今回は第223回に続き、オープンソース版Lotus Symphonyの公開までに至る経緯、さらにインストール方法と新機能を解説します。
いったい何が?
もともとIBMは2011年7月14日にLotus Symphonyのソースコードを公開すると宣言していましたが、実際に行われるのはApache OpenOffice 3.4のリリース後ということになり、しばらくの間これに関するニュースは特にありませんでした。しかし、Apache OpenOfficeのメーリングリストで1~2週間の間に発表できるかも、というのが流れたため、223回を執筆しました。
そうしたらなんと第223回の公開日の朝(日本時間)に、IBMがソースコードを貢献するという署名にサインしたということが告知され、あれよあれよという間に準備が進みました[1]。そして、5月21日に(暫定的ですが)そのソースコードが公開されました。取り上げるのは早すぎる気もしますが、非常に興味深いので思いきって紹介します。
公開されたソースコードについて
公開されたsubversionのリポジトリを見てみると、大変興味深いことがわかります。LICENSEファイルとNOTICEファイルが存在し、Apache License 2.0にはなっているのですが、各ソースコードのヘッダを見てみると、著作権者はSun MicrosystemsとのものとOracleのものが混在しており[2]、ライセンスはLGPL3のままです。ということは、IBMはSunからライセンスを任意に変更してもいい(プロプライエタリはもちろんオープンソースでも構わない)という契約をし、それに基づいてApache Licenseとして公開したものの、ヘッダの修正までは行なっていない、と考えられます[3]。
Lotus Symphonyは、誤解を恐れずに簡単に説明するとEclipseのユーザーインタフェースにOpenOffice.org 3.2/3.3の機能を載せたものです[4]。MDIはこのEclipseの部分で実現しており、今回オープンソース化の対象にはなっていません[5]。すなわち、Lotus SymphonyからEclipseの部分を除いたOpenOffice.orgに相当する部分に、さらに開発が進んだものが公開されたものであるということです。今回は「OSS版Lotus Symphony」と呼びます。
今後はこれをベースにしてApache OpenOffice 4.0の開発が進むはずです[6]。今回のリリースはそのための重要なマイルストーンと考えるといいでしょう。機能は今後追加や変更されるでしょうし、ルック&フィールも4.0までにはいろいろと変更される可能性があります。
インストール
OSS版Lotus SymphonyはApache OpenOfficeと同じく内部バージョンがOpenOffice.org 3.4になっているため、原則としてApache OpenOffice 3.4と同居することはできません。もしApache OpenOffice 3.4をインストールしている場合は、前もってアンインストールしておくといいでしょう。また、AMD64版のパッケージは公開されていないため、日本語Remixなどi386版のUbuntuが必要です。対象のUbuntuのバージョンは11.04以降と推測できますが、今回は12.04で動かしました。なお、日本語版はありません。
もちろん初リリースの開発版なので、いくつかの不具合があります。あくまでテスト目的でお使いください[7]。また、特に不具合というわけではないのですが、IBusの候補ウィンドウが左下に表示されます。
インストール方法は次のとおりです。必ず解凍は新規に作成したフォルダの中で行なってください。
事前にJava仮想マシンをインストールしておく。
http://people.apache.org/~zhangjf/symphony/build/からLinux Intel DEBをダウンロードする。
フォルダを作成し、ダウンロードしたOOo_3.4.0_Linux_x86_install_deb.tar.gzを移動する。
作成したフォルダに移動し、次のコマンドを実行する。
次のコマンドを実行して起動する。
不要であれば作成したフォルダを削除する。
新機能
新機能は全部で30個ほど追加されていますが、そのうちいくつか気になったものを紹介します。
まずは第223回でも紹介したLotus Symphonyのスクリーンショット再掲し、ユーザーインタフェースと比較します。
OpenOffice.orgの頃からテンプレートやクリップアートが少ないといわれていましたが、テンプレートが20種以上、クリップアートが500種以上追加されているとのことです。
ワープロ機能では、[Incert]-[Incert Page Numbering]で簡単にヘッダー/フッターにページ番号を入れることができるようになりました。
表計算機能では、[Data]-[Import Data]でODSファイルやXLSファイルやCSVファイルなどのインポートができるようになりました。リンクもできるため、ほかのドキュメントで更新した内容を即座に反映させることもできます。
プレゼンテーション機能では、今まで[表示]-[ノート]からでないとノートの入力が行えませんでしたが、OSS版Lotus Symphonyではノートの入力欄が[表示]-[標準]にもあり、簡単に入力できるようになりました。
OSS版Lotus Symphony をビルドする
さすがにこのタイミングで紹介するのは無理なので、また別の機会を設けようと思います。ちなみにLibreOfficeのビルドの方法はSoftware Design 6月号に書きましたので、お読みいただけると幸いです。
LibreOfficeの違いをあらためて考える
IBMはLotus Symphonyの開発をすでに中止し、後継はApache OpenOffice IBM Editionになると発表しています。ということは、Lotus Symphonyのユーザーはこれにスムーズに移行する必要があり、ルック&フィールや機能を似せるということはとても重要です。一方、LibreOfficeは使用しないメソッドの削除などクリーンアップをしつつ、ユーザーインタフェースを大きく変更することはなく既存の機能を強化したり、また新機能を追加したりしています。そればかりでなく、さまざまなOSとの統合に力を入れていたり、今時のアプリケーションぽい変更が加えられたりもしています。例えばOSS版Lotus SymphonyでもOOXML形式での保存はできませんが、LibreOfficeではもちろん可能です。現在開発中の3.6でも概ねこの方向で開発が進んでいるようです。
見た目で興味を引き、また実際に使い勝手のいいApache OpenOffice (4.0以降) と、今後もこのコードベースを使い続けるという前提でメンテナンスが行き届いているLibreOffice。それぞれの特徴がだんだん明らかになってきましたし、全く別の道を歩んでいることもよくわかります。本当に今後が楽しみになってきました。