エンジニアに捧げる起業幻想

第8回起業で失敗しない1つの前提と4つの要素

過去3回、エンジニアの起業がうまくいかない理由というのを挙げてきました。今回はどうしたらうまくいくのかについて考えてみます。

とはいえ、成功の要因は失敗の裏返し、ある意味すでに出ている内容が多いかもしれません。

前提は「起業は手段である」ということ

大前提として起業というのは手段です。

起業するからビジネスモデルを考えようというのは本末転倒です。

それが趣味なら別に良いでしょう。車に乗りたいからどこにいくか考えよう、料理をしたいから何をつくるか考えよう、絵を描きたいから何を描くか考えよう、別にぜんぜんおかしくはありません。

でも起業というのはお仕事です。ビジネスです。そういうのは通用しません。ストレートにいえば「趣味とか興味で起業するな」ということです。

起業の前提:市場=ビジネスモデル

起業するにあたってまず何より必要なのは市場です。

これは何度言っても足りないくらい重要な前提です。ビジネスモデルという言い方でも良いのですが、とにかくどうやって儲けるかを市場という裏付けを元に考えることが何より大事です。

結局会社というのは「儲かる仕組み」「その実現」だけでできています。

儲かる仕組みがないのに起業するのは間違いです。とりあえずやってみろなんていう意見に騙されてはいけません。また、自分で儲かる仕組みがあると思っていても、起業しようとする人はそもそも前向きなのですから楽観的に考えるのはある意味当然です。

⁠なんでこんなアイデアをそこまで素晴らしいと思っているんだ」という起業家はたくさんいます。

儲かるアイデアが、自分だけのお手盛り自画自賛だけでなく、またそれを根拠もなく褒めてくれるような無責任な人の評価でもなく、きちんとした裏付けとともに考えついたのであれば、一番重要となるハードルはクリアとなります。ですから、本来は、そういう状況にある人だけが「起業しようかどうしようか」と考えるべきものです。

良いビジネスモデルを持っていて、それを実現するために起業という選択肢を選んだ人はスタートラインに立っていると言えます。ビジネスモデルがない人はスタートラインにすら立っていません。

自由を求めて起業とかそういうのは夢の中でやると良いと思います。寝言は寝て言えというやつですね。

ビジネスモデル実現に必要な4つの要素

スタートラインに立った人にとって何が必要になるでしょうか。

それはビジネスモデルの実現です。

会社というのは、先ほども書いたように「儲かる仕組み」「その実現」だけしかありません。儲かる仕組みはスタートラインに立つため、もしくは立つ前に必要なものですから、突き詰めると会社は「その実現」のためにしかないと言えます。

要素1:モチベーション

その実現のためにまず大事なものは自分自身のモチベーションの維持です。会社を経営しているとマイナスなこと、ネガティブなことはたくさん起こります。

そういったことにくじけず、前向きになってモチベーションを維持しつづけるのは一番大事な要素の1つです。会社が成長してスタッフが増えてきたとき、トップの重要な役割としてスタッフへのモチベーションの提供というものがあります。

でもトップのモチベーションは誰も提供してくれません。トップのモチベーションは、トップ自身が、自分で獲得して維持し続けなければいけないのです。

要素2:コミュニケーション

次に重要なのはコミュニケーションです。

コミュニケーションというのは片方向ではなく双方向のものです。

自分の考えをきちんと説明して伝えることができるということが1つ、相手を考えをきちんと理解して受け取るということが1つ、この両方が必要です。勘違いされやすいですが、伝えることだけがコミュニケーションではないのです。

伝えて相手が理解したことを確認するまでがコミュニケーションです。

インターネットの技術でたとえて言えば、UDPのように投げっぱなしなのは通信ではあってもコミュニケーションではありません。自分一人でビジネスモデルを実現するのは不可能ですから、他の人とのコミュニケーションというのは絶対必要なものです。

要素3:リソースの獲得

次に重要なのは仕組みの実現のために必要な知識や経験、すなわち、リソースの獲得です。リソースに関しては、余裕あるいは猶予があればすべてを自分で獲得するという選択肢がありえます。しかし、それが難しい場合、大概の場合はそうですが、知識と経験を持った人の助けが必要となります。

助けを得る方法として、共同経営者としてのパートナーシップなのか、社員としての雇用なのか、外部のプロへの委託なのか、それはとくに正解はないと思います。ただ他の人の助けを得るのですから、そういった人たちと知り合って会社を手伝ってもらう気になってもらうことができないといけません。

それを人脈とかネットワークなどと表現することもありますが、とにかく会社を経営するのであれば人付き合いをする中で相手の信用なり信頼を獲得するということは相当に重要です。

要素4:リソースの評価

そして、自分がその知識や経験を得ずに他の人に任せる場合、任せた相手の評価をどうするのかという問題があります。これが次に重要な要素となるリソースの評価です。

エンジニアであれば技術的なことの評価はしやすいでしょう。しかし、営業やマーケティング、資金調達を他人に任せた場合、その相手がどのくらい妥当なことを言っているかを判断できないと、たまたま任せた相手が全員素晴らしい仕事をしてくれるという奇跡のような状況でもなければ、仕組みの実現はおぼつかないでしょう。

エンジニアの起業ではないですが、逆のパターンとして、経営者が「エンジニアの言うことを信用していたらうまくいかなかった」とか「エンジニアの言うことの真偽をどう見極めたら良いかわからない」というのはよく聞きます。

それはエンジニアの問題ではなくて経営者の問題です。エンジニアが言っていることを判断してどうするかを決断するまでが経営者の役割だからです。

そして、これはエンジニアが起業した場合でも同じです。自分が知識や経験がない分野において、任せた相手を見極めるのはエンジニアである経営者の重要な役割です。起業してエンジニアリングだけに特化したいというのはまさに幻想です。

1つの前提と4つの要素

まとめると、起業の前提となるのがビジネスモデル、起業して必要になるのがモチベーション、コミュニケーション、リソースの獲得、そしてそのリソースの評価です。

起業しようとしているエンジニアの皆さん、起業して本当にそれらができますか。

しかも一瞬できるだけでは駄目で、それをずっと維持し続けなければ駄目なのです。

今回は起業してうまくいくために必要なことについて考えてみました。この連載もあと2回、次回は実例を挙げて考えてみます。

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