GoogleやFacebook、LinkedInといった世界でも有数の企業で実践され、国内でもメルカリやSansanが導入したことで、目標管理手法のOKR
しかし、必要以上にハードルが高く感じてしまい、OKRの導入に踏み切れない企業や、OKRを導入したものの、期待どおりの成果が挙げられない企業も、まだまだ多い印象です。それどころか、
そこで本特集では、本誌の読者層である開発者を対象に、
なお本特集には、㈱サイカCTOの是澤太志さんにレビュアーとして参加していただきました。たいへん貴重なご意見をいただき、心から感謝しています。
OKR とは
OKRは、マネジメントの父と呼ばれたピーター・
OKRを用いることで、重要でない目標を切り捨て、その組織において最も重要な目標だけに注力させることができます。OKRはコミュニケーション手法の1つでもあります。OKRは組織の透明性やチームワークを高めるだけでなく、その組織で働く一人一人の自律性やモチベーションを高めることができます。
OKRを構成する要素
図1で示されているとおり、OKRは目標
たとえば、
- iOSコード中のSwiftの割合が100%
- Androidコード中のKotlinの割合が100%
- フロントエンドコード中のTypeScriptの割合が100%
目標はルーフショットではなくムーンショット
図2で示されているとおり、目標にはルーフショットとムーンショットの2種類があります。OKR以外の目標管理手法では、どちらも重要であることが多いですが、OKRではムーンショットに重点が置かれます。
ルーフショットとは、日本語で
一方ムーンショットとは、
OKRにおける目標は、ムーンショットでなければなりません。OKRでは、組織で働く一人一人の想像力を掻き立て、目標実現に向けて試行錯誤させるような目標を立てる必要があります。
成果指標はアウトプットではなくアウトカム
図3で示されているとおり、アウトプットとアウトカムは異なります。Hewlett-PackardやeBayなどで製品開発に携わってきたマーティ・
アウトプットとは、消化したタスクの一覧を指します。たとえば、
それに対してアウトカムとは、タスク消化の先にあるビジネスの成長です。具体的には、
目標と成果指標を数珠つなぎに接続する
まず初めに、会社全体の目標の1つとして、
さらにこれらの成果指標を、組織ごとに目標として掲げます。たとえば開発部門では、
優れたOKRが持つ特徴
Google元CEOのエリック・
- ❶ 大局的視点と客観的指標を併せ持つ
- ❷ シンク・
ビック (発想を大きく) の精神 - ❸ 特定の部署に限定せず、組織全体で実践される
- ❹ 人事評価制度ではなく、セルフコントロールとして用いる
- ❺ 業務を網羅せず、力を入れるべき分野に限定する
大局的視点と客観的指標を併せ持つ
大局的視点がなければ局所最適解に陥ってしまいますが、客観的指標がなければ行動が伴いません。
大局的視点が欠けてしまった例として、
それでは、大局的な視点として、
優れたOKRにするためには、その目標を実現するために、
シンク・ビック(発想を大きく)の精神
OKRの達成率が常に100%の場合は、その目標が低過ぎると考えられます。たとえば、
また、目標が達成できなかった場合も、気落ちさせない配慮が求められます。失敗を恐れていては、高い目標が立てられないからです。目標の達成率が低かったとしても、次のOKRを改善するためのデータとして捉えるようにします。
特定の部署に限定せず、組織全体で実践される
OKRは、営業や開発、管理といった特定の部門にかかわらず、あらゆる組織で実践できます。たとえば、KPI
また、全員がOKRについて考えることが重要です。決まったルールはありませんが、CEOは、会社全体のOKRとは別に、CEO個人としてのOKRを設定すべきという考え方があります。そうすることで、一人一人が会社に対してどのように貢献できるのかを、同じ目線に立って考えることができるようになります。
人事評価制度ではなく、セルフコントロールとして用いる
成果指標は数値化して測定することができますが、OKRは人事評価制度ではありません。人事評価制度において、何かしらの定量的指標は確かに必要です。しかし、OKRをそのまま人事評価として扱ってしまうと、わざと低い目標を設定し、それらを大きく超過する
Google元人事トップのラズロ・
OKRでは、人事評価や報酬による
業務を網羅せず、力を入れるべき分野に限定する
すべての業務を網羅しようとすると、過度な負担になってしまうだけでなく、重要ではない目標ばかりがOKRを占めてしまいます。OKRでは、特別に力を入れるべき目標や、挑戦的な目標だけに注力することが重要です。通常業務の範囲でできることは、目標に含めるべきではありません。一般的に、目標の数は3~5個、1つの目標に対する成果指標の数も3~5個までにとどめることが推奨されています。中には、目標も成果指標も3つまでに絞るべきという意見も見られます。
OKRはタスクの一覧ではありません。もし目標や成果指標の数が多過ぎて重要な領域に注力できないようであれば、本当にすべてをOKRに含めるべきか、あらためて疑う必要があります。
OKRの歴史
OKRは目標管理手法の1つですが、目標管理という言葉から、
フレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法
目標管理手法の出発点は、産業革命後の工場において、いかに生産性向上と賃金向上を両立させるかでした。当時の工場は出来高払いでしたが、1人が頑張り過ぎると全体の賃料が下げられてしまうため、経営者と労働者が対立するばかりでなく、生産性も上がりませんでした。
経営学の父と呼ばれたフレデリック・
生産性向上と賃金向上の両立
テイラーは著書
悪用された科学的管理法
しかし、経営者が科学的管理法を悪用し始めます。科学的管理法を生産性向上だけに使い、その恩恵を経営者が独占し始めました。その結果、科学的管理法は、
ピーター・ドラッカーが目指した目標による管理
悪用された科学的管理法の失敗から学び、労働者を心のこもった人間として扱う心理学を取り入れたのが、ドラッカーによる、目標による管理です。目標による管理は、MBO
セルフコントロールの原則
ドラッカーは著書
実は、OKRの基礎のほとんどは、ドラッカーが作り上げました。OKRを生み出したグローブ自身も、OKRのことを目標による管理を応用した、Intel流目標による管理
誤解された目標による管理
目標による管理の問題点は、しばしばこの目標がノルマと混同されることでした。目標は一人一人が設定するものですが、マネージャーが一方的に目標を押し付け、部下の自律性やモチベーションを奪ってしまう問題が発生してしまいました。
また、目標による管理が、人事評価や報酬と連動されてしまったことで、さらなる問題も発生してしまいました。人事評価において、目標の達成率を重視し過ぎてしまうと、人々が意図的に目標を下げることで、報酬や賞賛を得ようとするサンドバッギングが横行してしまうからです。
グローブらが目標による管理をさらに洗練させたOKR
OKRはグローブが生み出し、さらにベンチャーキャピタリストのジョン・
Intel流目標による管理
グローブは著書
マネージャーの目標は部下の目標と連動しています。部下が自分の目標を達成したことで初めて、マネージャーの目標を達成することができます。この考えを発展させることで、組織の成果指標が、個人の目標と数珠つなぎに接続される、現在のOKRの形に辿り着きました。
目標による管理とOKRの違い
目標による管理では、目標の設定に全体的な視点が求められたため、マネージャーからの支援が必要不可欠でした。しかしOKRでは、組織の目標と個人の目標の関係性が明確になったため、個人の裁量で目標が設定しやすくなりました。さらに、OKRは人事評価や報酬とは切り離すべきだという考えも強化されました。たとえば、Googleでは四半期が過ぎると、OKRを人事評価システムから切り離すといった工夫も行われています。
このように、OKRは組織の透明性を高めることで、目標がノルマ化することを防ぎました。また、目的をセルフコントロールに特化させることで、自律性やモチベーションを向上させることにも成功しました。
OKRの威力
ドーアは著書
フォーカス──混乱を排除し、優先事項に集中する
Apple元CEOのスティーブ・
OKRの基本的なルールは、成果指標をすべて達成すれば、必ず目標が達成されることです。逆に言えば、目標達成に必要のない成果指標は並べるべきではありません。
アラインメント──透明性を高め、チームワークを高める
公開されていない目標よりも、公開されている目標のほうが達成率が高まります。OKRは、個人と上司の間だけにとどめず、会社全体に公開します。透明性を高めることで、一人一人が緊張感を持って、目標達成に取り組むことができます。
OKRは、透明性を高めることで、水平方向のチームワークを促します。図7の例では、組織の目標を実現するために、インフラ開発者の協力が必要不可欠であることが全社に共有されます。これにより、インフラ開発者との部門を超えたチームワークが発揮されやすくなります。
さらに、OKRは建設的な反論の材料になるため、ボトムアップも促すことができます。明確なOKRを設定することで、たとえば、
トラッキング──データに基づき、進捗を明確にする
OKRでは、成果指標が定量的に計測できるため、目標がどれだけ達成に近づいているかを可視化することができます。図7の例では、ECサイト開発者の
また、達成が困難になってしまった目標を、早い段階で発見できることも強みの1つです。古くなってしまったり、非現実的になってしまった成果指標にしがみつく必要はありません。達成が不可能になってしまったのであれば、運用中に成果指標を調整しても構いません。
さらに、その成果指標の有用性が失われてしまったのであれば、見切りをつけます。しかし、そうなってしまった場合であっても、
ストレッチ──失敗を許容し、驚異的な成長を可能にする
OKRでは、目標の達成率は60~70%に設定すべきだとされています。これは、高い目標であればあるほど、高い結果を残すことができるという研究結果に基づいています。さらに、難易度が高い目標を設定すると、従業員のエンゲージメント
実際には、初めから失敗を恐れず高い目標を立てられる人ばかりではありません。達成できないかもしれない目標を立てることに、違和感を感じる人もいるかもしれません。そうした場合は、OKRが挑戦的な目標であることを丁寧に説明し、失敗を許容する文化を作り上げることが、組織において何よりも重要です。
まとめ
第1章では、OKRを構成する要素と成り立ち、そしてその威力を、具体例を通じて紹介しました。続く第2章では、OKRの設定方法を詳しく解説します。