えている問題が解決しないと難しいかも知れません。リロードすれば見える事があるという感じではなく、問題が発生したら確実に見えなくなるという事例もあるので。本当に悩ましいところですね。

─⁠─最後に、IPv6対応に関することで伝えたいことはありますか?

IPv6対応に関しては誤解も多く存在しています。フレッツで発生するフォールバック問題がクローズアップされ、大問題が発生するように認識されていることがありますが、実際は大問題にはならないことが多いです。IPv6で通信をしようとした場合、TCPのRSTで強制的にIPv6によるTCPセッションが終了するので、多少の遅延は発生しますが、大抵の場合はWebサイトなどは見られます。

フレッツ問題に関しては、ユーザがIPv6 PPPoEやIPv6 IPoEなどを利用して「IPv6対応をしてしまう」という正攻法での解決の存在も忘れてはいけません。正攻法でIPv6対応してしまえば、閉域網のIPv6を利用することがなくなるので、問題は発生しなくなります。

最後に、今日お話させていただいたのは、既存の多くのOSやブラウザに遅延等を発生させるフォールバック問題に関連するものですが、これ以外にも問題はあります。

Webブラウザに関する話は、いくつかのブラウザ特有の不具合が関連しますが、比較的高い確率で発生していて、コンテンツを持つ側が気にすべき問題として、⁠画像が表示されない」というものをご紹介しました。

今後、さまざまなソフトウェアの不具合が修正されていくものと思われますが、Web以外にも注意すべき点は色々あります。最新の情報を収集しつつ、正しい認識を持ってIPv6対応にあたっていただければと思います。

川村氏がお持ちの『インターネットのカタチ』にサインする筆者
川村氏がお持ちの『インターネットのカタチ』にサインする筆者

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