LinuxCon Japan/ Tokyo 2010の歩き方

第7回「LinuxCon Japan/ Tokyo 2010」レポート(その1)

2010年9月27日~29日の3日間、東京の六本木アカデミーヒルズにおいて「LinuxCon Japan/ Tokyo 2010」が開催された。同カンファレンスは、企業の垣根を越えたコラボレーションを促進し、日本やアジア太平洋諸国と世界のLinuxコミュニティとの交流の場を提供することを目的としている。アジア太平洋地域における最大のLinuxカンファレンスであり、コアデベロッパー、アドミニストレーター、ユーザ、コミュニティマネージャー、さらに業界エキスパートが世界中から集い、多彩な最新のセッションが多数実施された。これから2回にわたって、いくつかの基調講演を中心にカンファレンスの様子を紹介しよう。

2010年はLinuxにとって最高の年に

Linux Foundationエグゼクティブ・ディレクターJim Zemlin氏
Linux Foundationエグゼクティブ・ディレクターJim Zemlin氏

9月27日、カンファレンスのスタートを飾ったのは、Linux Foundationのエグゼクティブ・ディレクターであるJim Zemlin氏による基調講演「Ubiquitous Linux:The New Computing Fabric」であった。Jim氏は、Linuxがどのような状況でどう変化してきたのか、そしてどこに向かうのかについて講演した。

Zemlin氏は「2010年はLinuxにとって、かつてない最高の年」と語り、Linuxの歴史を振り返った。19年前、趣味から始まったLinuxは、10年前にエンタープライズに進出。そして現在、Linuxは単なるOSではなく、将来の本格的なコンピューティングの構造を作る重要な土台となっている。今年はLinuxにとって新しい時代の始まり。つまり、Linuxが新しい時代のコンピューティングを決定していくと述べた。

またZemlin氏は「なぜLinuxなのか」の理由に言及し、コンピューティングの未来がLinuxで定義されていることを挙げ、インターネットの変化、コスト削減、PCクライアントの性質の変化、無料化の要素をポイントにあげた。

今や10億人がインターネットに接続しており、20億人が接続する時代へと向かっている。新しい世界では、すべてのものがインターネットに接続される。

このような時代には、PCもまったく別のタイプが求められる。そこで鍵となるのが、すべてのものにIPアドレスを割り振りインターネット接続を可能にする「組み込みシステム⁠⁠、データを収集、蓄積するための「ネットワークサービス⁠⁠、収集したデータを分析し価値あるものにする「スーパーコンピュータ⁠⁠、必要なときに必要なデータをリモートから参照、表示できる「デバイス」であると指摘した。

実際に、Linuxを採用したオープンソースの開発モデルは、コスト削減に有効であり、クライアントコンピューティングの性能の変化は、あらゆるデバイスへLinuxを搭載することを可能にした。また、無料のラップトップを提供する「TMobile」のように、ハードウェアまで無料化するというマーケットの大きなシフトが起こっており、エンタープライズでも同様のことが起こりつつある。さらにサービスはクラウドを基盤に提供され、収益を得るというサービス指向の変化がインターネットをベースに起こっている。

こうした4つの主要なトレンドを背景に、⁠Linuxは成熟しているのではなく、始まりを迎えている」と、JimZemlin氏は基調講演を締めくくった。

真のオープンソースの精神が息づく「Got MeeGo?」

インテルChief Linux & Open Source Technologist Dirk Hohndel氏
インテルChief Linux & Open Source Technologist Dirk Hohndel氏

続いて登壇したDirk Hohndel氏は「Got MeeGo」と題し、ノキアとインテルによる共同プロジェクト「MeeGo」を紹介した。

「MeeGo」は、両社が7ヵ月くらい前からスタートさせたオープンソースプロジェクト。進行していた双方のプロジェクトはオーバーラップする部分が多く、一緒に進行した方が効率的であるため統合したという。統合に際し、プロジェクトの数も最適化している。プロジェクトでは、対象を「ノートネットブックPC」⁠ハンドセット」⁠タブレット」⁠メディアフォン」⁠コネクトTV」⁠車載情報端末自動車」に絞り込むことから始まった。

特に重要な点は、真のオープンソースプロジェクトとして、運用や開発などのコミュニティを動かしている。コミュニティには大企業も参加しているが、本質的にアプローチから実装までオープンソースコミュニティにデベロッパが関わり、さまざまなマーケットにバーティカルに関わっているのが大きな特徴だ。

統合の際の条件は、Linux Foundationファンデーションの監督のもとに行うプロジェクト仕事にすることだった。ディスカッションやアジェンダの設定なども、ワーキンググループ、メーリングリスト、フォーラムなどといったオープンソースプロジェクトに従来からあるものが活用されている。エンジニアもコミュニティの一員であり、エンジニアと話をするときには大手企業でもパブリックのメーリングリストでやり取りしているという。

オープンが大前提で、みんながアクセスできることが条件であったが、そういうカルチャーを作ることも目的のひとつだった。真のオープンソースプロジェクトとするため、その特徴的な要素である「積極的参加」⁠実力社会」⁠貢献」をキーワードに掲げ、コアOS、UI、ライブラリ、ツールに至るまで公開している。また、要求仕様もコンプライアンスの範囲内で公開している。

完全なオープンソースのソフトウェア開発手法を採用することにより、活気のあるアプリケーション開発が実現できた。すべて無料のオープンソースで成果物を作成するため、ユーザへのメリットはアプリケーションベンダがライセンスによる付加価値として提供する。これにより革新的なビジネスモデルを確立した。

「MeeGo」の新バージョンのリリースの間隔は6ヵ月としており、次回は10月末、次々回は4月となる。次期リリースに何を含めるかも公開しており、効率よく開発できるよう工夫している。たとえば、APIのセットは常に最新のものにしている。APIを準備しておくことで、ベンダはいろいろなデバイスに「MeeGo」をすぐに組み込むことが可能となる。

「MeeGo」はApp Storeから配布するが、ひとつのApp Storeに限定せず、自社のApp Storeなどから配布することを可能としている。配布においてもオープンなインフラを採用していることも「MeeGo」の特徴的な要素であるとした。

エコシステムの観点においては、⁠MeeGo」のプラットフォームはオープンソースの「Upstream Open Source Component Projects」「MeeGo Component Projects」において開発され、⁠MeeGo.com」でコンポーネントが統合される。これがオープンソースプロジェクトによるインフラとなっており、⁠MeeGo.com」でアプリケーションベンダとチップセットベンダが参加してデバイスベンダにより製品化やサービス化されエンドユーザに提供される。なお、テクノロジベンダにより「Operating system Vendors」を構成し、製品やサービスに至るケースもある。

これらが最適化された「エコシステム」である一方で、オープンソースの考え方がベースになっており、また企業が参入しやすくビジネスを展開しやすい環境になるよう工夫されている。これがつまり、Linuxデベロッパが望んでいるような世界だという。

また「MeeGo」はUpstream Firstという概念を導入している。これは従来の概念を覆すもので極めて重要なポイントだ。他のどんなプロジェクトとも異なり、通常のオープンソースプロジェクトとも異なっている。⁠MeeGo」ではすべてのソースコードを公開し、ダイレクトにUpstreamプロジェクトに利用することを可能にしている。これはコミュニティにおいても同様だ。⁠MeeGo」で行うすべての作業がUpstreamのプロジェクトに反映され、コミュニティも真の意味でUpstreamプロジェクトを活用していく。この緊密な連携も大きな特徴だ。

この手法は、実は競合他社にも有利であるとDirk氏は言う。プロダクションすべてがオープンで、何も隠していないためだ。同じパッチ、同じコードを使える環境で、全体としてシステムが回っていく。1からすべてを開発する必要がないエコシステムでもあり、ベンダが高いレベルで関わることができる。特にハイエンドのモバイルを作成することに適している。これらの根底にはコミュニティを大切にするという理念があり、それが真のオープンソースの精神であるとして、Dirk氏は講演を締めくくった。

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