エンジニアの起業がうまくいかない場合の理由
今回から、いよいよ本質に迫っていきたいと思います。
エンジニアが起業してうまくいかないのはなぜなのか?について考えていきます。
前回の記事で、うまくいかないのは事業の当てが外れるか、資金調達の当てが外れるかのどちらか、ということを書きました。ことエンジニアの起業に関して言うと、前者の比率のほうが高いように思います。それは事業についてエンジニアのほうが不得手であるという理由と、そもそも資金調達を前提とした起業をあまりしない傾向もあるように思います。
金勘定について考える
端的にいうと、エンジニアというのは金勘定が下手なのです。金勘定ではなくて金儲けと言っても良いですが。
なので事業の目論見も外れることが多いし、そもそも資金調達がどういうものかよくわかっていないというのもあるかと思います。もちろんそれは全員ではなく、あくまで傾向という話ではありますが。
エンジニアは金にまつわる経験値が低い
ではなぜエンジニアは金勘定が下手なのでしょうか。
1つには金勘定の経験値が少ないからという理由が挙げられます。
営業職や企画職、マーケティング職というのは、仕事柄お金の流れを意識しています。営業は売上、原価、経費という概念が身についていることが多いですし、企画やマーケティングは市場規模やシェアという概念を普段から取り扱っています。誤解を恐れずに言えば、営業職や企画職というのは、技術を「売上のための道具」だと思っています。
そしてそれは別に間違いではありません。
エンジニアが技術を道具として考えて、そこから商売を発生させるという発想をして、それを目論見通りお金に変えることはある意味類まれなケースではないでしょうか。
労働集約産業の問題点
そして目論見が外れると次によくあるパターンが、技術を道具として扱うのではなく技術自体を商品にするというものです。これはつまり、業務委託や受託開発という、「工数」を販売するいわゆる「労働集約」産業への転換です。
こうなると、収入を得るためには働き続けるしかありません。
働いて収入を得るのは別に悪いことでもなんでもないのですが、この形態の問題としては、「自分の仕事に割く時間がほとんどそこに使われてしまう」というものです。そうなるとどうなるかというと、営業をする時間がなくなります。営業というのはこの場合、自分を工数として売り込む行為のことです。
もちろん良い仕事をしていれば、同じ発注元からずっと契約を得続けるケースもあるでしょうし、評判を聞いて発注が常にあるため困らないというケースもあるでしょう。でも、それくらい優秀なエンジニアが、工数売りの労働集約に勤しむというのは何かもったいないというか残念な気がするのは、私だけでしょうか。
大事なのは市場規模と市場価値
ここで、なぜエンジニアは技術を道具として考えてそれを商売に変えることが下手なことが多いのか、考えてみます。
まず、会社の外のことがわかっていないことが多いと言えます。つまり市場や顧客、取引先のことです。そして、会社の中のこともわかっていないことが多い気がします。それは資金や売上、原価、経費などの会社の基本や、事業構造というお金を稼ぐ仕掛けのことです。
本連載第2回でも触れたように、この中でも特に重要なのは市場です。手がける事業の市場がどのくらいか、そこからどのくらいのシェアが取れるのか、それが曖昧なままスタートしてうまくいくはずがありません。
ところがリスクを負わない周囲が「とりあえずやってみることだよ」とか言ったりして、根拠なく勇気づけられてしまったりするので困ったものです。市場や顧客のことがわからずに事業がうまくいくことなど、ないのです。
そしてまた、うまくいかない中にも「そもそもやろうとしていることが益体もない」ケースと「やろうとしていることはアリだけどうまくお金に変えられない」というケースがあります。
金勘定がわかる人に頼る
前者は論外で起業すべきではありません。後者は、いわゆる良く言われるところの「マネタイズがうまくいかない」ケースです。これはマネタイズが上手な人と組めば、うまくいく可能性があります。たとえば創業当初のホンダ(本田さんと藤沢さん)やソニー(井深さんと盛田さん)はこういうパターンだったのかもしれません。アップルのジョブズとウォズニアックもそうかもしれませんね。
後者の事業構造(ビジネスモデル)は良いのに儲かっていない、というケースは大変もったいないと言えます。こういうケースはぜひ、自分自身でそういうスキルを付けるなり、そういうことが得意なパートナーを見つけるなりして、成功してもらいたいと心から思います。
事業が成立する市場かどうか?判断のポイントは「消費」
ただ残念ながら、エンジニアの起業がうまくいかないのは、前者(そもそもやろうとしていることが益体もないケース)であることのほうが圧倒的に多いように思います。
「なぜそれで事業化できると思ったのか」という判断に問題があるパターンです。
失敗しないためにも、その事業が成立する市場があるかどうかは、どうやって考えたら良いのでしょうか。一番簡単なのは、消費にどのくらい結びつくかどうかを考えることです。この世にあるありとあらゆるビジネスは、最終的には個人消費のための何かです。
個人向け消費
そもそも個人相手に売上を建てるビジネス、たとえばソーシャルゲームや個人向けECなどは、とてもわかりやすい例です。個人向けに売上を立てる企業向けに売上を立てる、いわゆるB2B2Cと言われるビジネスもわかりやすいと言えるでしょう。たとえば、ECショップにシステム利用料という形で売上を立てる楽天など、「金を掘る人にジーパンを売る」というスタイルです。
そして、この流れはどんどん連鎖していきます。
たとえば、金属を精錬する会社が金属を金属型を作る会社に販売し、その会社はそれで型を作ってパーツを作成して販売し、そのパーツを購入してサーバを販売し、サーバを購入してクラウドサービスを構築、提供し、そのサービス上でECモールを構築してシステム提供し、そのモール上で個人向けに物販で売上を上げていく……といった流れです。もちろんその物販で売られる商品も、それまでにさまざまな企業のビジネスを経由してきている可能性があります。
広告の概念
もう1つ、消費の流れに広告があります。
個人消費のお金の流れに直結はしないが、個人消費のための流れのどこかで、その商品を販売するための広告を掲載する企業がいて、その広告掲載料をビジネスにするというものです。TVや新聞などのいわゆる4マス媒体、インターネットメディア、個人ブログサイトなど、いわゆる「広告モデル」と言われるものです。
消費の総和が市場となる
自分が実現しようとしている事業が、最終消費のための途中のどこにいるのかを、認識もしくは予測することがとても重要です。とはいえ最終消費から遠くなるほど、一般的には予測も難しくまた資金力も必要となるため、できるだけ最終消費に近いところで考えるほうがよいかもしれません。
ですから、一番わかりやすいのは、先ほどの個人消費でよく見られる「直接課金」と言えます。たとえば、ソーシャルゲームも(社会問題にはなりましたが)そうですし、ニコニコ動画やクックパッド、食べログといった提供サービスに対する月額課金、スマホ向けアプリの販売・アプリ内コンテンツの販売といった、ユーザが直接料金を支払うものです。
そして、そこにユーザがお金を払うだけの需要があるかどうかを考えてみるのが重要になります。お金を払うだけの需要の総和が、つまり市場になるのです。嫌でも何でも、起業する以上は市場に対する予測や推測というのは、絶対に必要なもののうちの1つです。
次回以降も、起業がつまづく理由について見て行きたいと思います。