そろそろ夏休みの季節ですが、旅行や帰省の際にもPCを手放せない、という方は多いのではないでしょうか。そうした場合、PCそのものを持ち歩くのは面倒ですから、USBメモリなどにデータを保存した状態で持ち歩くことになるでしょう。大量のファイルを持ち歩く場合、ディレクトリ単位で圧縮しておく方が使い勝手が良いですし、重要なデータであれば暗号化して持ち歩く方が安全です。今回はファイル単位での暗号化や、圧縮ファイルの取り扱いについて触れます。
File Rollerによるファイルの圧縮
Ubuntuでは標準的なファイル圧縮の方法として、ファイルやディレクトリを右クリックして利用できる、[書庫の作成]というメニューが用意されています(図1)。これはFile Rollerという実装です。
ごく一般的な用途であれば、File Rollerから圧縮ファイルを作成するだけで十分でしょう(図2)。
File Rollerへの圧縮形式の追加
File Rollerは便利な機能ですが、標準では対応しているアーカイブ形式がそれほど多くありません。幾つかの追加パッケージを導入することで、対応形式を増やすことができます。以下のコマンドを利用するか、Synapticから該当するパッケージをインストールしてください。
これらは順に、LHA・7ZIP・RARに対応します。インストール後にFile Rollerを開くと、対応形式が増えているのが分かるでしょう(図3)。
.cabの展開
File Roller以外の形式を取り扱いたい場合は、どうしても端末から操作を行う必要があります。代表的なのは、Windows環境で標準的なアーカイブ形式の一つとして、Microsoft Cabinet形式(.cab)です。これらはターミナル上で扱う必要があります。
.cabファイルを扱うためのソフトウェアは標準ではインストールされていませんので、次のコマンドでパッケージをインストールするか、Synapticからパッケージを導入してください。
インストール後は、次のように操作することでファイルを.cab形式で圧縮できます。以下の例では、casket/ディレクトリ以下をcasket.cabファイルに格納しています。
.cabファイルの展開は次のように行います。通常、Ubuntu環境でわざわざCabinet形式のファイルを作成することは少ないので、利用するのはこちらの方が多いでしょう。
ただし、cabextractコマンドではWindows向けのインストーラソフトウェアであるInstall Shiledが利用するCabファイルは扱うことができません。Install Shiledが利用しているものは同じ拡張子を利用する別の形式です。
tar・ZIPの使い分け
Ubuntu環境同士やWindowsとのやりとりであれば、多くの場合はZIPかtar.gzにするのが便利でしょう。使い分けは次のように考えるのが良いでしょう。
まず、ZIPはWindows XP/Vista環境であれば標準でファイルを展開することができます。標準状態のWindowsとのやりとりを行う場合に大変便利です。また、Windows以外のOSであっても、おそらくZIPを展開する手段は準備されているはずです。Ubuntu以外の環境とファイルをやりとりする場合は、ZIPにするのが無難でしょう。ただし例外として、商用Unix環境ではソフトウェアを追加しなければファイルを展開できないことがあります。
これに対して、tarはWindows環境では何らかのアーカイバが導入されていなければ展開できません。代わりに、Unix系の環境であれば、利用できないことはほとんどないでしょう。相手がUnix系の環境を利用していることが分かっているなら、こちらを利用するのが安全です。
また、前述のp7zip-fullが導入されており、また、Windows環境にも7ZIPが導入されていれば、ZIPの代わりに7ZIPを使うことで、おおむね10~20%程度ファイルサイズを小さくすることができます。うまくいくと、最大で30~50%圧縮できることもありますので、環境が整っていれば試すのも良いかもしれません。
ファイルの暗号化
パスワード付きZIPの作成
ここまではファイルの圧縮について触れましたが、Ubuntuでファイルを暗号化するにはどうすれば良いのでしょうか。
比較的単純な方法は、ZIPコマンドをコマンドラインで用い、パスワード付きのZIPファイルを作成することです。これは次のように操作することで行えます。以下はcasket/ディレクトリを、casket.zipというパスワード付ZIPファイルにアーカイブしています。
ただし、ZIPのパスワードによる暗号化は強固ではなく、辞書攻撃を行うツールが存在しています[1]。
現在のPCの性能は非常に高いため、現実的な時間でパスワードを解読することが可能です。「どうしても開こうと思わなければ見ることができない」といった程度の、気休め的な強度だと考えるのが良いでしょう。重要なデータの場合はこの方法以外の暗号化を用いる必要があります。
OpenSSLによる暗号化
Ubuntuを始めとするLinux・Unix環境であれば、多くの環境でOpenSSLパッケージが利用できるはずです[2]。OpenSSLはSSL/TLS関連の機能を提供するライブラリですが、単純なファイルの暗号化にも利用できます。
実際に利用する場合、端末から次のように操作します。以下はcasket.zipファイルをAES128bitで暗号化し、元のファイル名+.encというファイル(casket.zip.enc)に保存しています。
暗号化したファイルを複合する(元に戻す)には、次のコマンドを用います。
このままでは日常的な利用には面倒ですので、ラッパーを準備して利用するのが良いでしょう。きわめて単純な例は次の通りです。このシェルスクリプトをaes128.shなどという名前で保存し、chmod +xして利用します。
このスクリプトは以下のように、ファイル名の末尾が.encで終わっている場合は復号、それ以外の場合は暗号化を行います。
vimの簡易暗号化機能
エディタとしてvimを利用している場合、vimに内蔵された簡易暗号化機能を利用することができます。この暗号化機能はパスワード付ZIPアーカイブと同じものですので強固なものではありませんが、特に意識せずに利用することができるので、非常に便利でしょう。
利用法は単純で、vimのコマンドモード上で :X と入力し、パスワードを設定します(図4)。以降はvimでそのファイルを開くたびにパスワードが確認されるようになります。保存などの編集操作は通常通り行えますので、ほとんど意識せずにファイルを扱うことができるでしょう。
GnuPGによる暗号化
ファイルやディレクトリを右クリックした際、[暗号化]というメニューに気づいたかもしれません。これはGPGによる暗号化機能です。この機能を用いることで、公開鍵暗号により、非常に強力な暗号化が行えます。
今回は公開鍵暗号方式の原理の説明は行いませんが、最低限、次の3点を把握した上で導入を検討してください。
まず、GPGによって行われた暗号化は、解読するのに必ず秘密鍵が必要になります。秘密鍵を何らかの理由でなくしてしまうと、そのファイルを復号することはほぼ不可能になってしまいます。デフォルトでは ~/.gnupg 以下に保存されているこれらのファイルを確実にバックアップできる必要があります。
2つ目に、秘密鍵はその名の通り、他の人の手に渡らないように注意する必要があります。秘密鍵は、確実なバックアップに加えて、厳重に管理する必要があります。秘密鍵はパスフレーズによって他人には利用できないようにガードされていますが、基本的に他人の手に渡ることは「起きてはいけない」ことです。
3つ目に、公開鍵の適切な運用のためには、公開鍵暗号に関する一定の知識が必要です。今回の知識だけでは、「個人的な暗号化」には使えますが、「公開鍵認証基盤としてのGPG」は利用しない方が安全です。
以上の注意をふまえた上で、どうしても利用したい方は「gpg --gen-key」でGPGの鍵ペアを作成してください。以下に必要な入力項目を示します。操作を終えると、~/.gnupg/以下に鍵ファイルが作成され、ファイルを右クリックして暗号化することができるようになります。