今回はAMD Ryzen 5 2400G搭載PCの、主としてCPU速度のベンチマークを計測します。
動機とスペック
第502回ではAMD Ryzen 5 1600(正式名称は「AMD Ryzen™ 5 1600プロセッサー」、コードネームは「Summit Ridge」)を紹介しましたが、今回はAMD Ryzen 5 2400G(正式名称は「Radeon™ RX Vega 11グラフィックス搭載AMD Ryzen™ 5 2400G」、コードネームは「Raven Ridge」)を紹介します。正式名称からわかるとおり、Ryzen
5 1600とRyzen 5 2400Gの大きな違いはGPUを搭載しているか否かです。AMDはGPU内蔵CPUをAPUと称しているため、ここでもそれに従います。
第502回から間を置かずまた新しいCPUを買って何考えているのだろうこの著者はというツッコミに対する答えとしては、今回購入したのはAPUですし、用途が全く異なります。Ryzen 5 2400GはメインPCとして第308回のリプレースで使用するつもりですし、Ryzen 5 1600は検証用です。また、Ryzen 5 1600は6コア12スレッドですが、Ryzen 5 2400Gは4コア8スレッドで性能が劣ります。すなわちCPU速度が必要な場合にもRyzen
5 1600が活躍する機会があります。
次の表が今回使用するPCのスペックです。
APU |
AMD |
Ryzen 5 2400G |
マザーボード |
ASRock |
AB350 Gaming-ITX/ac |
メモリ |
Crucial |
CT2K16G4DFD824A |
SSD |
Samsung |
MZ-7PC128B/IT |
SSD |
Western Digital |
WDS512G1X0C |
ケース |
Cooler Master |
Elite 130 Cube |
電源 |
玄人志向 |
KRPW-PT500W/92+ |
今年メインPCを更新することは以前から決めていたので、パーツは昨年から少しずつ集めていました。
現在RyzenベースのAPUは2モデルしかなく、もう1つのモデルは下位モデルなので選択の余地はありませんでした。マザーボードをこれにしたのはAMDのCPU/APU用なのにIntelの有線/無線LANが搭載されているのが面白かったからです。なお、Ryzen 5 2400G(とその下位モデルであるRyzen 3 2200G)を既発のマザーボードで使用する場合は事前にUEFI BIOSのアップデートが必須です。購入時点でアップデートされているものを選択するか、あるいはショップのアップデートサービスを利用してください。
メモリは価格が高騰していますが、どうしても32GB必要なので頭を抱えていたものの、これをなんとか3万円程度で入手することができて胸をなでおろしました。第502回で取り上げたメモリの組み合わせ表の表記だとDDR4-2400のSRになります。
SSDはSamsungのほうはSATA接続で、検証用です。Western DigitalのほうはM.2 PCI Expressに接続するタイプです。WD BLACK PCIE SSDといったほうがわかりやすいかもしれません。なお、このマザーボードでM.2接続のSSDを使用する場合はUEFI BIOSのバージョンがP4.43以降である必要があります。Ryzen 5 2400Gに対応した最初のバージョンであるP4.40ではM.2スロットに接続したSSDは認識しません[1]。
ケースは5インチベイがあり、3.5インチのHDDを2台内蔵できそうなものということで選択しました。Mini-ITXのケースとしては大きくて組みやすいですが、CPUファンの高さには大きな制限があるため注意が必要です。もちろん標準添付のクーラーであれば問題ありません。
電源の良し悪しは正直なところよくわからないのでスペックだけで決めました。この価格で80PLUS PLATINUM認証であればいいかなと思ったのです。
検証するOSは何にするか迷いましたが、開発版のUbuntu 18.04 LTSにすることにしました。GPUを正しく認識している(と思われる)のがその理由です(図1)。
CPUのベンチマーク
テスト環境
テスト環境のOSは前述のとおりUbuntu 18.04 LTS開発版です。ビルドするLibreOfficeのバージョンは6.0.1としました。執筆段階ではまだ5.4.4でproposedリポジトリより取得しましたが、いずれ6.0.1にアップデートされるものと思われます。
第502回とは異なり、systemd-nspawnは使用していません。
Ryzen 5 2400G
ではベンチマークの結果に移ります。Ryzen 5 2400Gでビルドを行うと112分ほどでした(図2)。おおむね期待どおりの速度で、これをリファレンスとします。
Ryzen 5 1600
第502回とはだいぶ環境が異なるため今一度ベンチマークを取り直してみると、ほぼ80分になっていました(図3)。4分は誤差というのは大きすぎるものの、この差の原因を特定するには至りませんでした。
Ryzen 5 2400Gが4コア8スレッド、Ryzen 5 1600が6コア12スレッドであることを考えると、Ryzen 5 2400Gのビルド時間は120分になりそうなものですが、そこまで差が広がらなかったのはクロック周波数の違いと考えるのが自然です。
A10 7700K
以前LibreOfficeのビルドに使用していた検証用PCでもビルドしてみました。結果は約215分でした(図4)。ただしメモリが8GBしかないので、多少不利になっている可能性はあります。
Core i7 4770S
条件が全く異なるので参考値ですが、Core i7 4770Sでも計測してみました。これのみホストOSがUbuntu 16.04 LTSで、systemd-nspawnを使用して18.04環境を作成しています。結果は約100分でした(図5)。予想どおりRyzen 5 2400Gよりも速かったですが、1割程度しか差がないことがわかったのは収穫でした。
SSDのベンチマーク
SATA接続とM.2 PCI Express接続でどのぐらいビルド時間に差が出るのかも興味深いところです。そこでWDS512G1X0Cでもビルドしてみた結果が図6です。おおむね差がないことがわかりました。
GPUのベンチマーク
GPUのベンチマークは時期尚早だと考えますが、参考程度に行ってみました。
というのも、Ryzen 5 2400Gのグラフィックサポートはまだ不完全です。オープンソース版のドライバはこなれていないでしょうし、第471回で紹介したプロプライエタリなドライバ、AMDGPU-PROもリリースされておらず、圧倒的に不利だからです。
ベンチマークはPhoronix Test Suiteで、SuperTuxKartを実行しました。使用したAPU/GPUはRyzen 5 2400Gのほか、A10 7700K、Radeon R7 250XE、Radeon RX 460の4つです。
まずはRyzen 5 2400Gですが、図7のようになりました。若干重めの設定にしたので絶対的な数値は低いですが、相対的に評価するものとしましょう。
A10 7700Kの結果は図8のとおりで、Ryzen 5 2400Gの半分にも満たない数値になりました。GPUのスペックを考えても妥当と思われます。
Radeon R7 250XEの結果は図9のとおりで、Ryzen 5 2400Gよりも低い結果になりました。古い世代のGPUを搭載したビデオカードを増設する意味がまったくないのと同時に、Ryzen 5 2400GのGPUがいかに優秀かがわかります。
Radeon RX 460の結果は図10のとおりで、倍以上の差がつくのはちょっと驚きです。確かにメモリの速度は全然違いますが、演算ユニット数が11基(Ryzen 5 2400G)と14基(Radeon RX 460)で大きな違いがあるわけではありません。ほかにもそれほどの差がつくとはちょっと考えにくいので、やはりドライバの問題と考えるのが妥当ではなかろうかと考えています。
GPUの性能が必要な場合はプロプライエタリなドライバ(AMDGPU-PRO)を使用すると思いますので、リリースされたらまた検証してみたいと考えています。
消費電力
ワットチェッカーで消費電力を計測してみたところ、アイドルで24ワット程度、負荷をかけた状態で80〜84ワット程度でした。やはりビデオカードを増設しない分だけRyzen 5 2400Gのほうが消費電力が低くなっています。
まとめ
このようにRyzen 5 2400GはUbuntu 18.04 LTS開発版でも相応のパフォーマンスを出しています。詳しい記述は行いませんでしたが、有線/無線LANなども問題なく認識しており、本稿を参考にRyzenシリーズにUbuntuをインストールして使用するユーザーが増えることを願ってやみません。