IPv6対応への道しるべ

第15回アカマイが提供するIPv6サービスとその現状

アカマイ(Akamai Technologies GK)は、いわゆるCDN(Contents Delivery Network)を提供する企業として知られています。大手企業のWebサイトやネット動画、ウィルスパターンファイル、OSアップデートなどの配信など、全世界のインターネットトラフィックの3割強を配信していると公表されています。

このように、インターネットを利用しているユーザの大半が何らかの形で関わっていると推測されるアカマイによるIPv6の現状を、アカマイ・テクノロジーズ合同会社 最高技術責任者 新村信氏にうかがいました。

アカマイ・テクノロジーズ
最高技術責任者 新村信氏
アカマイ・テクノロジーズ 最高技術責任者 新村信氏

なお、アカマイは、国境を越える企業内データ通信の高速化なども手がけています。最近は、CDN事業よりもそちらの方が売り上げが大きくなっています。後半のM2M系のお話はCDN事業の話ではないのでご注意ください。

アカマイから見えたIPv6 ─注目は2013年6月のトラフィック

─⁠─アカマイが提供しているIPv6サービスの概要を教えてください

アカマイが観測できるIPv6についてですが、まずアカマイのサーバは基本的にデュアルスタックで運用されています。

お客様のWebサーバがIPv6化されている必要はないのですが、IPv6のクライアントにコンテンツ配信を希望される場合に、アカマイプラットフォーム上で、そのお客様に対応したIPv6の仮想配信ホストを用意します。実際にIPv6のクライアントからアクセスがあった場合に、オリジン側がIPv4サーバで運営されているWebコンテンツであっても、アカマイサーバがクライアントに対してIPv6で配信します。

アカマイによるIPv6サービスのイメージ
アカマイによるIPv6サービスのイメージ

このように、アカマイが把握できるIPv6トラフィックは、Webサーバを運用されているお客様が「IPv6を利用したい」と言ったときだけなんです。我々のお客様の中でIPv6サービスを利用されているのはほんのわずかです。

─⁠─「わずか」とは何社ぐらいですか?

世界全体で100社ぐらいです。弊社のお客様はグローバルで4,000社強なので、全体の数パーセントぐらいです。

IPv6サービスをやりたいお客様のWebサイトに対しては、弊社が提供するCNAMEでIPv6用のAAAAレコードも提供するようになります。現時点では、IPv6 onlyの環境は想定しておらず、IPv4用のAレコードとIPv6用のAAAAレコードの両方が用意された状態で運用されるので、Webを閲覧される方々がIPv6での通信を選択された場合にのみ、IPv6によるコンテンツ配信が行われます。

ということで、最終的にIPv6でコンテンツを取得するかどうかに関しての選択は各閲覧者が行いますし、我々がIPv6で配信しているコンテンツも希望されたお客様のものだけなので、世界全体のIPv6利用者に関しての情報を持っているわけではありません。結果として、アカマイサーバにIPv6で接続してきたものだけしかカウントできていません。

そういったサンプリングが行われた結果のデータです、という点を念頭にご覧いただきたいデータです。アカマイのデータは全てそうですが(笑⁠⁠。

アカマイが公開しているThe State of the Internetの2013年Q1で公開しているデータでは、せいぜい秒間10万から12万ヒットですが、今日見た感じでは18万ぐらいまでありました。これは、アカマイサーバがIPv6でリクエストを受け取ってレスポンスをした数です。アカマイエッジサーバのHTTPログを集計して出しています。

2013年初頭のアカマイ経由のIPv6トラフィックの推移
2013年初頭のアカマイ経由のIPv6トラフィックの推移(「The State of the Internet 1ST QUARTER,2013」より)
(⁠⁠The State of the Internet 1ST QUARTER,2013」より)
─⁠─IPv4トラフィックと比べてIPv6トラフィックはどれぐらいの規模ですか?

IPv4トラフィックと比べると、桁が二桁小さいぐらいです。

公式の印刷物として公表しているデータはこの程度ですが、もう少し詳しい情報も公開しています。以下はWorld IPv6 Launchから1周年ということで6月にアカマイブログに投稿された記事です。情報としては、最新のThe State of the Internetよりも新しいです。

この記事は、弊社ネットワークのIPv6部分を担当しているErik Nygrenによるものです。⁠The State of the Internet 2013Q1」にあるのは1日のピークトラフィックである一方、Erik Nygrenの記事は1日の合計なので多少観点が違うので、ばらつきの度合いが多少変わってきていますが、トレンドとして見ると1年間で伸びて行っているのがわかります。

この記事は、ブラウザ、ネットワーク、国などの視点での集計も公開しています。非常に特徴的なのは、モバイル系ネットワークでIPv6利用が多い点です。たとえば、ベライゾンワイヤレスでは34.9%のリクエストがIPv6によるものです。日本ではKDDIからのリクエストの9.9%がIPv6です。

─⁠─このブログ記事によると、今年前半で急激に伸びていますが何故でしょうか? IPv6サービスを利用しはじめた顧客が増えたりしましたか? もしくは、IPv6サービスの正式な開始時期だったりしますか?

実は、IPv6サービスはいまだにLimited Availabilityなので、いまでも希望されたお客様全員が利用できるわけではありません。お客様の目的をうかがったうえで、審査を行ってからでなければIPv6サービスをご利用いただけません。しかし、増えています。

以前はIPv6対応で月々費用をいただいていたのですが、今年の6月になってから無償サービスにしました。IPv6サービスを無償にして欲しいというご要望は昨年からずっといただいていました。アカマイサーバはすでにデュアルスタックになっているので、アカマイにとっては、IPv6を行ったからといって特に追加コストがかかるというわけでもありません。そのため、IPv6サービスの課金に関しては見直しました。

サーバ分散化がもたらすメリット

─⁠─IPv6ではIPv4よりもDNSの応答メッセージが大きくなってしまう傾向があります。アカマイサービスでは、IPv4だけでもDNS応答が512オクテットギリギリになることが過去にあったと思うのですが、IPv6だとさらに苦しくなったりしませんか?

いくつかのサイトに関しては、確かにIPアドレスを多く登録している場合があります。アカマイのサーバ群であったとしても、対処するのが間に合わない可能性があるほどの大規模なフラッシュクラウドが予想される場合もあります。それが事前にわかっている場合には、多くのIPアドレスを登録する場合があります。過去に何度か、そういったことをやったことがあります。ただ、今は9つしか返してないと思います。

IPv6だと確かに詰め込める数が減ってしまいますが、そもそもアカマイサーバ群でもロードバランシングが間に合わないというのは、アカマイネットワークがまだ理想系からはほど遠いという要因もあります。

世界中でアカマイサーバが稼働していると言いながらも、地域的に偏っていたりします。もっと分散してアカマイサーバを設置したいのですが、契約が進まないので、仕方なしにまとめて大きくアカマイサーバを設置している場所もあります。具体的には、モバイル系の出入り口などが挙げられます。そういったところには、大量のリクエストが同時に来てしまうので、拠点間の分散だけではなく、拠点内の分散を高めるために多数のIPアドレスを返すことがあります。これは、アカマイサーバのデプロイがもっと増えれば、いずれ解消できる話だと思います。

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嬉しいことに、今年8月末に日本国内のあるモバイルキャリアでアカマイサーバが稼働開始しました。海外ではいくつか事例があるのですが、日本国内では初です。

日本では、これまでモバイルキャリア網に近いところでアカマイサーバを稼働させていましたが、その場合、携帯キャリアが扱うトラフィックを全て1ヵ所で受け取らなければなりませんでした。そういったときに、複数のIPアドレスを割り当ててロードバランシングを行わざるを得ない事情があったわけです。

今回は、これまで入り込めていなかったモバイルキャリア網の中にまで入り込めるようになったので、拠点を複数運用できるようになったということです。我々としては、これは非常に大きな変化です。

これからも、アカマイサーバの分散をより進めなければならないと考えています。

そもそも、消費者の方々により近づくというのは、どちらにせよ我々は進めなければならない理由があります。ビデオトラフィックの高ビットレート化が今後より進んで行くので、それに対処するためにも、より消費者の方々との距離を縮める必要があります。距離はダイレクトに効いてくるので、なるべく消費者の近くに行きたいというのはあります。

これはモバイルキャリアに限った話ではありません。我々は地方のローカルISPさんやCATV事業者さんの中にも積極的にアカマイサーバを置かせていただいています。消費者の近くに行けば行くほど我々が有利になります。地方のローカルISPさんと我々の要請は、割とマッチングしていると思うので、我々の稼働や資金が許す限り、消費者の近くまで出て行きたいと思います。

アカマイサーバの分散の結果として、IPv6での問題の解消に近い方向へと向かえると思います。とはいえ、通常はIPアドレスを2つしか返さないので、その範囲であればIPv6でも全く問題はありません。

アカマイ、そして世界のIPv6への動き

─⁠─御社のIPv6化は世界全体で完了しているのでしょうか?

アカマイサーバは、世界80ヵ国に設置してありますが、全ての国でIPv6をデプロイしきっているわけではありません。主要な産業がある所に関しては既に準備は終わっているので、我々の言うところの「Generally Availability」というクラスでのサービス提供に近づいてはいますが、一部の地域ではまだ使えないので「Limited Availability」になっています。

─⁠─アカマイサーバ同士は、IPv4とIPv6のデュアルスタックで運用されているとのことですが、アカマイサーバ同士が通信を行うときに、IPv6が利用されることはあるのでしょうか? 恐らく、IPv4であるかIPv6であるかに関わらず、最も効率的なパスが選択されるアルゴリズムだとは思いますが、「アカマイサーバ間における最速経路がIPv6である」という箇所はありますか?

いわゆるTier 1と呼ばれるようなキャリアの近くでは、IPv6も使っています。

アカマイサーバ間での通信を行うとき、まずは名前解決が行われますが、その結果としてIPv6アドレスが返ってくれば、まずはIPv6でチャレンジします。そのチャレンジが成功すれば、IPv6で通信が行われます。しかし、実はそのチャレンジが失敗することが非常に多いです。チャレンジが失敗したらIPv4が利用されます。

IPv6の方がIPv4よりも速いと判断されて、利用されるケースはまだ少ないのですが、一応機能としては生存確認はしています。SureRouteの機能としては、経路が生きているかどうかを見ています。アルゴリズムとしては使うことになっていますが、現実としては、まだあまり使われていません。

─⁠─それは、IPv6の方が遅い場合が多いとおっしゃってますか?

遅いというよりも、まずつながらないというケースが多いと言えます。

アカマイサーバ同士は、直接つながっているわけではなく、BGPによる経路を通じてアカマイサーバ同士がつながっています。そのBGPでの経路がつながらないということがあります。

Tier 1のような大手キャリアに接続されたところであれば問題がないのですが、さまざまなASをまたがるとつながらないケースが出てきます。⁠IPv6 ready」と言いながら、遅いルートが結構あるようです。結果として、アカマイサーバ同士の通信でIPv6が利用されることは非常に少なくなっています。

─⁠─IPv6に取り組み始めたのはいつ頃ですか?

デュアルスタックによるアカマイサーバを実際に実装しはじめたのは3年ぐらい前です。しかし、1998年ぐらいの時点でIPv4とIPv6を変換するプログラムを社内で作ったりはしていました。そのときから、IPv6対応というのは検討はしていました。

ただ、デプロイをしはじめたのは、IPv4アドレスのIANA在庫枯渇が現実のものとなった3年ぐらい前でした。IPv6をやらなければマズいという雰囲気になったのが3年ぐらい前だったからです。

2010年ぐらいに多くのお客様から「IPv6はどうなっているのですか?」というお問い合わせを頂いていましたが、当時はデプロイはまだでしたがプログラムはありました。

─⁠─IPv6を求める顧客は数年前と比べて増えましたか?

日本では、2011年のWorld IPv6 Dayの前に3社か4社が強い関心を示されましたが、それ以降はほとんど無いですね。今年は、お問い合わせベースでは数件あったと思いますが、実際に「やりましょう」という話にはなかなかなってないです。そこまで需要が見えてないのが現状です。

メディア系の企業の方々に「IPv6でコネクトしましょうよ」という話はするのですが、⁠おもしろそうですね」となって「で、それで何をしましょうか?」という話になると、テレビ会議ぐらいしか案が出てこなかったりします。

─⁠─グローバルIPアドレスが必要となったときに「IPv6を使いましょう」となるというわけですね。

恐らく、そこしか無いような気がしています。事前の登録無しでダイレクトに着信させるような用途ぐらいしか無いと思います。日本ではそうですね。

ワールドワイドでは、米国政府が調達の条件でIPv6対応を入れているので、それに対処するために増えています。

─⁠─米国では政府調達に関連する部分でのIPv6対応が多いということですか?

米国ではそれしかないと聞いています。

─⁠─米国以外ではどうですか?

あまり聞かないですね。各国政府が調達の条件に入れるかどうかは大きなポイントになるのではないかと思います。

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M2MがIPv6の起爆剤となるか?

─⁠─今後のIPv6に関しての感想を教えてください

新サービスが出ないと、急激な普及は難しいかも知れません。

M2Mの引き合いは、凄い勢いで来ています。たとえば、世界中のブルドーザーの状態を把握するという用途でご利用いただいている事例がありますが、それと同じようなことをやりたいとおっしゃる装置産業の方々結構多いんです。それ自体はIPv4かIPv6かは関係がないのですが、つながってくる端末の数が人口をベースにした勘定とは桁が違う数で増えて行くのは間違いないと思います。とはいえ、それがIPv6でなければできないのかというと、そこはクエスチョンで、NATの裏側に居てくれても問題がないという部分もあります。

いろいろな装置産業の方々から、世界中に配備してあるプラントなど、定期的なメンテナンスが必要な大きな機械のメンテナンスを効率化したいので、リアルタイムにデータを集めたいというお話はいただきます。たとえば日本の国内では、端末に数分ごとに電話をかけさせてデータを集めているシステムがあります。日本中に置いてある端末から電話がかけられるわけですが、その電話代が膨大な金額になるので、日本国内はまだ良いとしても、世界的にそれを行うのは難しいのでなんとかしたいというお話をいただくこともあります。

そういった話とIPv6が関連するのかはわかりませんが、その話の延長線上として、今は人間が操作するものだけにIPアドレスが振られていますが、今後は勝手にIPアドレスが振られて運用されるものが増えて行くだろうと思います。

─⁠─ありがとうございました。

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