2月25日、韓国ソウルにて開催されたオープンソース系イベント「Korea Community Day 2017 」に参加しました。今回は、そのイベントの様子と韓国のUbuntuローカルコミュニティ「Ubuntu KR 」についてレポートします。
Korea Community Dayについて
Korea Community Day(以下KCD)は毎年、韓国国内で活動しているオープンソース系コミュニティが集まり開催されるカンファレンスで、今年で6回目の開催です。
イベントは、20のコミュニティブース出展と3トラックの講演、django girls Seoulの「django girlsチュートリアル」とJBOSS User Groupの「チャットプラットフォーム構築」の2つのワークショップがありました。
会場は、観光地としても有名な光化門近くにある韓国Microsoftで、ビルからは景福宮と光化門広場が一望できる素晴らしい場所でした。
図1 景福宮
KCDの受付と会場の様子
KCD会場である韓国Microsoftは、地下鉄5号線の光化門駅を出てすぐにあります。会場へは迷わず到着できました。
図2 ウェルカムボード
会場に着いたら、まずは受付です。KCDの参加費は事前登録11,000ウォン(約1,100円) 、当日22,000ウォン(約2,200円) 、学生は学生証提示により無料になっています。参加者のほとんどはKCD登録サイトから参加費の支払いを済ませているため、受付ではチェックをして名札代わりのネームシールと記念品のマグカップを受け取ります。
筆者の場合は、海外から登録サイトによる決済ができなかったので事前にメールで参加する旨伝えていましたが、受付の前に立った瞬間、言葉が出てこなくなりパニックで固まってしまいました。どうしたらいいかと焦っていましたが、スマホでメールを見せることを思いつき、無事、参加費の支払いをしてネームシールとマグカップを受け取ることができました。
登録が終わったところで会場の中を回ってみました。イベント全体の雰囲気としては、オープンソース系全般のカンファレンスということもあり、オープンソースカンファレンス(OSC)や関西オープンフォーラム(K-OF)に似た雰囲気でした。
会場自体はそれほど広くもなく、カフェスペースとカウンタースペースにそれぞれコミュニティブースが配置されていました。その2つのスペースをつなぐ廊下から、セッションがおこなわれる会議室につながっていました。
図3 カフェスペースのブース(左) 、カウンタースペースのブース(右)をつなぐ廊下(中央)右手に会議室がありセッションがおこなわれた
カフェスペースでは、コーヒーのサービスがありました。OSCやK-OFでは参加費が無料であるため、このようなサービスはありませんが、これはうれしいですね。
図4 コーヒーのサービス
そうこうしているうちにオープニングセッションが始まる時間が近づきました。
オープニングセッション「ウェブ&モバイル」「機械学習&チャットボット」
オープニングセッションでは、KCDに参加しているコミュニティが「ウェブ&モバイル」と「機械学習&チャットボット」それぞれのテーマに分かれて、トークセッションをおこないました。
図5 「 ウェブ&モバイル」セッション
まずは「ウェブ&モバイル」に参加しました。セッションは、司会の方が壇上に並んだコミュニティ代表者に話を振っていく形で進行しました。コミュニティ紹介から始まり、テーマに沿って話題を振っていきました。内容がウェブの話からモバイル、クラウドといった幅広いテーマということもあり、ついていくのが大変でした。参加者との質疑応答では、PHPウェブフレームワークのLaravelの話からnginxの話に移っていたり「どういう展開??」と思うこともありましたが、熱いトークが繰り広げられていました。
VIDEO
「機械学習&チャットボット」のセッションも少しだけ参加してみました。こちらは「ウェブ&モバイル」と比べると参加者は少なめでしたが、注目の分野ということもあり、少ないながらも和やかな雰囲気で話が進んでいました。
ランチはキンパ
最初から内容の濃いセッションに圧倒されましたが、お昼の時間になりました。KCDはランチが配布されるため、どのようなものが出るか期待して受け取ったところキンパでした。
図6 ランチのキンパは、かなり量があった。具は野菜中心で多め
日本の巻き寿司を想像していましたが、食べてみるとイメージが違っていました。巻き寿司はご飯が多く具はそこそこですが、キンパは逆でご飯が少なく具だくさんでした。しかも野菜中心で、日頃、野菜が不足している筆者にとってはとてもありがたく、おいしかったです。
Ubuntu KRブースでコミュニティのみなさんと交流
受付と最初のセッションで言葉の壁をひしひしと感じて気落ちしていましたが、お昼を食べて回復したのでブースを回りました。最初に行ったのは、もちろんUbuntu KR ブースです。
ブースにいた人に「日本から来ました。Debianコミュニティで活動しています」と思い切って声をかけたところ、いきなり盛り上がってこちらがびっくりするぐらいでした。
図7 右からTaghee Jangさん, Youngbin Hanさん, 筆者, フォーラムマスターのGunyoung Yonnさん, Hoehyeong Jeongさん
落ち着いたところでTaghee JangさんにUbuntu KRの活動を尋ねてみました。JangさんはUbuntu KRのLoCoリーダー(2月25日イベント当時)で、3月1日からリーダーがYoungbin Hanさんに変わるということで引き継ぎの最中だそうです。
図8 Taghee Jangさん
まずは韓国のUbuntu KRの活動を聞いたところ、インターネット上でのフォーラムやFacebookグループでの交流をはじめ、2か月に一度、奇数月にオフラインセミナーを開催しているそうです。
本稿執筆にあたり、あらためて質問のメールをしたところ、コアで活躍しているメンバーが多くてびっくりしました。また、オフラインセミナーの様子はYouTubeチャンネルで公開しています。それを見ると幅広いジャンルの充実した内容で、とても活発に活動されているようでした。
続いて、Youngbin Hanさんにも話を尋ねました。Hanさんは3月1日からUbuntu KR LoCoリーダーですが、そのほかにNimf というインプットメソッドフレームワークのメンテンナンスも行っているそうです。
Nimfのことは知らなかったのでいろいろ尋ねていると、「 韓国語ではハングルを入力したあと分かち書きのためスペースを入力すると直前の文字が消えるという問題があるけれど、日本語でもそのような問題はありますか?」と逆に質問を受けました。
日本語の入力で、そのような問題は聞いたことがなかったので「日本語では聞いたことがないですね」と答えましたが、何か情報をお持ちの方がいればお知らせください。
Nimfは最近、日本語の対応と翻訳が入ったそうですがネイティブの翻訳ではないので、日本の方で見ていただける方がいたら、ぜひ協力してくださいとのことです。
debパッケージについては「PPAはあるけれど 正式なパッケージはまだない」とのこと。Debianのほうでパッケージ化の作業が進んでいるか調べてみると、ITP(Debianパッケージを作りますという宣言)は出ていました が「( Debianの)IME packaging teamでメンテナンスしたほうがよいのでは?」という意見があり、その後の進展がないようでした。こちらも腕に自身のある方は挑戦してみると良いのではないでしょうか。
Ubuntu KRの方々とは、いろんな話をしましたが大変楽しく、そして良くしていただきました。また、日本語が話せるDrake SongさんとSung Ki Parkさんには特に助けていただき本当に助かりました。
Parkさんは、Microsoft MVPを持っていてKRAZURE でMicrosoftコミュニティの活動をしていますが、AzureやWindows 10のBash on WindowsなどUbuntuと連携があるのでUbuntuの活動にも参加しているとのことでした。
図9 Ubuntu KRメンバーとの集合写真(Parkさんは写真を撮ってるので写ってませんが……)
Ubuntu KRから日本のUbuntuコミュニティへメッセージをいただいたので、それを紹介します。
Because there were almost no exchange among Ubuntu Communities in Asia (Especially, CJK.). It would be great to have many exchanges and communications. So that we can know each other and talk about common issues such as IME issue. We are looking forward to have good relationship with Ubuntu community in Japan.
参考訳:アジア(特にCJK)のUbuntuコミュニティは、ほとんど交流がありませんでした。ですので、たくさんの交流とコミュニケーションができることは素晴らしいことです。私たちは、お互いに理解し、IMEの問題といった共通の課題について話し合うことができます。日本のUbuntuコミュニティと良い関係になれることを期待しています。
CJKの問題についてはアジアの中で解決するしかないので、これからも良い連携ができればいいですね。みんなで交流しましょう!
その他のブース紹介
Ubuntu KRブースでかなり話し込んでしまったので、ブースやセッションはあまり回れませんでしたが、その中でも回れた興味深いブースをいくつか紹介します。
出展しているコミュニティについてはKCD登録ページの出展コミュニティ紹介 、写真はKorea Community DayのFacebookページ に掲載されているので合わせてご覧ください。
EFL Korea Community
スマートフォンなどのOS「Tizen」のライブラリとして知られるEFLのコミュニティが出展していました。古くからLinuxを使っている人にはウィンドウマネージャのEnlightenmentのライブラリとしてもおなじみですね。
Tizenにはスマートフォンのイメージがあったので「( Tizenスマートフォンは))国でよく使われていますか?」と質問したところ韓国にもないそうで、展示されていたスマートフォンはインドで発売されたものでした。Tizenは主にテレビや冷蔵庫などの家電に使われているそうで、先日、日本でも発売されたスマートウォッチのGALAXY Gear S3をつけてPRしていました。
図10 Tizenスマートフォン
Korea Azure User Group(KRAZURE)
Microsoftでの開催ということで、Korea Azure User Group のブースもありました。ブースではバーガーキングのクーポンを配っていました。「 Azureブースでバーガーキング??」と不思議に思って質問をすると、バーガーキングのシステムがAzure上で動いているそうでタイアップだそうです。
「Azureで動いているVMはLinuxとWindowsどちらが多いですか?」と質問したところ、韓国でもLinuxのほうが多く動いているそうです。
OKKY
OKKY は開発者、エンジニア向けのオンライン・コミュニティだそうです。筆者の質問が要領を得ないものだったので、掘り下げて聞けませんでしたが、サイトを見る限りは開発やサーバー周りから働き方についての相談まで幅広い内容を扱っているようです。
図11 OKKYブース
django girls Seoul
django girls Seoul ブースでステッカーを配っていました。「 日本から来ました。ステッカーいただけますか?」と声をかけたら、日本の話題でわいわい盛り上がりました(筆者はdjangoやPythonが使えないので、テクニカルな質問ができませんでした……) 。
FacebookにKCDの様子 が投稿されていますが、ワークショップなどのびのびと活動されているようで、いい雰囲気でした。
セッションの紹介
セッションも時間がなく駆け足で見たので、一言ずつコメントで紹介します。セッションのスライドがKCD登録ページのスピーカー紹介 にて公開されているので、こちらも合わせてご覧ください。
MongoDB 3.4 new feature
「MongoDB 3.4 new feature」はMongoDB Koreaコミュニティによるセッションで、MongoDB 3.4の話を中心に機能解説などをしていました。日本のイベントでもよくある感じの一般向けな話でしたが、スライドが英語だったので、なんとなく理解できました。
You don’t know JS (JavaScript is Everywhere)
セッション「You don’t know JS」では、フロントエンドからモバイル、サーバーまで、JavaScirptならなんでもできるが勉強は止められないという話をしていました。個人的に印象深かったのはモバイルアプリの話で、日本では下火になっているTitaniumが取り上げられていたのが不思議な感じでした。
Career Path (개발자 경력관리)
「Career Path」のセッションはテクニカルな話ではなく、技術者・エンジニアの働き方についての話でした。細かい内容はわかりませんでしたが参加者も多く、韓国も日本と同様、働き方については問題を抱えているので関心の高さがうかがえました。
図12 キャリアパスのセッション
抽選会から打ち上げへ
予定されてたセッションも終わり、最後は参加者が全員集合しての抽選会がありました。抽選方法は、抽選プログラムによって、参加者のネームシールに振ってある番号が出れば当たりというシンプルなものです。しかしプロジェクターに256や404が表示されると、なぜか歓声があがり「ギークはどこも変わらないなぁ」と感想を持ってしまいました。
図13 抽選会の景品は、集合したコミュニティ代表らの手によって渡された
KCDはこの抽選会で終了しましたが、KCDスタッフ打ち上げとUbuntu KR打ち上げにも参加させてもらいました。
筆者もオープンソースカンファレンスなどのスタッフをしていますが、このあたりも日本とまったく同じでした。「 言葉がわかれば、もっと楽しめただろうなー」と思いつつ、楽しい時間を過ごしました。
図14 Ubuntu KR打ち上げをした新村のイルミネーション(左) 。その時に出されたカレー鍋(右) 。とても美味しかったです
終わりに
海外のカンファレンスに参加したいと思っていましたが、やっと参加することができました。
アジアでは、韓国のほかにもFOSSASIA や台湾のCOSCUP 、香港のHKOScon などがあります。また、2018年には台湾でDebConf 18 が開催されます。「 アメリカやヨーロッパは時間もお金もかかるし、ちょっと……」と思っている方もアジアなら国内旅行と近い感覚で行けます。みなさんも参加を検討してみてはいかがでしょうか。
コラム:来年のKorea Community Dayに参加したくなったら
レポートについては以上ですが、もしかするとKorea Community Dayに行きたくなった人がいるかもしれません。KCDと韓国旅行について気がついたことなどを紹介します。
Korea Community Dayの参加申し込み
まずKCDの情報は、利用している参加登録ページの都合で毎年変わるため、最新情報についてはKorea Community DayのFacebookページ を見てくださいとのことです。
参加費の決済に日本のクレジットカードは使えないので、メールで申し込みます。申し込み先は参加登録ページにお問い合わせメールアドレスが記してあるので、そこにメールを送ってください。メールでの申し込みは手動対応になるため、複数人で参加する場合はまとめて送っても大丈夫です。
日本からコミュニティとして参加(出展)できるかを尋ねたところ、( 言葉の問題はありますが)参加は可能(!)だそうです。参加をしたい方はイベント参加と同じく登録ページのお問い合わせメールアドレスまで問い合わせてみてください。出展案内の時期がくれば教えていただけるそうです。
韓国旅行のTips
筆者は海外旅行自体なれておらず右も左もわからない状態でKCD参加となりましたが、次の事柄が韓国で役に立ちました。
空港に着いたら、まず、KT(Korea Telecom)のデータSIMカード と電子マネーのT-Moneyカード を手に入れてください。
インターネット接続環境としては、無料のWiFiアクセスポイントもあります。ですが、常時接続の環境もあると安心できるのでSIMカードの入手は必須だと思います。SIMフリースマートフォンを持っていることが前提となりますが、KTのデータSIMは4Gでデータ利用無制限で使えるため、スマートフォンの利用のほかにテザリングでPCのアクセスに利用したりと大活躍しました。
T-Moneyカードは公共交通機関とコンビニで使えるチャージ式の電子マネーです。移動は地下鉄が中心になると思いますが、割引があり小銭でもチャージができて財布が軽くなるため何かと重宝しました。今回はチャージした金額をほぼ使い切ったので利用しませんでしたが、払い戻しもあります。
図15 KT SIMカード(左)とT-Moneyカード(右)
そして、今回の旅ではスマートフォンのGoogle翻訳アプリにとても助けられました。
前述のとおり筆者は韓国語がまったくできませんが、日本語や韓国語をGoogle翻訳アプリに音声入力し翻訳された言葉を見せる形で互いに会話をすることができました。また、カメラから画像認識を使った翻訳もできるため、街中の看板や食堂のメニューを撮って翻訳という使い方もしていました。
今回の旅は、これがなければ動けなかったというぐらい活躍したので、旅行をする際にはインストールしておくことをおすすめします。
あとは度胸さえあれば日本と変わらない感覚で歩き回れると思います。