梅雨があけ例年通りの暑さから、いつもなら水不足を心配するものの、今年は電力を気にするようになりました。今のところ、幸か不幸か台風の影響もあり、水も電気も心配するのはもう少し先送りとなりそうです。
さて、筆者は最近昔お世話になった人とお会いする機会が多々ありました。金融系業種にいた時代にお世話になった人たちがほとんどで、その業界ではインフラエンジニアという職に属するのですが、オープン系、ソーシャルメディア、CP業界のインフラエンジニアとは大きく異なった方々です。業界が金融なので仕方のない部分はありますが、サービスとしてのSNSなどはあまり活用せず、個人持ちの携帯電話も新機種等には興味は示さず、過去のプロジェクトや人事的な話の他は、夏のレジャーの話に終始しました。
近年、仕事面では特にソーシャルメディアが流行し、当然のようにオープンソースを活用し、インフラ周りも自分たちでできるのでれば内製するのが当たり前です。しかし、昔は異なる部分もありました。また、今でも異なる業界は多いのではないでしょうか?
インターネットの歴史で見れば、昔は実名顔出しでアピールすることなど全く考えられないことでした。しかしソーシャルメディアが一般化し、ある程度のアクセス権限等の配慮も実装され、何もよりもそうした環境が学生時代から一般化している年代にとって、インターネットは開かれたものと認識されているのも事実です。
今回は、筆者が金融系企業に勤めていた頃の経験を元に、オープン系の企業と異なる部分を紹介できればと思います。まずはじめに、オープン系とエンタープライズ系企業の常識差がどのくらいあるのかという例をご紹介しましょう。
パワーポイントが禁止の企業もある
オープン系企業では当たり前のように利用されているパワーポイント。勉強会でも自己アピールなどに利用されているのを見かけます。確かにプレゼンテーション機能としてみた場合、これほど手軽に表現できること、そのシェアの広さから、ほとんど選択の余地がないツールといっても過言ではない部分もあります。
しかしながら筆者の経験では、大企業、金融系の中には未だにスタンダードツールとして認めていない企業もあります。その理由として、昔はWord、ExcelがOfficeでPowerPointはOfficeでも別ライセンスだったため、追加購入にも5、6万人が対象となるのが当たり前の企業の場合、少なからずインパクトがあることが見逃せなかった点が挙げられます。
当然、そのような事業系企業の場合、SIerやメーカ等がサービス売り込みの際にPowerPointで素敵なプレゼンテーションを行っても、「では、そのファイル(データ)を送ってください。Word形式で。」という会話が幾度となく交わされたのを覚えています。
データセンターも内製化
オープン系とエンタープライズ系の大きな違いにデータセンター、不動産関連の考え方があります。オープン系企業ではラック数やサーバ台数で規模を表現する傾向にありますが、筆者が金融系企業でIT周りの担当をした際、ほとんどがデータセンターも内製化、もしくは関連(提携)企業のデータセンターで運用され、その機能で規模を感じさせました。もちろん、オペレータなども内製であり、他社共有型等のデータセンターは選択の余地にも挙がらなかったと記憶しています。
その理由はいくつかありますが、厳重なセキュリティ要件として、入退室の管理に通常のカードや静脈認証では足りず、入退出の体重差分を出したり、持ち込み・持ち出しチェックなどが想像以上に厳重である必要があること。当然空港並みに金属探知を受け、探知された物はいかなる理由でも全て入出を認めないという、ある意味飛行機への搭乗以上のルールが設けられている企業もあるほどです。
また、バブル期に作られたデータセンターなどでは、媒体等はパレットにのせ、ロボットが専用のエレベータを経てセンター内のオペレーション部でチェックを行い、人間は別のルートから入室、実作業はオペレーション部門の人間が行う形式もあります。そこでは1つのコマンドを打つだけでも資料が必要で、インストール、アップデートなどある程度の作業に関しては完璧な手順書を必要とし、場合によっては立ち会いが必要などといったことがルールとして徹底されている場合もあります。
「自社内製化」の方向性の一部として、ラックをたてるのも内製、電源工事は資格が必要な部分でもあるため業者に頼む傾向にありますが、アウトレット、レールウウェイ、パネルカットなど、不動産工事の一部は自社で対応する企業もあります。
「厳重なデータ管理」が求められることの一部として、外部記録媒体等の保管(特大耐火金庫の設置など)、深夜バッチ等の結果から、対象データの分散保管準備作業から実際にデータを作成、媒体に保管、分散保管(外のセンタへ連携)などの対応があります。
さまざまな種類の帳票を出力する必要があれば、プリントセンタ等も自社内に用意する必要があります。これは、銀行や証券会社などからお知らせが来るのは経験があると思いますが、ソーシャル系企業から郵送で何かが送られてくる経験はほとんど例にないことからもわかるでしょう。逆に携帯電話キャリア等では請求書の印刷だけでも最高峰のプリンタ、セパレートまでの運用環境が整っていることは想像できると思います。
オペレータの質
オープン系のインフラ関連に付随するデータセンターオペレーション業務は、昨今ではほとんどテープドライブなどを見かけなくなったため、巡回でのランプチェック、不具合発生時の現調(現確)作業で済んでしまいます。不具合発生時も、スケーリングなどで吸収できるため、インフラエンジニアとして即時対応が必要な(突然サービスが跳ね上がってリソースがなくなってしまう等うれしい悲鳴以外は)稀かと思います。
エンタープライズ系企業の場合、(昔は)オペレータがほとんどのバッチを把握しており、テープ等の外部記録媒体対応(※)、リソースに関する対応(はオープン系と大差はありませんが)を行います。緊急時には業務担当者への緊急コールを行い、即時対応が必要かどうか、一時対応の方法、後続処理への考慮指示を受け、実際に対処する必要があります。そういった意味で、エンタープライズ系業務におけるデータセンター内のオペレータはより業務(事業)を理解していた方が良いと言えるでしょう。
そして対象マシンの違い
これは漠然と察することができると思いますが、管理するマシンの差が大きいのも大きな違いです。PCサーバ(IAサーバ)はあくまでもパーソナルというイメージの故に大量生産、大量販売、大容量、高性能化と進んでいますが、ホストコンピュータ(メインフレーム)を管理する場合、それを何千台と並べることも、自作することも、内製でキッティング、移設することも一般的ではありません。
いかがでしたでしょうか?
今回説明した内容はほんの一部ではありますが、同じ職種でも業界が異なるだけで必要なスキルが大きく変わります。お互いに魅力を感じない世界なのかもしれません。最近ではインフラエンジニアが対象の勉強会等も多く開かれていますが、どうしてもオープン系の業界内のみにとどまっている印象があり、エンタープライズ系のエンジニアにも知ってほしいことや、逆に知らせてあげたいなど、いろいろと思うことがあります。
今回、同業の世界に顔を向けるばかりではなく、他の業界を垣間見るだけでも視野が広がる可能性があるというところが紹介できていれば幸いです。
次回は少し古いかも知れませんが、筆者が大手金融企業のインフラエンジニア(基盤系と呼ばれていました)に勤めていた際に実際に行っていた作業の一部を紹介できればと思います。