今回は「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015 in Ezo」( RSR)の1日目に参加して、会場内のアクセスポイント(AP)の様子を取材したレポートをお届けします。また、会場のすぐ隣にある石狩データセンターにも足を運び、フェス参加者からのアクセスを処理する機器およびデータセンター全体の模様についてもお伝えしたいと思います。
RSR 2015開幕! 長丁場に欠かせない設備たち
RSRの会場は広大で、端から端まで歩こうとすると1時間近くもかかってしまうほどです。その広い敷地に計7つのステージが立ち、100を超えるバンドが代わる代わるライブを行います。演目は深夜あるいは早朝まで続き、フェス参加者は会場内にテントを張って寝泊まりしつつ、音楽を聴きながら日の出を迎えます。
会場入り口「HEAVEN’S GATE」
会場の様子
最大規模のステージ「SUNSTAGE」
有名アーティストも続々登場する「RED STAR FIELD」
さくらインターネットのAPは計7ヵ所、各ステージをカバーするように設置されていました。ソーラーパネルと一体になった無線LAN装置「ポジモ」でWi-Fiを張り、連載第1回で紹介したFWAを使って無線でデータセンターに中継しています(1ヵ所については有線接続) 。
会場に設置されたWi-Fi/充電スポット
電源設備不要のWi-Fiアクセスポイント「ポジモ」
APのテントでは無料の充電スポットも用意されていました。会場から出ずに2日間通しでフェスを楽しむ人も多く、無料の充電スポットは重宝する人が多かったのではないでしょうか。
無料充電スポットに用意された充電用コンセント
今回のRSRでは会場マップやタイムテーブル、最新ニュースなどが確認できる公式アプリがリリースされました。広い会場で目当てのバンドを効率的に回るにはとても便利です。Wi-Fiスポットの近くでは、アプリを起動している参加者を多く見かけました。
RSR公式アプリの画面
Wi-Fiアクセスで公式アプリから最新ニュースを確認できる
RSRネットワークの「母艦」さくらインターネット石狩データセンターとは
石狩データセンターがあるのはRSRの会場のすぐ隣、300メートルほど離れた場所です。札幌からは車で30分ほどの距離にあり、広い土地を活かした郊外型のデータセンターとなっています。センター長であるさくらインターネットの宮下さんに中を案内してもらいました。
石狩データセンター外観
石狩データセンター最大の特徴は「外気冷房」です。北海道の涼しい気候をそのまま利用して、できるだけ電気を使用しない、低コストの空調が実現されています。外気の取り込み口には写真のものを含めて3層のフィルタが設けられています。
外気の取り込み口のフィルタ
粉塵を除去するほか、海が近いということもあって潮風の対策も講じられています。宮下さんによると、「 地味だけど、( 外気を利用する)石狩データセンターではもっとも重要な設備です」とのこと。また、冬場は外気が冷た過ぎるため、サーバルームの排気と混ぜて適切な温度にしてたうえで空調に使用しています。データセンターのおもな空調方式には「天井吹き出し方式」「 壁吹き出し方式」がありますが、石狩データセンターでは実証実験の意味も含めて、2方式をそれぞれ別の部屋で採用しています。
天井吹き出し方式
壁吹き出し方式
石狩データセンターでは、一部の給電システムに高電圧直流(HVDC)が採用されています。従来のAC方式では、電流がUPS(無停電電源装置)やサーバ内部の電源ユニットを通るためにAC/DCの変換を3回も行う必要があります。一方、HDVC方式ではACで受電したものをPSラックでHVDCに変換し、あとは直流のままでサーバに電力供給を行うため、AC/DCの変換は1回だけです。これにより、電力の損失を大幅に抑えることができます。
外気冷房、HVDCによって運用コストは都市型のデータセンターの半分ほどに抑えることができるようです。
センター長の宮下さんによると、石狩データセンターの設計思想は徹底的な「モジュール化」だそうです。はじめからすべての棟を建て、すべての部屋・すべての列にラックを置くのではなく、棟、部屋、そして列をそれぞれモジュールとして捉え、少しずつ設備を整えて運用に回していきます。これにより、その時点で最新の機器・技術を導入できるというメリットが生まれます。部屋ごとに空調方式が違っていたり、同じ列で異なる給電方式のマシンが混在しているという状態は、モジュール化の設計思想からきているのです。
また、このモジュール化は柔軟なサービス展開も可能にします。まだ何も設置されていないサーバルームを、コロケーションサービスを利用しているユーザ企業の事務所として活用した事例もあったそうです。
まだ何も設置されていない区画とセンター長の宮下さん
現在完成しているのは1号棟、2号棟の2つですが、実運用での知見・最新技術を取り込みながら、最終的には8棟までの建設が予定されています。
RSR会場Wi-Fiのウラガワ
それでは、RSRのWi-Fiネットワークに使われた機器を見ていきましょう。
APからのアクセスは、会場のFWA子局から石狩データセンターのFWA親局に無線で中継されます。アンテナの設置には高所作業車が使われましたが、その作業は大変だったそうです。
データセンターの屋上に設置されたFWAの親局
FWA親局はサーバルームに続いています。サーバルームに入るには生体認証とカードキーをパスする必要があります。
サーバルームへの厳重な入り口
サーバルーム
FWA親局の先にはスイッチとルータが入り、ファイアウォールの展開、プライベートアドレスからグローバルアドレスへの変換が行われます。ここではFWA不達により有線での接続となったAPのための、NTTのNGNサービスのルータも収められています。集約されたアクセスは、最終的にさくらインターネットのバックボーンへとつながります。RSRという巨大な会場でWi-Fiネットワークを実現させるために、さまざまな工夫がなされていることを知りました。
機器が収められたラック
スイッチには「RSR」の文字が
世界最長! 500メートルの直流超電導送電
8月のはじめに発表されたニュース、「 500mの直流超電導送電に成功! 」をご存じでしょうか? リリース資料によると「超電導送電は、極低温にすると電気抵抗がゼロとなる超電導体を用いて行う送電で、送電ロスの低減や送電容量の増大ができます。近年、絶対ゼロ度付近の極低温ではなく、液体窒素温度(-196℃)の比較的高温で超電導となる材料の開発が進み実用化に向けた研究開発が世界的に進められています」とのこと。今回さくらインターネットは石狩超電導・直流送電システム技術研究組合や中部大学らとともに、500メートルの超伝導送電試験に成功しました。この500メートルという距離は、超伝導直流送電において世界最長級の送電距離だそうです。9月には、太陽光発電設備から石狩データセンターへの送電実験が行われる予定です。
太陽電池パネル
超伝導のための設備が収められた施設
石狩データセンターは、もちろんデータセンター事業のために実運用されている施設ですが、内部では最新機器の試験、新方式の設備の実証といった実験的な試みが積極的に行われており、その“ 挑戦的な姿勢” をうかがうことができました。
次回は
今回のRSRのWi-Fiネットワークですが、設計を担当したのはなんと新卒2年目の超若手エンジニア。次回最終回ではそのエンジニアにインタービューし、ネットワークの設計について、また当日の運用についてくわしくお話を伺います。