皆さん、こんにちは。
この連載を読んでいただいている方の中には、CCNAなどのCisco資格取得を目指している、またはすでに取得されている方も多いと思います。Cisco製品を販売したり利用する立場の方も多いと思うのですが、お客様などから「お勧めのIOSバージョンは何ですか?」などと質問されて困ったことはありませんか?
今回は筆者の経験に基づき、「IOSの選び方」について書いてみたいと思います。また、ちょうどIOSのバージョンが12.4から15.0へとジャンプアップしましたので、開発方針にどのような変化があったのかについても考察してみたいと思います。
IOSは1981年にスタンフォード大学で開発されたもので、Cisco生誕以来、ルータ用のOSとして後方互換を保ちながら進化し続けており、現在ではLANスイッチのCatalystシリーズや無線LANアクセスポイントのAironetシリーズなどにも搭載されています。
ただし今回は、CatalystやAironetの話は別の機会にまわすことにして、ルータに限った話をします。
バージョン12.4まで
まず、12.4までのバージョンですが、
といった形で表記され、大きく以下の2種類に分かれていました。
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Tトレイン
最新機能を使いたい顧客向けのOSであり、「12.4(15)T11」のようにバージョン表記にTの文字が入ります。
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メイントレイン
最新機能は不要で安定したOSを利用したい顧客向けであり、バージョン表記にTの文字が入りません。
次にバージョン表記の意味について説明します。
たとえば「12.4(25)」には以下のような意味があります。
- Tの文字が入っていないのでメイントレインです。
- 最初の「12.4」がバージョン番号で、バージョン番号が同じであれば搭載されている機能は同じです。
- カッコ内の数字がメンテナンス番号であり、メンテナンス(バグの修正など)が行われることによって数字がカウントアップされていきます。
つまり「12.4(25)」と「12.4(12)」を比較すると、次のようになります。
- バージョン番号が同じなので搭載されている機能は同じです。
- 「12.4(25)」のほうが多くのバグを直しているので、安定して動作することが期待できます。
- したがって、「12.4(25)」のほうがお勧めです。
次に、Tトレインのバージョン表記を見てみましょう。
例として「12.4(15)T11」の意味は次の通りです。
- Tトレインです。
- 最初の「12.4」がバージョン番号です(ここまではメイントレインと同じ)。
- カッコ内の数字がメンテナンス番号ですが、Tトレインの場合はメンテナンスのたびに新しい機能が追加されています。
- Tの後ろの11はリビルド番号であり、機能追加なしでバグ修正などを行った回数を表しています。
つまり「12.4(15)T11」と「12.4(9)T5」を比較すると、次のようになります。
- 「12.4(15)T11」のほうが新しい機能が搭載されています。
- どちらが安定しているかの判断はできません。なぜなら「12.4(15)T11」のほうが新機能を追加したぶんだけ新たなバグが発生するリスクが高いと言えますが、リビルド回数も多いので多くのバグが修正されていると期待もできるからです。
- したがって、「どちらがお勧め」とは言えません
また、Tトレインの中でも何度もリビルドを繰り返して安定化させようとするものと、あまりリビルドせずに諦めてしまう(?)ものがあるようです。たとえば、12.4(6)Tや12.4(11)Tはそれぞれ11回もリビルドしていますが、12.4(20)Tは4回しかリビルドしていません。
おそらく開発方針などによって、気合をいれて(?)バグを修正するものと、そうでないものがあるようです。内部事情に通じていないと、Tトレインのお勧めバージョンはわかりません。そのため、以前はシスコ日本法人から、機種ごとの「推奨IOSバージョン」がパートナー向けのWebページで公開されていました(現在は休止しています)。
それから、Tトレインとメイントレインの関係ですが、
Tトレインの最終メンテナンスバージョンをベースとして、次のメイントレインが作られる
という関係にあります。
つまり、12.4メイントレインの最初のバージョンである12.4(3)は、12.3Tの最終メンテナンスバージョンである12.3(14)Tをベースとして作られていたのです。したがって、メイントレインといえども、メンテナンス番号が若いものは、Tトレインと大差ない品質であると想定できます。
バージョン15.0以降
では、最新の15.0の話に移ります。
バージョン表記は「15.0(1)M1」のようになります。
- 15.0がバージョン番号です。
- カッコ内の数字が機能リリース番号で、機能が追加されると数字がカウントアップされます。
- 次の"M"は長期メンテナンス版であることを示しており、バグ修正などのサポートが44ヵ月間提供されます。
- "M"のところが"T"の場合は標準メンテナンス版であることを意味し、サポート期間は18ヵ月となります。
- 最後の数字はリビルド番号であり、機能は追加せずにバグ修正などを行った場合にカウントアップされていきます。
そして、当面は以下のような順番でリリースされることがアナウンスされています。
つまり、最新の機能が必要でない一般的なユーザ向けのIOSは、15.0(1)M → 15.1(5)M → 15.2(x)M → 15.3(x)M と機能追加されていき、それぞれ44ヵ月間の長期サポートが約束されます。この長期サポート版は、だいたい20ヵ月ごとに新バージョンがリリースされるとのことです。そして、次の"M"を待てないユーザは、一時的に標準サポート版の"T"を使ってください、ということです。
したがって、今後のIOS選びは、顧客が必要とする機能条件を満たすバージョンで、もっともリビルド数の多い"M"を選択するのが基本となります。
たとえば、15.0(1)Mで機能要件を満たすなら…
- 15.0(1)Mの最新版(リビルド数が最も多いもの)を選べばよい。
15.1(1)Tで新たに実装された機能を使う必要がある場合は…
- 当面は15.1(1)Tの最新版(リビルド数が最も多いもの)を選ぶ。
- 15.1(5)Mが出た時点で、"M"への移行をお勧めする。
という考え方になります。以前と比べ、ずいぶんわかりやすくなりましたね。
また、ここまで読んでいただくと、15.0のリリース方針は12.4Tのスキームを発展させたものであることがわかると思います。
前述のとおり、12.4Tの中にも安定志向のバージョンとそうでないものがあったのですが、外部の人間には判断がつきませんでした。
そこで15.0では、"M"と"T"で明確に区別したと考えられます。
そして、この方法をとることによって、12.4までのメイントレインに相当する長期サポートのバージョンも、一本化してわかりやすくした、ということでしょう。