私がどのようにしてLinuxの開発に関わってきたか
私は1996年にユーザとして初めてLinuxにかかわりました。そのころ、私は通信事業会社に勤務していました。仕事で UNIXベースのプラットフォームを使用していたため、自宅でもUNIXに似た環境を使いたいと思いました。でもUNIXのハードウェアはとても高価でしたし、PCベースのUNIXソフトのライセンスも同じく高価でした。そこでSlackwareのフロッピーイメージをダウンロードして、自宅のスペアPCにLinuxをインストールしたのです。実は日本に顧客の企業が1社あったため、そのころ東京にも初めて行きました。
私は1998年までLucentに勤務し、開発中の新しい通信事業プラットフォームのHA(ハイ・アベイラビリティ: 高可用性)要件を担当していました。そのプラットフォームはさまざまなUNIX派生版から構成されていましたが、すべてGNUツールチェーンを使用していました。自分の開発プラットフォームは主にLinuxでした。使い慣れていただけでなく、優れたコンパイラが入っていたからです。そしてこの時にLinux-HAプロジェクトを見つけたのです。そのプロジェクトが目指しているものと、私が目指しているものはほとんど同じでした。私はプロジェクトに参加してLinux-HAを使い始め、小さな改良プログラムをいくつかコントリビュートしました。
2000年まで運よくLinuxディストリビューターで仕事をすることができました。私はそこでリサーチグループに在籍し、セキュリティを担当していました。そしてLinuxカーネルの開発を始めました。Linuxセキュリティコミュニティと協力してLinux Security Moduleフレームワーク を作成し、その後LSMメンテナーとなりました。その後、Linuxセキュリティオフィサー、-stableツリーの共同メンテナー、XenLinux ハッカー、paravirt_opsインフラの開発者兼共同メンテナー、さらにKVMハッカーとなりました。
「Linux+KVM」の進化にライバルは付いていけない
Linux市場は常に変化しています。その中心でLinux自体がめまぐるしく変化し、自ら革新し、進化しているのです。いつでも新しい市場に適応できます。Linuxの拠点はずっとサーバ分野にありました。Linuxが高い安全性、安定性、パフォーマンス、スケーラビリティ、エネルギー効率を保ち続けるかぎり、この状態はこれからも同様に続くでしょう。
また、Linuxの一部であるKVMとともに、仮想化やクラウド コンピューティングが業界で注目を浴びていますので、おそらくLinuxとKVMは、あっという間にクラウド分野に進出して行くでしょう。Linuxがサーバ分野で達成したのと同じコモディティ化が、このハイパーバイザー分野でも起こっています。LinuxやKVMの進化と同じ速度で競争するのは難しいでしょう。
そのほかLinuxにとって興味深い市場は、クラウドとは対極にある市場です。Linuxは、一般ユーザーから離れたデータセンターの大規模なサーバマシンで優れた機能を発揮していますが、ネットブックやスマートフォンのような小さな機器でも同じです。つまり膨大な数のユーザが直接Linuxを使えるわけです。すごいと思いませんか?
KVMの大前提の1つは、他の強みを利用することです。ですからKVMは、パフォーマンスや効率性を向上させている最近の仮想化認識ハードウェアを軸に進化を続けています。同時に、KVMはより深くLinuxカーネルに統合されようとしています。仮想メモリサブシステムでも、スケジューラでも、あるいはリソース管理でも、統合が深まればKVMはさらに進化します。主に進化するのはパフォーマンスとスケーリングですが、KVM がクラウドに進出するにつれ、管理のしやすさもホットな話題になっています。
もっと日本の開発者の意見が聞きたい
KVMはコラボレーションです。KVM開発者コミュニティがなければ、KVMは存在しませんでした。このコミュニティには日本の開発者も参加し、KVMプロジェクトには皆さんの努力が反映されています。要求を出し、開発者を提供することで、KVMは成長と進化を続けます。
今回LinuxConが日本で開催されるのも、日本がいかにLinux開発コミュニティの重要な役割を担っているかを物語っています。私は、10年近く前にOSDLの後援で開かれた日本でのワークショップから今回のLinuxCon Japanのようなカンファレンスまで、ずっと日本のLinuxコミュニティと協力してきました。日本のLinuxコミュニティは世界のLinuxコミュニティの一員として本当に熱心に取り組んでいます。このカンファレンスは、まさに彼らの努力の賜物です。
今回私の話を聴きに来られる方に、まずは聴いていただけることにお礼を言いたいですね。ただ、私は皆さんの意見も伺いたい。なぜKVMはあなたにとって有益なのかを考え、どうすればさらに良いものにできるか、教えてください。
- LinuxCon Japan:Chris Wrightさんのセッション「The KVM Weather Report」
- URL:http://events.linuxfoundation.org/2010/linuxcon-japan/wright