インターネットを支える技術者たちの集い―gihyo.jp×JANOG presents

第5回インターネット利用に係る事業者の責務?(仮)

はじめに

最近、インターネット上で⁠ブロッキング⁠という言葉を目にした読者も多いのではないでしょうか? 今、インターネット上にある児童ポルノへのアクセスを遮断する⁠ブロッキング⁠が、ISPによって行われようとしています。

ネットワークオペレータとして、この⁠ブロッキング⁠を考える機会――それが、1日目(7月8日)15:10開始予定のプログラム「インターネット利用に係る事業者の責務?(仮)」です。

なお、JANOG26のプログラムは以下のURLにて公開されていますので、併せてご参照ください。

JANOG26 Meetingプログラム
http://www.janog.gr.jp/meeting/janog26/program/

ブロッキングとは?

ブロッキングというのは、ドメイン名やホスト名からIPアドレスへ変換する仕組みを提供しているDNSに手を加えたり(DNSポイズニング方式⁠⁠、通信が特定のサーバを経由するような仕組みを用意したり(Proxy方式)するなどの方式により、あらかじめ準備されたリストをもとに特定のコンテンツへのアクセスができないようにするものです。

また、ブロッキングを実施する主体も様々です。

従業員が業務外のホームページを閲覧しないように企業が実施していたり、教育上好ましくない情報へアクセスできないように学校が実施していたり、広く世界を見渡すと国民がふさわしくない情報へアクセスできないように国が実施しているケースもあります。

身近なところでは、アンチウィルスソフトの一機能として提供されています。もしかしたら、子供がいらっしゃるご家庭で、それを利用している読者もいらっしゃるのではないでしょうか?

今なぜ議論されているのか?

最近報道されているのは、⁠児童ポルノへのアクセスを民間主導でブロックする」という内容です。

そもそも、日本では2008年6月に、いわゆる「青少年ネット規制法」というものが成立しています。この法律に基づいて、たとえば、携帯電話を契約する場合、未成年者は親権者の申し出がない限り、コンテンツフィルタリングサービスへ加入しています。

しかし、青少年ネット規制法はその名のとおり、18歳以下の青少年を対象としており、成人などは対象外となっていました。今回のブロッキングは、すべてのインターネット利用者を対象としています。

そして、民間主導とはいえ、コンテンツを何らかの方法にてブロックするため、⁠利用者の通信を知らなければブロックできないのだから、通信の秘密を侵害するのではないか」「ブロック対象となっているリストはどのように運用されるのか」といった議論がされています。

プログラムでは何をするのか?

このプログラムでは、ブロッキングの運用で発生する「オーバーブロッキング」をメインテーマに設定し、話を進めていく予定です。オーバーブロッキングとは、本来であれば制限されないコンテンツも、ブロッキングの運用により制限されてしまう状態です。

たとえば、example.jpドメインが、違法コンテンツがあるとしてブロック対象リストに掲載されたとします。しかし、実際に違法コンテンツがあるのはホスティングサービス利用者がコンテンツを置くusers.example.jpだけだったとき、なんら問題のないホスティングサービス事業者のコンテンツを置くwww.example.jpやinfo.example.jpにもアクセスができず、オーバーブロッキングという状態になってしまいます。

一見すると、同じドメインで運用されているから何も問題がないように感じることと思います。しかしここには、www.example.jpにおける言論や表現の自由が奪われてしまっています。

難しいテーマ

一口に⁠ブロッキング⁠といっても、様々な背景を伴って今に至っています。また、その実施には法改正なども伴うかもしれません。それらすべてを考慮して議論するには、幅広い知識を持つ必要があるでしょう。

そして我々はネットワークオペレータとして、⁠ただブロッキングを実施すればよい」というのではなく、⁠ブロッキングを実施すると、オーバーブロッキングなどの問題が起こりうる」ということを知らなければなりません。

近い将来、実施されるかもしれないブロッキングについて、少し考えてみませんか?

おすすめ記事

記事・ニュース一覧