去る6月20日にグリー株式会社さん主催のもと、六本木にて「Ubuntu 15.04リリースパーティ兼オフラインミーティング15.06 」が開催されました。今回はこのイベントレポートをお送りします。
オフラインミーティング
Ubuntu Japanese Teamはグリー株式会社さん主催のもと、半年に一度「オフラインミーティング」を開催しています。
これはUbuntuが半年に一度、4月と10月にリリースされるので、それに合わせてリリースパーティやりたいよねというのが、主な目的です。「 パーティ」なので、食べ物も出ますし、お酒も出ます[1] 。せっかくUbuntuユーザーが集まるのだからと前でセミナーをやっていたりしますが、別に後ろでセミナーの邪魔にならない程度の酒盛りをしていてもかまいませんし、なんなら手持ちのデバイスを広げて黙々とハッカソンを行っていてもかまいません。そういうイベントです[2] 。
[1] 若い人も気軽に参加できるようにと、参加費は無料となるように心がけています。ただUbuntu Japanese Teamはただのボランティア集団です。過去に執筆した記事の原稿料・印税収入の一部やサイトのアフィリエイトなどをやりくりすることで、イベントを成り立たせています。
ATNDのページにもあるように、今回のテーマは「手軽に使えるコンピュータ」でした。無料でなおかつ自由に使えるUbuntuを活用して、どのようなことを実現できるのか、今後どのような使い方ができるようにしていくのか、そんな可能性を問うセミナーなどが行われました。
あなたとからあげ
今回の外向けのテーマは「手軽に使えるコンピュータ」でしたが、運営側の最大のテーマは「からあげ」でした。前回のイベントで「からあげが足りなかった」という意見がいくつか得られたからです。参加人数や年齢層、予算の懐具合、当日の予想気温、ウクライナの情勢、角度などを参考に分量を慎重に検討した結果、今回はからあげを「10kg」を注文することになりました。とはいえ、人はからあげのみにて生くる者にあらず、なのでいつものようにオードブルも用意しています。ついでに生ハムも前回あっという間になくなったので、これも多めに買うことになりました。
というわけで当日の午前中、Ubuntu Weekly Topics でもお馴染みの吉田さんから食べ物の買い出し組[3] に出た指令は「あとでからあげが10Kgぐらいとオードブルが届くから、そのサブとして生ハム1Kgとドーナツ70個ぐらい、それに適当におつまみを買ってきて」でした。50人ぐらいのイベントなのに、数がおかしい。
[3] 当日のスタッフとして買い出しに参加すると、決められた予算の中から自分の好きなおつまみや飲み物を多めに配分するという権利が暗黙的に得られます。ただし、買ったからと言って食べられるとは限りません。油断しているともう誰かが食べてたということもままあります。生ハム食べそびれた。
その結果がこれです。
図1 前菜のドーナツ
図2 からあげとオードブル
図3 からあげをアップで
図4 生ハム
図5 ソフトドリンク
図6 アルコール類は控えめに
ドーナツはからあげが届くまでのつなぎで、炭水化物で胃袋をはやめに満たしてしまおうという作戦です。ただドーナツを消費しないとからあげを置く場所があかないので、受付を済ませた人にアナウンスする会場の注意点に「オフラインミーティングにようこそ。まずはこのドーナツを食べろ」が追加される事態に。
そんななごやかな雰囲気のもと、からあげとオードブルが無事に届き、当日関西からやってきたいくやさんの乾杯の音頭によりイベントは始まりました。
基調講演「IMにDEAIを求めるのはまちがっているのだろうか。」
イベント開始後、最初の発表はあわしろいくやさんによる「IMにDEAIを求めるのはまちがっているのだろうか。」です(発表資料のPDFファイル ) 。
元々イベントの開催の日時を決めるあたりで、WilyからUbuntuの公式イメージもFcitxが日本語環境の標準インプットメソッドになる ことが確定したこともあり、「 Fcitxデフォルト化記念講演(仮) 」という仮題で早い段階から講演することを公言してくれていました。
講演そのものは、Ubuntu登場前後からのインプットメソッドやかな漢字変換エンジンに関する歴史や小ネタを「DEAI」に合わせて展開していく内容です。Ubuntuで日本語入力できるのはこの人のおかげ、といっても過言ではないいくやさんの講演ですので、とてもおもしろい話が続きます。
図7 発表資料には「例の青い紐」
図8 「 再変換と確定取り消しの違いの分かる方は?」
また、発表の中で「再変換」や「確定取り消し」などの機能についても紹介がありました[4] 。知っている人にとっては当たり前の機能なのかもしれませんが、会場の反応を見る限り「知らなかった」って方も結構いたみたいです。
[4] 再変換は文字列を選択して変換キーを押すことで再度その文字列を変換できる機能で、確定取り消しは「Ctrl+Backspace」で直前の「確定」をアンドゥできる機能のようです。また「Mozc+Gtk+のアプリ」など特定のケースでないと動かないようです。このへんの日本語入力に関する便利機能については、いくやさんが来週のRecipeにまとめてくれることになりました。お楽しみに!
図9 再変換や確定取り消しのデモの様子
ちなみに来月発売のSoftware Design 8月号のUbuntu Monthly Reportでも、日本語入力に関する記事を書いているそうですので、そちらもお楽しみに。
さて、13:30頃に始まったいくやさんの講演も15:00過ぎには終了しました。ほぼ90分以上喋りっぱなしです。ご本人は最後にぼそっと「喋り過ぎた」と仰っていましたが、会場から「いいんじゃない、基調講演だし」って声も挙がっていたのでいいのではないでしょうか。というわけでタイトルも基調講演にしておきました。
問題は進行管理側です。残りの発表者は4人。だいたい1人30分ぐらい+じゃんけん大会を想定しています。現在15時を過ぎたところで、撤収予定時刻は17時です。……計算が合いません。とはいえ、せっかく喋ってくれるゲストをせかすような真似はしたくありません。そうすると時空を歪めるしかないわけです。
とりあえずスタッフでもあり、次の発表者でもある上野さんに「15分ぐらいでお願い」と発表直前に無茶振りをしたうえで、グリーさんには閉会自体が17時過ぎで、その後の撤収完了は予定よりも30分ぐらい延びることを了承していただいて、乗り切ることになりました。
セミナー1「IP電話でRaspberry Pi 2を制御する」
次の発表者は、上野さんです。ポイントは「IP電話『で』Raspberry Pi2『を』制御する」ということ。
図10 タイトルの「てにをは」は間違っていない
上野さんのセミナーはまず実演動画の再生から始まりました。
電話アプリのテンキーで1を押す → LEDが光る
電話アプリのテンキーで2を押す → 別のLEDが光る
電話アプリのテンキーで3を押す → LEDが消灯する
電話アプリのテンキーで5を押す → 光学ドライブのトレイが開く
図11 電話と光学ドライブ
これはサポートセンターで使われている自動音声応答装置 (Interactive Voice Response、IVR)をRaspberry Pi 2で実現し応用したものです。その後のデモで、電話の向こうからSofTalkの声で「イジェクト、します」と流れて「今、僕のおうちではCD-ROMが出ているはずです」と上野さんが解説した時には場内が笑いに包まれました。
事の発端は「このイベントのためにRaspberry Pi 2で何かを」というところからで、Raspberry Pi 2の特徴の一つはGPIOによってハードウェアの制御が比較的簡単にできること、それによりLEDやロボットの制御が行えること、でした。ロボットの制御というところからTeleVox という音声で制御するロボット(ナニモノかはリンク先の画像から察してください)を思いつくあたりはさすがは上野さんで、TeleVox君をRaspberry Pi2上で再現したのが今回のデモだそうです。
仕組みとしては、Raspberry Pi 2にIP-PBXのAsterisk をインストールし、SofTalkで出力した音声をそのまま出しているだけのようです。AsteriskにはIVRを実現するための機能がもともと備わっており、さらにそこからsystem関数を呼び出せます。また、クライアント(iPhone)側はご家庭内のVPNに接続し、ZoiperというSIP Phoneアプリを使うため、それほど難しいことをしているわけではないということでした。
「Raspberry Pi 2にWebサーバーを用意して、そこから制御するのと何が違うのかと言われれば、機能的には何も違わない」なんて仰ってはいましたが、こういう別の方法を用意できるのは、すごいことだと思います。
セミナー2「LTS Enablement StacksでLTSのマシンで新しいカーネルを使おう」
2つめのセミナーは日本UNIXユーザ会のメンバーの高野さんによる、「 LTS Enablement StacksでLTSのマシンで新しいカーネルを使おう」です。
図12 タイトルページにも「リリースパーティ」の文字が
まず高野さんが最初に伝えたのは「Ubuntu 15.04リリースおめでとうございます」でした。そう、開会からこのセミナーに至るまであまり言及されていなかったらしいのですが、実はこのイベントは15.04のリリースパーティでもあったのです。
セミナーそのものは、タイトルのとおりLTS Enablement Stackを使う話でした。UbuntuのLTSはインストールした時点でのカーネルバージョンがそのままメンテナンスされますが、そのLTSから次のLTSの期間にリリースされたUbuntuで採用されているカーネル(やX Window System)もLTSで利用できます。それが「LTS Enablement Stack 」です[5] 。
つまり、「 15.04リリースしたよね」 →「 14.04 LTSユーザーも15.04のカーネル使いたい場合もあるよね」 →「 そこでLTS Enablement Stackですよ!」という流れですね。
図13 LTS Enablement Stackについて
セミナーの中では実際に14.04.2のマシンを用意して、3.13カーネルから15.04の3.19カーネル(linux-generic-lts-vivid)へアップグレードする作業を実演していました。曰く、「 安定したユーザーランドで新しいカーネルが使える」ということがメリットの一つだそうです。
さらに一歩話を進めて、流行に敏感な人が4.0カーネルを使うために、Mainline Buildsの使い方も説明していました。実際にMainline Buildsの「殺伐としたインデックス 」から「安定してそうな名前のディレクトリ(v4.0.5-wily) 」を見つけて、そのカーネルパッケージを15.04にインストールしてみせてくれました。
図14 Mainline Buildsについて
ちなみに会場からも補足がありましたが、Mainline Buildsはより新しいカーネルがUbuntuのKernel Configで正しく動くかどうかや、特定の不具合が修正されているかどうかの確認に使う目的で提供されています。日常の生活で使うものではないのでご注意ください。
セミナー3「Raspberry Pi 2 誤自宅サーバー移行日記」
3つ目のセミナーはセミコロンさんによる「Raspberry Pi 2 誤自宅サーバー移行日記 」です。
図15 「 誤自宅」は誤字にあらず
セミコロンさんはもともとご家庭でTiny Tiny RSS (tt-rss)をはじめ、いくつかのサービスを6年物のEeePC 901Xで運用していたそうです。たださすがに常時稼働の運用を開始して2年もたつと、起動に失敗したり、ディスクアクセスにもたついたり、本体が熱くて火災の心配をしたりといろいろと不安要素が増えてきます。
そこで今回はこのご自宅サーバーをRaspberry Pi 2ベースに移行した話、特にtt-rssの移行について詳しく解説してくれました。もともとネットブックを使っていたのは、バッテリーが簡易UPSになるためだそうです。Raspberry Pi 2の場合はバッテリーがないため最初は考慮に入っていなかったらしいのですが、通電して即電源が入るのであれば用途しては問題ない(再起動自体は許容できる) 、オープンソースカンファレンスでUbuntuが動いていることを見てそこそこ良さそうとのことから、Raspberry Pi 2の採用に至ったそうです。
周辺機器もろもろ揃えて1万円、Recipeの第362回 や第376回 を参考に(Snappyじゃない方の)Ubuntu Coreをインストールし、その上にPPAから最新のNginx とtt-rssをインストールと設定いった手順を事細かに説明してくれました[6] 。
図16 Web UIで設定も簡単に
図17 「 いくやの斬鉄日記は更新されたすぐ見えるように」
実際に運用してみると、体感的に読み書き特に一括更新の部分が速くなったうえに、なんといってもファンレスで静かになったことが大きいとのことでした。
セミナー4「Snappy Ubuntu Coreで遊んでみる」
最後のセミナーは村田さんによる「Snappy Ubuntu Coreで遊んでみる 」です。
図18 「 今日はこのubuntu.com/snappyだけ覚えて帰ってください」
村田さんは先週の土曜からOrange Matchbox を触っているとのことで、その体験談や実際にsnapパッケージを作った様子などを紹介してくれました。Snappy Ubuntu Coreはその登場から、IoTやドローンなどで使われる事例が増えています。今回の発表の中でもNinjaSphereやIntelのゲートウェイ、GEの冷蔵庫などが紹介されていました。
セミナーはSnappyの基本コンセプトや通常のUbuntuと異なる点、サンプルのhello-worldパッケージの中身の解説などを踏まえたうえで、実際にsnapパッケージの作成の様子を見せてくれました。
図19 IRC bouncerであるZNCとスマホ通知できるznc-pushについて
Orange MatchboxはIoT World 2015などで展示されていた、Raspberry Pi 2+Ubuntu版Pibowケース+PiGlow LEDという構成の特注品です。ボードそのものはRaspberry Pi 2なのでSnappy Ubuntu Coreも半公式ながら対応しています。
村田さんはそこにSnappy Ubuntu Coreと自作したZNCのsnapパッケージをインストールし、IRC上にメンションが届いたらLEDを光らせるデバイスの作成を試みたそうです。しかしながら今回のセミナーの準備をしている中で、現在のRaspberry Pi 2向けSnappyイメージはI2Cに対応していない ことが発覚しました[7] 。そこで「プランB」として「普通のUbuntuをインストールしたOrange Matchbox」を「もう一台」取り出して、実際に会場のお客さんからIRC上の村田さんのアカウントにプライベートメッセージを送ってもらうことで、無事にデモをやり遂げていました。
[7] 実際にI2Cに対応していないというよりは、SnappyをRaspberry Pi 2+U-Bootという組み合わせで利用する場合に、I2Cコントローラーを必要に応じて有効にする方法を模索中といった状態です。単純に利用するだけだったら、カーネルを差し替えれば現在でも可能です。
図20 「 こんなこともあろうかと」というセリフとともに出てきたOrange Matchbox
図21 通知とともに強く光り輝くLED
このZNCパッケージについては、今後もいろいろと改善していくつもりだそうです。
Canonical社員でもある村田さんは、最後にCanonicalは人材を募集している という宣伝を行ってセミナーを終えていました。
会場の後方では
セミナーの様子は以上のような感じですが、会場の後方でもXubuntuインストール済みのRaspberry Pi 2やUbuntu TouchをインストールしたNexus 7やNexus 4を展示していました。
図22 Xubuntu 14.04 on Raspberry Pi2
図23 Nexus 4とNexus 7とRaspberry Pi2
Xubuntuは、セミナー中にインストールしたものです。開場からいくやさんのセミナーが終わるぐらいまでなので、おおよそ2時間ぐらいでしょうか。WiMAXの古いほうの回線だったので、もう少し良いネットワーク環境であればもっと早く終わると思います。
Nexus 7にはFull Shell Rotation (Dash部分の画面回転)対応版のTouchを前日にインストールしたのですが、この対応には特定の環境だと「ポートレート(縦置き)からランドスケープ(横置き) 」にしか回転しないという不具合があったため、会場では一度しか回転できないという罠があることに当日気がつきました。
まとめと謝辞
ここまで「Ubuntu 15.04リリースパーティ兼オフラインミーティング15.06」のイベントの様子をお伝えしましたがいかがだったでしょうか。「 Ubuntu 15.04の要素がほとんどないじゃないか!」って思った方もいらっしゃるかもしれません。実際、15.04っぽいことはほぼありませんでした。まぁ、リリースパーティ自体、リリースにかこつけてパーティすることが大きな目的だったりするので、その辺りはご容赦ください。
ちなみにイベント中にTwitterで流れた#ubuntujp付き投稿をまとめてくださった方もいます ので、今回のレポートに載っていない様子が気になる方はそちらも参考にしてください。
参加された方はSNSやブログなどに感想を書いて、宣伝していただけると助かります。次回に向けての要望がある場合は、ぜひUbuntu Japanese Teamに届く形でご連絡ください[8] 。できる範囲で応えていきたいと考えています。もちろん、「 次回があるなら発表させろ!」という要望も随時受け付けております。ただし「からあげが足りなかった」と「生ハムが足りなかった」という要望のみは受け付けておりません[9] 。
最後になりましたが、今回もたくさんの方がこのイベントを裏や表で支えてくれています。毎回六本木ヒルズというお高い立地にとても広い会場を提供してくれている主催のグリー株式会社 さんには頭があがりません。このRecipeやTopics、Ubuntu Monthly Reportなどを担当している技術評論社さんにはじゃんけん大会の景品用にとSoftware DesignとWEB+DB PRESSを差し入れていただきました。Canonicalさんにも、ネックストラップやシールをいただいています。
会場スタッフには早めに会場入りしていただき、買い出しから設営、受付に給仕っぽいことまでいろいろ手伝っていただきました。「 責任者はこの人とこの人だから、あとはよしなにがんばって」の指示だけで、動いてくれるのはさすがです。Japanese Teamの身内ではありますが、司会の長南さんにはタイトなスケジュールの中、じゃんけんやアナウンスなどいろいろなマイク関連のお仕事をこなしてもらいました。和装の長南さんもかっこ良かったです。次回はイベント中に衣装替に挑戦ですね。そして何よりみんな大好き「黒幕」こと吉田さんは、イベントの告知からセミナーの講演者集め、グリーさんとのやり取り、食糧の調達に至るまで、イベント前の準備をほぼすべて1人でこなしてくださいました。次のWilyが無事にリリースされたら、またオフラインミーティングをやりたいですね。
そして次のリリースに向けた開発が始まるのです。