11月6日から9日に東欧チェコの都市プラハにてUbuntuのコミュニティメンバーが一堂に会すUbuntu Summitが開催されました。今回は、Ubuntu Summitがどのようなものであったのか、なぜRaspberry Piコミュニティの筆者が参加していたのか?
Summit参加のきっかけはUbuCon Asia 2022のステアリングコミッティへの参加
Ubuntu Summit参加のきっかけは、11月下旬に開催されたUbuCon Asia 2022[1]のステアリングコミッティのグローバルチームとして参加していたことでした。筆者の担当はトラベルファンド関係、CFP
UbuCon Asia 2022の主宰であるUbuntu KoreaのYongbin Hanとは、UbuCon Asia 2021からFOSSASIAのHong Phuc Dangから紹介を受けました。その後若手中心であるUbuCon Asia 2022のステアリングコミッティに、筆者やHongがアドバイスする形で助けました。このステアリングコミッティの討議の中で、今年のUbuntu Summitの主宰をしているCanonicalのMauro Gaspari
Raspberry Piに関しての発表も頼まれる
Mauroからは
Face to Faceでの交流の重要性
日本はコロナ禍で、ほとんどのイベントがオンラインでの交流となりました。今となってはそれで十分であると考えているところも多いのが現状です。
しかしヨーロッパ系のイベントでは、たとえばヨーロッパ最大のオープンソースイベントのFOSDEMでは
なおパーティの際に、Canonicalは今回のUbuntu Summitの前から会場であるヒルトンプラハを貸し切っていて、エンジニアリングチーム寄りの別のイベントを開催していたことをPenkとの会話で知ることとなります。その中で、Mauroが相当筆者たちをアピールしていたようで、ちょっと緊張が走りました。
会場内は、いろいろ交流促進への仕掛けがなされています。テーブルサッカーゲームがおいてあったりなど、こんなところも日本のイベントにはないやり方です。
イベント参加者の一体感を示す上で、ステッカーやTシャツも活用されます。ステッカーは事前にコミュニティで持ち込んでほしいと通知もあったので、Raspberry Piのステッカーを持参しました。オリジナルのステッカーが出すとすぐになくなる状況だったため、少しずつ小出ししてできる限り多くの人の手に渡るようコントロールしました。
なお、Canonical側も過去のイベントのTシャツを放出していたのですが、Mサイズ以下が出した途端に全部なくなるという状態だったようです。特に1人が全部もっていったという話も後から聞きました。筆者がなんとか確保できたのも、次の写真にあるような大きなサイズだけでした。
3日間にわたり開催されたUbuntu Summit
Ubuntu Summitは3日間開催されました。その内容はCanonicalらしく技術に偏るのかなと思いきや、コミュニティや事例も多めの全体的な内容でした。ここは本当に意外でした。最終日はなぜかUbuntuのCarrierに関する話もあり、Hiringも兼ねているようです。
セッションカテゴリーは7カテゴリーもあり、かなり様々な内容満載でした。筆者が行うセッションはDevicesカテゴリーになりました。
Day1のキーノートにて
自分のセッションが2つも当選してしまったため、初日は共同発表者であるPenk Chenとのデモ準備に向けたCutiePiのチェックなど、両方の発表の用意をしていたため、正直他のセッションについてあまり聞けませんでした。
筆者にとってはシャトルワースのセッションでが印象的で、なぜ筆者らCanonicalと直接関係ない人までがこのイベント呼ばれた理由の説明がありました。曰く、他のコミュニティとの交流を大事にしているということで、どうも僕らやRed Hat
著者のセッションその1:How we built open source Raspberry Pi tablets and survived the chipset shortage — a story about project CutiePi
筆者としては、久しぶりの外国の方とのセッションです。とりわけPenkとのコラボセッションはCOSCUP以来で、当時は中国語に懸命に翻訳してくれた彼を今でも覚えています。
まずはPenkによるCutiePiのプロジェクトヒストリーから。もともとQtにいる彼が、そのUIとともにリリースしたのがRaspberry Pi Compute Module 4をベースとしたタブレットのCutiePiです。そのストーリーと現状の話をしてくれました。ことUbuntuに関して言うと、最初のバージョンは仮想キーボードがまともに動かない状態でした。 さらに半導体不足で2GBメモリのRaspberry Pi Compute Module 4しか販売できないのが現状です。そんななか、Mauroからできたら8GBメモリ版の実物も見せてもらえないかとリクエストがあったため、認定リセーラーであるSeeed StudioのCEOであるEric Panに直談判し、なんとか8GBメモリのCompute Module 4を幸い提供してもらうことができました。ここにPenkの発表日までのUbuntu 22.
筆者は知らなかったのですが、このプロジェクトはPenk以外に4人ものメンバーがいて、実際に開発しています。プロジェクトオーナーの彼の他、カーネルエンジニアが1人いて、タブレットを回した際の画面回転などを担当しているようです。
一方、筆者のパートはRaspberry Piを利用する上でのハードウェア的な情報や、ビジネスプログラム支援について説明をしました。Raspberry PiでIoTを設計する上で、どこで情報提供されており、どうRaspberry Piとビジネス情報を交換すればよいか、その話もさせてもらいました。
Penkのパートは事前にCanonical内部でも説明があったこともあり、プロジェクトに関することや今後のサポートについて多くの質疑応答がありました。僕のパートではビジネスプログラムやサードパーティのハードに関するサポートについて質問をされました。Raspberry Piベースのオーディオシステムである、VolumioのエンジニアのDario Murgiaから、ビジネスサポートのことやらカーネルに統合されているデバイスについてのことをいろいろ聞かれ、有意義なセッションでした。Maruoによる前振りがかなり効いたみたいでした。
著者セッションその2:Journey with the vineyard - learn from an IoT beginner use case
引き続き、もう一つの筆者のセッションになります。まさかダブルヘッダーで組まれるとは思いませんでしたが、他のセッションの裏番組になってしまったので、少人数の聴講者の前での発表となりました。
Raspberry Piの事例として、筆者がいろいろなところで紹介している山梨のワイナリーさんについて話しました。このワイナリーではRaspberry Piを使い温度と湿度を測り、それによって農薬散布量をコントロールして、できる限り農薬を使わない手作りのワインをつくるというプロジェクトを実施しています。日本では特に湿気がぶどうには大変よろしくなく、これが日本でのワインの難しさのポイントといえます。
ただ、実はこの事例、いくつかのワイナリーでも散見されていて、アメリカやヨーロッパの大手ワイナリーでも同様にRaspberry Piを使って農薬散布をコントロールしています。山梨のワイナリーのオーナーの方はエンジニアでもなく、俗に言う
注目セッションはなに?
Day1で自分のセッションは終えたので、とにかくDay2以降は話を聞かねばと思っていました。しかしながらRaspberry Pi関係やPenkのその後の対応をヘルプしていたりで、Day2、Day3も比較的やることが多めでした。また、ステッカーなどRaspberry Piのおみやげも持ち込んで、このイベントに少し貢献させていただきました。よって流石に全部参加とはいかなかったので、参加してなるほどと思ったセッションを紹介できればと思います。また、参加はしてませんがこれは!
参加セッション1:The Windows Subsystem for Linux (WSL) - Latest updates and future improvements
WSLのプロダクトマネージャーのCraig LoewenからWSLの新機能について説明がありました。
WSLコマンドラインからインストールされているOSを操作できることに関しては、筆者もRancher Desktop for WindowsのProxyの設定に関連して、少しだけ事前知識がありました。これはWSLコマンドラインからRancher Desktopが入っているApline Linuxを操作し設定をマニュアルで行う方法で、企業などでProxyを利用しているRancher Desktopユーザにとっては必須となる知識です。ただ、まさかcowsayまでそのメッセージを含めいろいろWSLからいじれるとは知らず、少し新鮮でした。
参加セッション2:Ubuntu on ARM
ARMのRobbie WilliamsonによるUbuntuへの取り組みの話です。Ubuntu Summitではコミュニティへの取り組みの他、ベンダーによるUbuntuへの取り組みネタが多い感じがします。
筆者はARM Developer ProgramやLinaroによる取り組みなどはARM INNOVATORであったころに聞いていた話ではあります。ただしDeveloper Programについては、開発者へのいろいろな支援があることが特に日本ではあまり知られていないので、ARM on Ubuntuな開発プロジェクトに関わる方は、Developer Programをチェックしてみてください。
参加セッション3:Getting Good — Gaming on Linux
CanonicalのAdam SzopaによるGame on Ubuntuに対する取り組みです。これがある意味今回参加した中で最も面白かったものです。最近多いセッション形式なのですが、登壇者が参加者と対話しつつ進行する形です。どんなゲームをやっているのとか、○○を使っていてどんな問題がある?
筆者はローカライゼーションの話をしたのですが、SDL2の言語変換にはまだいろいろ問題があることを話をしていました。また、いろいろ情報を集めているようで、ゲーマーからの
参加セッション4:Application support with libcamera
これも聴きたかったKieran Binghamによる、Raspberry Piでも使われているlibcameraのセッションです。彼とはもともと何回かOpenSource Summitで会っていてアフターコロナでの久しぶりの再会となりました。
libcameraの歴史や利点、従来のV4L2との違い、RaspberryPiでのサポートについて話がありました。本人はこのセッションだけでなく、PCを開けてセッション休憩中もデモしていたりと、プロジェクトのコントリビュータとして積極的に宣伝していました。
参加セッション5:Let's build a pen-plotter
CanonicalのDaniele Procidaによる安いペンプロッタをRaspberry PiでいじってみようというWorkshopも、少し覗いてみました。簡単なPythonのコードでプロッタを動かそうという話はRaspberry PiのBuild HATプロジェクトでも存在します。簡単にIoTの基礎みたいなことをやってみようというところは、こういうイベントではありがちです。
参加セッション6:Evaluating two years in production with Juju and Charmed OpenStack
もともとUbuntu Japanese TeamにはOpenStack側での貢献で顔が知られている著者ですが、OpenStackに関する実例セッションがあると聞いて参加しました。ここではJuJuによるOpenStackのオンプレミス環境の説明もさることながら、自動車業界の事例とあってGPUを利用したOpenStackの説明もありました。
かつて筆者も、NVIDIAやDell、Mirantisの協力をいただき、OpenStack上でのGPU利用を某大手自動車会社案件で実現し、GPU on OpenStackとしてその事例をOpenSource Summitなどで講演したことがありました。そこで、その案件で得た知見をでいろいろ質問したくなり、話を交わしたのですが、まだ実現に漕ぎ着けた段階らしく、これからといったところでした。
参加セッション7:PyPI In a box: Using a Raspberry Pi as a portable PyPI server
Vuyisile Ndlovuによるセッションで、アフリカの現状に合わせネットワークが貧弱な環境でもプログラミング教育ができるようにと、PyPiのサーバをコストパフォーマンスの高いRaspberry Piでつくってしまおうというプロジェクトの紹介でした。
あとからVuyisile本人にRaspberry Piをみせてもらったのですが、電池駆動だそうです。彼がRaspberry Piを大事にしている姿をみて、かなり苦労したのだなと実感がありました。なお、アフリカからの参加者は比較的多く、いかにもヨーロッパらしいイベントになっていました。
参加セッション8:My journey from early Linux, through Snap packaging, to WSL
Dani Llewellynによる彼女のLinux
参加セッション10:Let's meet the kernel livepatch feature
最後に聞いたのはこのセッションです。SUSEや最近のLinuxのLTSではデフォルトでサポートをされるlivepatchについての説明でした。
セキュリティパッチを例にして、Livepatchが適用される流れや実例、DEKUプロジェクトのmklivepatchとこのプロジェクトで従前から使われているkpatchとの違いについても説明がありました。なるほど確かにkpatchの動きが少々複雑で動かしにくいなという実感はありました。
注目セッション:UbuCon Europe and Asia
本来筆者も出るべきだと思ったのですが、どうしてもGaming on Linuxのセッションに参加したかったので、本セッションに関してはRaspberry Piのステッカーをそっと添える形にしました。
実際のセッションでは、UbuConの取り組み実績について説明があったようです。Youngbinはかなり年齢的にも若く、こうやったほうがいいということを結構助言していました。それにしてもやることがあまりに多い様子でした。プレゼンではビザ発給についても言及されていますが、ほんと大変だったんだろうなと個人的には同情しています。
Closing Partyはチェコらしく船上パーティ
最後のパーティはチェコという都市柄、船上でパーティしたかったのでしょう。こういうイベントでよくあるバンドライブですが、アメリカから連れてきたらしいです。
筆者はいつもはPenkとQtのメンバーやらヨーロッパ連中と絡んでいるのですが、今回ばかりはUbuCon Asiaチームと一緒に参加しました。チームメンバーは最年少が12歳というかなりの若手なので、ちょっと困惑することもありましたが、日本人が筆者以外いないことを気を遣ってくれて、韓国人メンバーが日本語で話しかけてくれるなど少し安心する感じもありました。また、ここでOpenSolarisプロジェクトに協力してもらってたSergio Schvezovとのまさかの再会があり、少し会話をしました。現在はEngineering Managerをやってて娘さんがRaspberry Piが好きだと話をもらいました。
まとめ
今回UbuCon Asiaチームの招待客として参加し、さらに2セッションの発表を行いました。ダブルヘッダーで発表するのはOpenSource Summit以来でした。Penk ChenとCutiePiプロジェクトメンバー、またCompute Module 4 8GBを見返りもなく提供いただいたSeeed StudioのCEO、Eric Panにはこの場で発表の協力に本当にお礼申し上げます。
セッションについてもWSLの話は面白かったですし、他にもGame on Ubuntuのセッションはかなり興味深く、Canonicalも情報収集している姿勢はLinuxでネットゲームをやる筆者にとっては正直な話ありがたく思いました。
また、アフリカのRaspberry Piの事例などは実に興味深い内容でした。現在日本だけでなくアジア地域のビジネスを支援している立場としては感心した内容でした。
人との再会・