Ubuntu Weekly Recipe

第868回UbuntuでAMD Radeon RX 9060 XTを使用する

今回はASRock DeskMeet X300にRD-RX9060XT-E16GB/DFを取り付け、Ubuntu 24.04 LTSを使用する方法を紹介します。

RD-RX9060XT-E16GB/DFとDeskMeet X300

今回は第732回ほか数回登場したDeskMeet X300/B/BB/BOX/JP(以下DeskMeet X300)に、RD-RX9060XT-E16GB/DFを装着します。

なお、あらかじめ言及しておきますが、本稿はDeskMeetシリーズでRD-RX9060XT-E16GB/DFを使用するのを推奨するものではありません。

DeskMeetシリーズは、200mmまでのグラフィックボードに対応しています。しかし最近のGPU高速化と発熱量の増加に伴い、そもそも200mm以下のグラフィックボードが少なくなり、出たとしてもVRAMが8GB以下といった、LLMを使用するにはいささか厳しい状況にあります。

そこに登場したのがRD-RX9060XT-E16GB/DFです。Radeon RX 9060 XTを搭載し、しかもVRAMも16GBあります。サイズはちょうど200mmで、電源容量にもマッチしてDeskMeetシリーズに入りそうです。

玄人志向のAMD製GPUを積んだグラフィックボードはPowerColor社製品のOEMなので、同じモデルがReaper AMD Radeon RX 9060 XT 16GB GDDR6として販売されています。

価格はRD-RX9060XT-E16GB/DFのほうが安いのですが、これは製品保証期間に由来すると考えられます。RD-RX9060XT-E16GB/DFの製品保証期間は1年ですが、Reaper AMD Radeon RX 9060 XT 16GB GDDR6は代理店によって2年間の製品保証がついています。個人的にはグラフィックボードが故障したことは過去に1回しかないため、保証期間はあまり気にはなりません。その過去の1回は玄人志向製品ではありましたが。

いずれも6月6日に発売したばかりで、しかもRadeon RX 9060 XTのVRAM 16GBモデルでも最廉価ということで執筆時点では入手難易度は高めです。

DeskMeet X300に入るのかという個人的な興味と、他の理由があって筆者は購入を決意しました。京都旅行からの帰りにたまたまスマートフォンで見ていたら某ショップに在庫があることを確認し、その場で購入しました。電車の中でも通販で買い物ができるとは便利な時代になったものです。

ポイントとしては、ボードの長さは200mmであるものの、ブラケットを含めると220mmであり、そのままストンと落とせば接続できるわけではないことです。

また、RD-RX9060XT-E16GB/DFはPCI Express 5.0 x16接続ですが、DeskMeet X300はPCI Express 3.0 x16接続です。したがっていくらかボトルネックが発生している可能性はあります。すでに所有しているので致し方ありませんが、今後購入するのであればDeskMeet X600がいいでしょう。こちらもPCI Express 4.0 x16接続ではあるのですが、ボトルネックは最低限のはずです。

RD-RX9060XT-E16GB/DFをDeskMeet X300に装着

換装前は次のようなスペックでした。

機材 メーカー 型番 備考
CPU AMD Ryzen 5 5600G
CPUクーラー SCYTHE 手裏剣2
メモリー Crucial CT2K32G4DFD832A 32GB
SSD キオクシア EXCERIA PLUS G3 2TB
グラフィックボード MSI GeForce RTX 3060 AERO ITX 12G OC
ベアボーン ASRock DeskMeet X300/B/BB/BOX/JP

ポイントはCPUファンの高さで、DeskMeetシリーズは58mmまでの制限があり、手裏剣2も58mmでした。

つまり、RD-RX9060XT-E16GB/DFは、上からも斜めにしても入らないということになります。実際には上からは入ったのですが、ブラケットが傷だらけになりました。全くおすすめしません。

上から入れようとしているところが図1です。

図1 上から入れようとするとブラケットが邪魔をして入らない

横から滑り込ませようとすると、CPUクーラーが邪魔をして奥まで行きません図2⁠。

図2 横から滑り込ませようとしているところ

そこで、CPUクーラーを高さ39mmのSCSK-3000(Shuriken3)に変更したところ、何の苦もなく入れることができました図3⁠。

図3 横から滑り込ませてなんの苦もなく入ったところ

というわけで、DeskMeetシリーズでRD-RX9060XT-E16GB/DF(あるいはReaper AMD Radeon RX 9060 XT 16GB GDDR6)を使用したいのであれば、事前にCPUクーラーを背の低いものに交換しておきましょう。

SCSK-3000は、レビューを読む限りにおいて、TDP 65W/PPT 88WのDeskMeet X300/X600で使用できるCPUであれば冷却能力に不安はなさそうです。DeskMeet B760であれば少しCPUを選ぶかもしれませんが、現在は入手困難のようです。

Ubuntu 24.04 LTSとROCm

Radeonを使用するということは、第742回ほかで紹介したROCmをインストールすることになります。ROCmはGPUソフトウェアスタックで、これをインストールすると第742回で取り上げたようにBlenderなどさまざまなソフトウェアがGPUを使用して高速化します。

インストール方法はROCmのバージョンによって変わるので最新情報はインストールページを参照してほしいのですが、執筆段階で最新版である6.4.1のインストール方法は次のとおりです。

$ wget https://repo.radeon.com/amdgpu-install/6.4.1/ubuntu/noble/amdgpu-install_6.4.60401-1_all.deb
$ sudo apt install ./amdgpu-install_6.4.60401-1_all.deb
$ sudo apt update
$ sudo apt install python3-setuptools python3-wheel
$ sudo usermod -a -G render,video $LOGNAME
$ sudo amdgpu-install -y --usecase=graphics,rocm

インストール後、再起動して「システム情報」を確認すると、図4のようになります。

図4 ハードウェア情報

ROCmの注意点は、ROCm 6.4.1はカーネル6.14に対応していないので6.11のまま留める必要があります。もうそろそろカーネルの更新があってカーネルを6.14にアップデートするかもしれませんが、6.14に対応したバージョン(7.0かもしれません)がリリースされるまでお待ちください。

Blender

第742回のようにBlender でサンプルをレンダリングしようとしてみたもの、snap版4.4.3だとレンダリングの途中に落ちてしまう不具合に見舞われました。

Blenderのバグなのか、それともROCmのバグなのかはわからなかったのですが、試しに4.5 LTS Betaをダウンロードして実行してみたところ、無事に完走しました図5⁠。つまり、Blender側の不具合であることがわかりました。

図5 有名なサンプル、Classroomで約38秒だった

ベンチマーク

いくつかのベンチマークを見ていくことにします、使用するベンチマークはPhoronix Test Suiteです。

比較に使用するのはGeForce RTX 3060 AERO ITX 12G OCです。

まずはゲーム、SuperTuxKartの結果です図6⁠。

図6 SuperTuxKartの結果

Radeon RX 9060 XTの直接のライバルはGeForce RTX 5060 Tiなので、2世代古いGeForce GTX 3060にはどのような条件であっても勝ってほしかったところです。しかし現実的には、OpenGLは充分すぎるほど高速なもののVulkanでは負けています。

続けてVulkanで画像を拡大するWaifu2x-NCNNを見ていきます。傾向としてはSuperTuxKartと同様で、大小はあるもののすべてのケースで負けています図7⁠。

図7 Waifu2x-NCNNでの結果

もう少し細かく、Vulkanを使用してさまざまな精度の浮動小数点や整数を演算させたのがvkpeakで、少々見にくいがすべてを掲載します図8⁠。

図8 vkpeakでの結果

要するにint32だけはダントツに遅いものの、あとはRadeon RX 9060 XTのほうが速いです。

先程のBlenderのレンダリング結果を、GeForce RTX 3060でも見てみましょう図9⁠。

図9 GeForce GTX 3060での結果

Radeon RX 9060 XTでは約38秒でしたが、GeForce RTX 3060では約58秒でした。このくらいの速度差があってほしいという期待どおりの速度が出ていると見ていいでしょう。

全体的には、ドライバーの最適化が進んでもう少し速度が出てくれると嬉しいと、まとめるのが妥当な結果でしょうか。

Ollama

第860回などで紹介したOllamaは、少なくともリリース時点で最新版である0.9.2でRadeon RX 9060 XTに対応しています。

図10はOllamaの起動ログですが、ポイントは「gpu_type=gfx1200」で、これはRadeon RX 9060 XTのことを示しています。ROCmのドキュメントを読むとわかりやすいでしょう。

図10 Ollamaの起動ログの一部

ベンチマークを見るとRadeon RX 9060 XTはあまり魅力的ではないのかなと思いがちですが、VRAMが大きいのは明確なメリットで、Decstral 24Bが動作していることを確認しました。速度も充分に実用的で、正直なところここまでやってくれるとは期待していなかったので嬉しい誤算でした。

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