iOSDC Japan 2022 カンファレンスレポート

iOSDC Japan 2022とは?

iOSDC Japanは、iOS関連技術をコアのテーマとしたソフトウェア技術者のためのカンファレンスです。日本中、世界中から公募した知的好奇心を刺激するトークの他にも、パンフレットに掲載された技術記事、参加者であれば誰でも作れる即興のトーク・アンカンファレンスなど、初心者から上級者まで楽しめるコンテンツがみなさんを待っています。

第7回目となるiOSDC Japan 2022は、2022年9月10日〜12日にわたり、東京・早稲田大学西早稲田キャンパスにて開催されました。今年は97本のトークが繰り広げられました。

初の試みとして、リアル会場とオンライン配信のハイブリッド開催となりました。開催3日間でオフライン参加者574名、オンライン参加者673名の計1247名となり、過去最高人数が参加しました。

Day1終了時に撮影したイベント参加者の集合写真
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このレポートでは、iOSDC Japan 2022で実施した試みや、たくさんの興味深いトークの中からいくつか気になったものをピックアップしてお届けします。

スタイルに合わせた参加方法が選択可能

今年は従来のオフラインスタイル加え、過去2年のオンライン開催で培ったニコニコ生放送を中心とした配信システムを活用しました。これにより参加者それぞれのスタイルに合わせた形で参加可能でした[1]

受付の様子
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スピーカーは事前収録または現地登壇を選択することができ、当日の状況に合わせて切り替えることもできました。

事前収録
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オンライン/オフラインの垣根を超えた交流

オフライン会場では、スピーカーと少人数で交流できるスペースを設けたり、Discord上にトークごとのテキストチャンネルを作成し、オンライン/オフライン参加の垣根を超えて交流できる場所が用意されました。

オフライン参加者からは「今までオンラインしか知らなかった人と初めて直接話せて良かった」という声があったり、オンライン上では多くのトーク中に実況中継のような形でリアルタイムに議論が盛り上がっていました。また、登壇者の中では、Twitterのコメントをチェックしながらインタラクティブにトークを進めている方もいるなど、オンラインとオフラインの交流は盛んに行われているように見えました。

多種多様なスポンサーノベルティ/会場ブース

今年は過去最高の79のスポンサーに協賛されました。多種多様なノベルティグッズ(事前に郵送済)が提供され、オフライン会場のスポンサーブースでは、ボールすくいやくじ引きなどのお祭り的なものから、アプリにまつわるクイズなどの技術的なものまで、工夫を凝らした多種多様な企画でイベントが行われ、盛り上がっていました。また、独自にオンラインブースを設置されている企業もありました。

スポンサーブース
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ノベルティについては公式ブログをご覧ください。

内容豊富なオリジナルパンフレット

初のオンライン開催となったiOSDC Japan 2020以降、オリジナルパンフレットにも力を入れており、今年も大変充実した内容になりました。

通常のトークの他に「原稿」という枠を設け、採択された内容をパンフレットに投稿できます。手元に形として残るため、通常のトークとはまた違った魅力があるということで、毎年人気となっています。今年は14本の原稿が採択され、iOSに関連した技術記事や開発者あるあるの4コマ漫画など、幅広い記事が掲載されました。

スポンサーからも独自の内容がパンフレットに寄稿されました。事業内容やアプリ紹介、エンジニアへのインタビューなどを通じて、会社の雰囲気や働き方などを知ることができます。

パンフレット
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iOSDCチャレンジ

iOSDCチャレンジは「iOSDCトークン」を探してスコアを獲得し、そのスコアの合計を競う全員参加型の企画です。iOSDCトークンは#(ハッシュ)からはじまる文字列で、パンフレット内や公式サイト、スポンサー各社のブログ記事、各種ノベルティなどに隠されています。

この企画は以前から存在していましたが、オンライン開催時に異様な盛り上がりを見せ、今となっては目玉の企画の一つになりました。今年はオンライン/オフラインを組み合わせてさらにトークン探しの幅が広がりました。

iOSDCチャレンジ表彰
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トークセッション

ここからはいくつか気になったトークをピックアップして紹介します。

PiPを応用した配信コメントバー機能の開発秘話と技術の詳解

千吉良成紀氏@_naru_jpnによるPicture in picture機能を応用して、アプリを開いている時以外でも端末の画面上に固有のコンテンツを表示する「配信コメントバー」の開発経緯や実装詳細についてのトークです。

千吉良成紀氏
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エンジニアの発想からR&Dを通して生まれたエンジニア主体の機能というのが特に印象深く、完成した時の達成感は同じエンジニアとしてとても大きかったのではないかと思いました。

R&Dをきっかけに開発がスタート
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また、低レイヤーの機能ではあるものの、メンテナンス性メンテナンス性を考慮して誰でも機能の追加や修正をできるようにする配慮は、すぐにでも応用したい学びでした。

さらに、描画コストとの戦いは、トークでは見えない相当な苦労があったのだろうと想像でき、そんな中で1つ1つ原因を追求し対策を導く積み上げていく過程は、とても感動的でした。

描画コストを減らすために1つ1つ問題を解決
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詳細については千吉良氏自身が、Mirrativの技術ブログiOS 15でのPiP機能PiPの描画パフォーマンスでも解説しています。

アニメーションAPIのすべて

岸川克己氏@k_katsumiによるiOSのUIViewやCALayerのアニメーションAPIに関するトークです。なお、スライドはアプリとして作成されていました。

岸川克己氏
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iOSにはViewをアニメーションさせる数多くのAPIが存在しています。トークでは、それができた経緯や使い分けの判断基準についてサンプルと一緒に解説しています。数多くのAPIが登場しますが、1つ1つのポイントを実際に動いている様子を見ながら理解できるため、頭に残りやすくまさに学習に適した内容となっています。

実際にアニメーションしているスライド
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特に各APIのできることとコードの複雑さのトレードオフについての言及は、今回のアニメーションAPIに限らず多くの場面で活かせるため、とても参考になる考え方だと思いました。

状況に応じたAPIの使い分けが大切
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イベント後には、岸川氏がブログにて補足記事を書いており大変参考になります。

UIKitベースの大規模なプロジェクトへのSwiftUI導入

久利龍義氏@kuritatu18による大規模なUIKitベースで実装しているプロジェクトにどうやってSwiftUIを導入するかについてのトークです。

久利龍義氏
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SwiftUIの登場から約3年経ち、多くの機能や知見が増えてきたことから、既存のUIKitベースのコードからSwiftUIへの切り替えを検討するプロジェクトが増えてきました。トークでは、大規模なプロジェクトにおいて、どのようにSwiftUIを導入していったのかについて、具体的なステップが丁寧に解説しています。

導入までのステップ
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チーム内での合意、既存コードへの影響やQAスケジュールとの調整といったプランニング段階から、プロダクションコードに導入するまでにコード上で行った下準備といった実装段階まで、導入までに必要な事項をどう解決していったかを知ることができます。そのため今後SwiftUIへの切り替えを検討している方に大変参考になる内容でした。個人的には、お試しPRを作成し、対応が必要な問題を解消してからプロダクションへ移行したという話は、小さく問題を切り分けて大きな問題を解決することが大事であることを改めて認識できるとても良い機会でした。

お試しPR
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Swift Concurrency時代のiOSアプリの作り方

Yuta Koshizawa氏@koherによるiOSアプリでSwift Concurrencyを活用する方法についてのトークです。実装する過程を追いながら解説していきました。

koher氏
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多くの方が実際にアプリ開発を進めていくような具体的なステップを踏みながら、要所要所でSwift Concurrencyの解説が入るため、頭に残りやすい形で多くのことを学ぶことができる内容でした。

開発ステップ
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また、おそらく開発者がつまづくであろうポイントに関しては特に丁寧に解説されており、今後の開発に導入する際にも改めて復習教材として役に立ちそうだなとも思いました。

async関数を用いたButtonハンドリング
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特にasync/awaitのテストはつまづきポイントが多く、そこについても触れており、大変参考になりました。

Swift Concurrencyの導入を検討している方はまずこちらのトークを見てみることをお勧めします。

iPadOSDC Japan 2022

Hiromu Tsuruta氏@hcrane14による現在のSwift Playgroundsを使ってiPadでどこまでアプリが開発できるかについてのトークです。

Hiromu Tsuruta氏
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このトークは5分のLT(Lightning Talk)でしたが、演出がとても凝っていて盛りあがったトークでした(気になる方はアップロードされた動画をご覧ください⁠)⁠。

演出も素晴らしかったのですが、内容としてもLTとは思えないほど充実していて、Swift Playgroundsでできる/できないことの紹介や、Xcodeとの違いなど非常にわかりやすく解説していました。iPadで開発経験のなかった身としては「iPadでここまでできるのか」と目から鱗でした。

Preview
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Xcodeとの違い
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実際にiOSDC Japan 2022のタイムテーブルが見られるアプリPadOSDC_Japan_AppをiPadのみで開発されたそうです。

モリアガリトーク賞

イベントのクロージングでモリアガリトーク賞の発表が行われました。どれも興味深いトークでしたが、オンフライン、オンライン問わずに特にコメントやリアクションの多かったトークが表彰されます。

今年のモリアガリトーク賞には、Yoshimasa Niwa氏のXcode が遅い! とにかく遅い!! 遅い Xcode をなんとかする方法が選ばれました。

このトークはXcodeのビルドが遅い仕組みを解明し、どう対策を行なったかという内容です。多くの人が知らないとても深い内容が紹介され、たくさんの学びと驚きが得られます。

Yoshimasa Niwa氏
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終わりに

今年のiOSDC Japanは、SwiftやiOSの最近のトレンドから開発をサポートするツール、iOSフレームワークを超えたSwiftの活用など、とても幅広いジャンルのトークが繰り広げられました。その結果オンラインオフライン問わず、たくさんの議論が盛り上がり、多くのコメントが寄せられました。

3年ぶりのオフライン開催に加え、オンライン配信も行う初の試みであったためトラブルもありましたが、参加者のみなさんの協力もあって、無事最後まで走りきることができました。すべてが終わって誰もいなくなった部屋を見た時に「iOSDC Japanはみんなで作っていくものなんだな」と改めて感じました。

クロージング
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素晴らしいトークをしていただきましたスピーカーの皆様、協賛いただいたスポンサーの皆様、たくさんの拍手やコメントで盛り上げていただきました皆様、イベントを陰で支えていただたきましたスタッフの皆様、本当にありがとうございました。

来年もまた、一般参加者、スピーカー、スポンサー、スタッフ、すべての方と一緒にiOSDC Japanを作り上げられるよう心から願っています。

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