Bluetoothデバイスを音声通話やビデオ会議で使用する際は、音楽再生用のA2DPではなく、音声入力(マイク)と出力を同時に使用できるHFP(Hands-Free Profile)が一般に使われます。このHFP規格の中で、HFP 1.6以降でサンプリングレートを従来の8kHzから16kHzに改善したWide Band Speechに関する仕様が規定されています[1]。
このWide Band Speech(HD Voiceとも呼ばれます)は、HFP 1.6が2011年に策定されたこともあり、他のOSでは少なくとも数年前までには対応が完了している状況です。Ubuntuを含むいわゆるLinuxデスクトップでは、Wide Band Speechに長らく対応していなかったため、Bluetoothヘッドセットをビデオ会議に使うのはお互いの声が聞き取りづらいなど音質面で厳しい状況でした。
そうしたなか今年に入って動きがあり、Ubuntuがデフォルトで使用しているPulseAudioでは、バージョン15.0でWide Band SpeechのためのmSBCコーデックがサポートされるようになりました[2]。今回は、2021年10月にリリース予定のUbuntu 21.10(PulseAudio 15.0が利用可能)で実際にWide Band Speechが使えるか確認してみます。
テストに使用したBluetooth機器
今回は以下の機器を使用しました。
親機(AG:Audio Gateway)側
Lenovo ThinkPad T480内蔵のIntel Dual Band Wireless-AC 8265
Bluetooth 4.2
子機(HF:Hands-Free unit)側
SOUNDPEATS Air3
Bluetooth 5.2
HFPバージョン: 明記なし
Anker Soundcore Liberty Neo 2
Bluetooth 5.2
HFPバージョン: 明記なし
JBL E25BT
Bluetooth 4.1
HFPバージョン: 1.6
結論から述べてしまうと、SOUNDPEATS Air3とAnker Soundcore Liberty Neo 2ではWide Band Speechが有効となり、JBL E25BTでは有効になりませんでした。JBL E25BTは4年以上前に発売された機種ですし、仕方がないのかもしれません。いずれにしろ、Wide Band Speech対応が明記されていない限り、BluetoothやHFPのバージョンなどのスペックからは対応可否がわからないのが正直なところです。
他にも、プロファイルをA2DPではなくHFPに設定したままYouTubeで人がしゃべっている動画を見るなどすると、Wide Band Speechの感覚をつかめると思います。A2DPを使っているときと比べると微妙と感じるかもしれません。それもそのはず、サンプリングレート16kHzのWide Band SpeechはHFPで現状サポートされているものの中では良いものですが、まだまだSuper Wide BandやFull Bandといったより広い帯域をカバーできておらず[3]、A2DP標準のSBC(サンプリングレート44.1kHz)と比べてもだいぶ差があります。それでも、以前の明らかに音質の良くない状況から改善すると思うと、うれしいニュースです。