最初にこの連載のお話をいただいたのは、2009年の10月ごろ、身近にオープンソースや執筆活動をする友人がいて、その友人から「インフラ関連でなんか書かない?」と言われたのがきっかけでした。それまであまり表に出ない筆者のことを知って「おそらく断るのでは?」と思ったそうですが、自分の中でも何かを変えるきっかけ、挑戦をしたいと感じていた部分もあり、思い切ってお受けしたのがきっかけでした。
その後、11月ごろに技術評論社の方々とお話をし、12月から連載が開始されました。
当初数回の連載の予定で、筆者の中では「仮想化」と「金融系インフラ」の2点についてお話できればと思っておりました。
それが数えること23回目を迎え、正直、全くテーマがなくて困り果てたこともあれば、以下に整理してみて初めて「あ、監視周りとか書けばよかった」とか思ったりしています。
全23回のトレンド
まずは23回のトレンドを振り返ってみましょう。
1~3回目 | 仮想化とハードウェアのスペックアップによる台数の削減 |
4回目 | 無償ハイパーバイザーを利用したサーバ仮想化 |
5回目 | 運用 |
6~9回目 | エンジニアのスキルセット |
10~14回目 | CDNとvarnish |
16回目 | 社内情シスのインフラ |
15、17~19回目 | クラウドサービス |
20回目 | 夏の節電 |
21~22回目 | 金融系インフラエンジニア |
仮想化とハードウェアのスペックアップによる台数の削減
連載のお話をいただいた2009年時点でオープン系事業会社(BtoC)を展開するサービス系に身を置いていました。そこでWebサーバ、DBサーバ関係なくスペックの統一、余るリソースは仮想化、サーバスペックもHDDレス(SSD)と比較的当時では珍しい試みの設計を完了、対応していたことをお伝えすることができたのは嬉しく思います。
金融系インフラエンジニア
金融系企業に勤めていた経験から、汎用機の世界をなんとかしてお伝えしたいと思っておりました。大規模、生保系システムという偏った内容だったかもしれませんが、オープンソース関連のインフラとは違った切り口から、連載に入れることができたのはとても嬉しかったです。
クラウドサービス
一方で、原稿を書くという宿命でもありますが、たった23回の連載でも今見返せば古くなってしまった内容もあります。クラウドサービスあたりがそうではないでしょうか?
当時はAWSのシンガポールリージョンを利用しておりましたが、稼働が安定しなかったり、パフォーマンスにムラがあったり(割り当てられたCPUの性能が明らかに異なっていたなどという事象もあったり)しましたが、同時期に東京リージョンが開設され、ユーザが増えることにより実績も増え、利用の価値を見つけられた企業が強くなっていくという良いスパイラルになっていると思います。逆に、ユーザを獲得できないと実績ができない、SLAも向上しないなどの業者は再編の波に苦しむかもしれません。また、一方ではソーシャルゲームなど、サービスに特化したクラウド業者も頭角を現してきていると思います。
CDNとvarnish
varnishを利用したCDN配信環境を作る連載は大変好評をいただけたと思います。
当時在籍していた会社内で「キャッシュ環境を作りたいね」というだけの会話から、当初誰もが「squid」と考えていたプロダクトを「varnish」を推進して実現した内容です。やはり、やるなら新しいプロダクトで、机上で調べて他のプロダクトより性能に期待ができそうであれば、それを証明する検証を行い、適用まで持って行きたいという個人的な好奇心がはじまりでした。
社内外、ご迷惑をおかけした点もあったかと思いますが、今思えばとても楽しい時期でした。
アプリケーションの部分では仕方のない所なのかもしれませんが、たとえば少し古いバージョンのMySQLを使い続けなければならないのでチューニングするのか、または、チューニングをしてしまったので、バージョンがあげられなくなってしまったのか。これはこれで仕方のない部分もあると思いますし、それにより、新しい技術ができることもあるので一概に善し悪しはありません。
このように、オーソドックスな構成で後はチューニングという方法もやりがいはありますが、既存の常識に捕われることなく、全く新しいプロダクトに挑戦ができる。これこそが、インフラエンジニアの醍醐味のひとつなのではないかと思いながら原稿を書いた記憶があります。これはたまたまvarnishの件ではありますが、本連載の1回目~の話題の際には、インフラ(サーバ実機)で過去を全く踏襲しない新しい設計をしました。インフラエンジニアというのは、事例が特に作りやすい職種ではないかと思います。見当たらない事例は自分で作ってしまえばよいのです。
連載前に「何か」を変えようと思った筆者、何がかわった?
全23回、期間にしたら約2年間です。記載する内容はなるべく陳腐化しないように、サービス、運用なども含めた考え方も盛り込んだつもりです。今は私の方から「ギブアップ」をしなかった達成感を噛み締めています。とはいえ、完全にネタ切れの時期は編集の方々へご迷惑をおかけしたかと思います。
一方で、この連載のおかげで私の方も「何か」がかわりました。特に、勉強会や他社交流などでの「つかみ」はよくなりました。また、一緒に働くメンバの方々にも良い刺激を与えられているのではないかと思います。
しかしながら、実際には連載を担当するということはあまり簡単なことではなく、毎月1度、決まったテーマである程度決められた文字数にまとめる必要があります。目的(テーマ)をもって関連することに取り組んでいることと、それを文章にして期日までに提出するというハードルを毎月繰り返すことが必要となります。筆者の場合は毎月月末が近づくにつれて「そろそろ」というタイトルのメールにどれだけ怯えたことか…(嘘です)。
最後に……
今後も積極的に活動をしてきたいと思っています。自分自身のスキルアップを行うためというのは当然のこと、まだ若いけど優秀なエンジニアなどとも一緒にやっていければと思っています。
ここまで連載を続けられたのは、読者の皆様と、ご紹介をいただいた@elfさん、一度きりの共著ではありましたがxcir(いわなちゃん)さん、稚拙な文章でも根気強くおつきあいくださった編集の小坂様はじめ、技術評論社の皆様のおかげかと思います。改めましてありがとうございました。皆様とはまたどこかでお会いできれば幸いです。