OKR運用指南

第2章個人のOKRを設定する ~挑戦的な目標を立て、自身が成長できるように仕向ける

第1章では、OKRがなぜ支持されるのかを解説しました。OKRは目標と成果指標を組み合わせただけのシンプルな目標管理手法ですが、過去の手法の反省から学び、今日まで改善され続けてきたことで、ほかの手法にはないさまざまな魅力を持っています。

しかし、OKRを導入するメリットを理解していても、いざ実践となると、つまずいてしまうケースが数多く見られます。その原因の1つとして、ガイドライン不足が挙げられます。一人一人がOKRを設定する際に、何に気を付ければ良いのかがわからないため、適切なOKRが設定できないのです。

そこで第2章では、新卒のモバイルアプリ開発者を主人公に設定し、⁠個人のOKRを設定する」という具体的なシナリオを通じて、OKRの設定の流れを解説します。

あなたは新卒のモバイルアプリ開発者

あなたは新卒で入社してから、3ヵ月が経過したばかりのモバイルアプリ開発者です。あなたは研修を無事に終え、あなた以外の開発者2人が在籍する、小さなモバイルアプリ開発チームに配属されました。会社では、OKRを採用しています。今期は、会社全体のOKRと、あなたのチームのOKRがすでに発表されています。あなたはこれらのOKRに合わせて、人生で初めて、個人のOKRを設定することになりました。

開発中のモバイルアプリ

あなたのチームでは、ペットの健康管理アプリ『フィットペット』を開発しています(フィットペットは架空のアプリです⁠⁠。フィットペットでは、ペットの運動量や食事内容を記録することで、ペットが健康状態を維持できているかをスマートフォンを使って管理できます。

フィットペットはすでにリリースされており、口コミで少しずつダウンロード数が伸びてきたところです。しかし、ユーザーのほとんどが無料プランを利用し続けているため、まだ黒字化が実現できていません。

会社全体のOKR

会社全体のOKRでは、フィットペットの黒字化を目標の1つとして掲げています。会社では、この目標に紐付ひもづく成果指標を決定するために、過去にリリースされたモバイルアプリのデータをもとに、フィットペットが黒字化する条件を分析しました。分析の結果、レビューの平均点、アプリの継続率、有料プランの契約率を一定水準まで引き上げることで、今期中にフィットペットの黒字化が見込めることがわかりました。そこで、会社全体のOKRの一部として図1が設定されました。

図1 会社全体のOKR
図1

チームのOKR

今期、あなたのチームはフィットペットの開発に注力することにしました。そこで、会社全体のOKRのうち、フィットペットの黒字化に関わるすべての成果指標を、チームの目標としてそのまま掲げることにしました。あなたのチームでは、それぞれの目標を達成するための成果指標が慎重に検討されました。その結果、チームのOKRとして図2が設定されました。

図2 チームのOKR
図2

OKR のドラフトを作成する

完璧なOKRを設定することは容易ではありません。そこであなたは、初めから完璧なOKRを目指すのではなく、まずはドラフトから作成することにしました。そのため、OKRの大まかな方向性を決めるにあたって、基本となる「FAST」を紹介します。

SMARTよりFAST

目標管理の分野では、SMART(スマート)が長らく一般的に用いられてきました。SMART は、⁠Specific(具体的な⁠⁠、⁠Measurable(計測可能な⁠⁠、⁠Achievable(達成可能な⁠⁠、⁠Realistic(現実的な⁠⁠、⁠Time-bound(期限の設定された⁠⁠」のそれぞれの頭文字を取ったものです。中には、⁠Realistic(現実的な⁠⁠」が「Relevant(関連性のある⁠⁠」に置き換えられているなど、複数のバリエーションが存在します。

基本的にSMARTでは、これら5つの要素を満たすことで、現実的な目標を設定することが推奨されています。しかしこの考え方は、挑戦的な目標設定を重視するOKRと相性が良くありません。そこで、ドナルド・サルとチャールズ・サルの2人は、MITスローンマネジメントレビューにおいて、SMARTに代わるFAST(ファースト)を紹介しました。

2人はSMARTのことを、⁠挑戦的な目標を軽視し、評価ばかりに焦点を当て、目標を継続的に議論する重要性を無視している」と批判を展開しました。SMARTに対して、彼らの提唱するFASTは、⁠Frequently Discussed(継続的に議論される⁠⁠、⁠Ambitious(挑戦的な⁠⁠、⁠Specific(具体的な⁠⁠、⁠Transparent(透明性のある⁠⁠」のそれぞれの頭文字を取ったもので、挑戦的な目標や、透明性を重視するOKRとの親和性が高く設計されています。

そこであなたは、FASTを構成する要素を以下の順で照らし合わせながら、OKRのドラフトを作成することにしました。

  • Transparent─⁠─透明性
  • Specific─⁠─具体的
  • Ambitious─⁠─挑戦的
  • Frequently Discussed─⁠─継続的な議論

Transparent─⁠─透明性

透明性とは、ただ誰からも見えるようにすれば、それだけで実現されるものではありません。たとえば、社員1万人の会社において、全員分のOKRを共有ドライブに置いたところで、誰もそれを見なければ、十分に透明性があるとは言えません。透明性において大切なことは、組織の端から端まで、OKRの整合性が保たれることです。たとえば、チームメイトたちがすでに図3で示されているとおり、目標を掲げていたとします。

図3 チームメイトの目標
図3

すると、図4で示されているとおり、チームの残りの3つの成果指標を、あなたの目標として掲げることができます。

図4 残りの目標
図4

また、チームメイト同士が自由に意見を交換し合い、時には柔軟に目標を変更できることも、透明性によって得られる利点の1つです。たとえばあなたが、ログイン率を向上させるためには、有料コンテンツの追加が必要不可欠だと考えたとします。しかしそれは、チームメイト❶が掲げている、⁠有料コンテンツを3つ以上増やす」という目標と重複が生まれてしまいます。

その場合、たとえばあなた自身の3つ目の目標を、⁠毎日利用したくなる有料コンテンツを提供する」に変更し、チームメイト❶の2つ目の目標を、⁠有料を2つ以上追加する」に調整してもらったとしても、まったく問題ありません。組織の成果指標と個人の目標は、必ずしも一対一で紐付いている必要はありません。大切なことは、関係者と協力し合うことで、OKR全体での整合性が保たれることです。このように、あなたはチームメイトたちとの話し合いを行った結果、図5で示されているとおり、3つの目標を掲げることにしました。

図5 あなたの目標目標
図5

Specific─⁠─具体的

成果指標の具体性を高めることで目標が達成しやすくなるという研究結果は、すでに数多存在します。また、具体的な成果指標を設定することで、エンゲージメント(会社への愛着や思い入れ)高まります

成果指標は、数値化されていなければならないという考え方があります。しかし、ドナルド・サルとチャールズ・サルの2人は、具体性こそが重要であり、それが数値化されているかどうかは必須ではないと述べています。

たとえば、フィットペットをユーザーに毎日利用してもらうために、ユーザー自身の散歩による消費カロリーを表示させるというアイデアがあったとします。このアイデアを成果指標に落とし込むために、⁠30%のユーザーが散歩による消費カロリーを確認する」といったように、無理に数値を含めようとする必要はありません。

現実的には、立ち上げられたばかりのアプリやサービスにおいては、達成率を計測するための基盤も十分にそろっていないため、すべての成果指標を数値として計測することは困難です。しかし、具体性が十分確保されているなら、⁠散歩を促す有料コンテンツがリリースされる」といった、数値を含まない成果指標を設定しても構いません。

大切なことは、それらの成果指標をすべて満たすことで、目標達成に直接結び付く関連性が認められることです。また、成果指標を具体的にする際に、それがただのタスクの一覧(アウトプット)にならないよう気を付ける必要があります。成果指標は、タスク消化の先にある、ビジネスの成長(アウトカム)でなければなりません。

ただの言葉遊びに聞こえるかもしれませんが、⁠散歩を促す有料コンテンツを開発する」「散歩を促す有料コンテンツがリリースされる」では大きな違いがあります。ただ機能を開発するだけでは、仮に問題が見つかり、機能がリリースされなかったとしても、目標が達成されたことになってしまいます。しかし、⁠リリースされる」という言葉を用いると、あなたが開発した機能が、最終的にビジネスに与える影響まで責任を持つことになります。

このように具体性に配慮しつつ、あなたは図6で示されているとおり、それぞれの目標に成果指標を紐付けることにしました。

図6 あなたの成果指標
図6

Ambitious─⁠─挑戦的

これまで、OKRにおいて挑戦的な目標を立てることの重要性を強調してきましたが、高すぎる目標にはリスクも伴います。ハーバードビジネススクールで発表された『目標を設定することの副作用(Goals Gone Wild⁠⁠』と題された論文では、非現実的な目標が引き起こすさまざまな問題が提起されたことで、大きな反響を呼びました。論文は、実際に起きた不正会計事件や水増し請求事件を引き合いに出しながら、高すぎる目標の副作用として、⁠目標の範囲外に目を向けない視野狭窄しやきょうさく、倫理に反する行動の促進、ゆがんだリスク選好、組織文化の弱体化、内発的動機の減退」など、さまざまな問題を挙げています。ドナルド・サルとチャールズ・サルの2人も、目標を適切な難易度に設定することの難しさを認めています。

しかし2人は、⁠一般的な会社であれば、より挑戦的な目標を設定するべきだ」と主張しています。たとえば、⁠致命的な不具合を100%解消する」といった成果指標は、日々の業務の範囲内であれば、わざわざOKRに含める必要はありません。それよりも、⁠手動のテストシナリオをUIテストで自動化する」といった、より挑戦的な目標に置き換える必要があります。

新卒で入社したばかりでは、挑戦的な目標を立てることを無謀に感じてしまうかもしれません。もし高すぎる目標に不安を感じるのであれば、まずは1つの目標に対して、挑戦的な成果指標を最低1つ含めるところから始めます。そうすることで、必然的にすべての目標の難易度が少しだけ上がることになります。以降は経験を積むに従って、少しずつ挑戦的な成果指標の数を増やしていけばよいのです。

そこであなたは、アプリのクラッシュ率を減らすために、図7で示されているとおり、成果指標の1つを挑戦的な内容に変更することにしました。

図7 挑戦的な目標
図7

Frequently Discussed─⁠─継続的な議論

OKRの設定に時間をかけ過ぎてしまう問題が時折見られます。四半期ごとにOKRを設定しているにもかかわらず、個人のOKRが完成したころには、すでに1ヵ月近くが経過してしまっている場合すらあります。OKRは、プロセスの途中で変更したり、破棄してしまうことも可能です。大切なことは、自分たちが正しい方向に向かえているのかを継続的に議論し続けることです。

たとえば、四半期が始まって早々、ユーザーインタビューを実施することが現実的に難しくなってしまったとします。そうした場合、途中からOKRを変更し、インタビュー方式からアンケート方式に変えてしまっても何ら問題ありません。ただしその場合は、関連する目標や成果指標も同時に変更し、整合性を保つ必要があります。

今回は、ドラフト作成時の話し合いでインタビューの実施が難しいことが判明しました。そこであなたは、⁠インタビューで80%以上がUXの改善を認める」の成果指標を、図8で示されているとおり、アンケート方式に変更することにしました。

図8 変更した目標
図8

完成したドラフト

FASTに従うことで、挑戦的、具体的、かつ透明性に配慮した、図9のドラフトを作成することができました。また、継続的に議論することで、柔軟にOKRを変更する大切さも学びました。

図9 完成したドラフト
図9

OKR を完成させる

設定したOKRに不適切な目標や成果指標が含まれていると、結果的にチームワークや自律性が損なわれてしまうリスクがあります。そこであなたは、注意すべき落とし穴と照らし合わせながら、問題のある目標と成果指標を改善し、OKRを完成させることにしました。

注意すべき落とし穴

Googleのブログ『re:Work』において、OKRを作成する際に注意すべき落とし穴が5つ紹介されています。

  1. OKRがストレッチゴールであるという説明の欠如
  2. ⁠現状維持でよし」的なOKR
  3. 意図的に実力を隠す
  4. 目標の価値が低い
  5. 目標に対する成果指標が不十分

  6. さらに、筆者自身がこれまでOKRを運用してきた中で最もよく見られる、典型的な落とし穴として以下が挙げられます。

  7. 絞り込みが不十分

これらの落とし穴の中には、作成したドラフトに当てはまるものも多いため、1つずつ解説しながらドラフトの修正を行います。

OKRがストレッチゴールであるという説明の欠如

OKRでは、目標の達成率は60~70%で設定されます。それはつまり、30~40%の確率で失敗する目標を立てることを意味します。もしあなたのOKRが、ほかのチームのOKRと関連している場合は、目標達成の期待値について、関係するチームと認識をそろえなければなりません。

たとえば、マーケティングチームが「5つ以上の新機能リリースをSNSで拡散する」という目標を掲げたとします。そしてその目標の達成が、あなたの「散歩を促す有料コンテンツをリリースする」という成果指標の達成にかかっているとします。すると、あなたがOKRの達成に失敗することで、連鎖的にマーケティングチームの目標達成にも影響を与えてしまうことになります。

大切なことは、あなたの掲げている目標や成果指標がストレッチゴールである場合には、関連するほかのチームに対して、達成の期待値を伝えることです。もしかすると、マーケティングチームにはすでに、ほかにSNSで拡散すべき新機能リリースのストックがあるのかもしれません。あるいは、あなたやほかのチームメイトが掲げているOKRが一定確率で失敗することを見込んで、⁠5つ以上の新機能リリース」としているのかもしれません。

あなたはマーケティングチームと話し合いを行った結果、散歩を促す有料コンテンツのリリースが、彼らが目標を達成するにあたって必要不可欠であることがわかりました。さらにあなた自身も、OKR内の優先度を調整することで、この機能を高い確度でリリースできることがわかりました。

そこであなたは、図10で示されているとおり、⁠コミットする成果指標」とそうでない成果指標を区別することにしました。コミットする成果指標とは、達成率が90~100%に設定された、確実に達成すべき成果指標を指します。このように区別することで、OKRの中でも、さらに高い優先度で「コミットする成果指標」に取り組むことができるようになります。

図10 コミットする成果指標
図10

「現状維持でよし」的なOKR

OKRでは、一見ストレッチゴールのように見えて、これまでの取り組みに一切手を加えることなく、自動的に達成できてしまう成果指標が隠れている場合があります。たとえば、ドラフトでは成果指標として「サポート対応の満足度が80%以上」が設定されていますが、この指標がほぼ確実に達成されるのであれば、そもそもOKRに含めるべきではありません。

このような、⁠現状維持でよし」的なOKRを見抜くためには、それぞれの成果指標を達成するために、必要な労力が大きい順に並べるという方法があります。たとえば、あなたが設定したドラフトの成果指標を順位付けしたところ、以下の結果になったとします。

  1. 手動のテストシナリオをUIテストで自動化する
  2. 散歩を促す有料コンテンツがリリースされる
  3. ……
  4. ユニットテストのカバー率が50%以上
  5. サポート対応の満足度が80%以上

順位が下の成果指標については、より挑戦的な内容に置き換えるか、いっそ削除してしまっても構いません。そこであなたは、図11で示されているとおり、⁠サポート対応の満足度が80%以上」の成果指標を削除することにしました。

図11 現状維持の成果指標を削除
図11

意図的に実力を隠す

意図的に実力を隠してしまうのも、現状維持のOKRと同じく、持っているリソースを最大限活用しなくてもOKRが達成できてしまう、典型的な落とし穴の1つです。

リソースを活用しきれない原因の1つとして、そもそも目標が低すぎるケースがあります。ドラフトでは、⁠アプリのクラッシュ率が1%以下」という目標が立てられています。これは、チームの成果指標をそのまま目標に掲げたものですが、そもそもこの目標の難易度が適切でない可能性があります。その場合は、チームリーダーと話し合いを行いながら、目標を適切な難易度に調整する必要があります。

たとえチームーリーダーであっても、チームのリソースを100%把握し、初めから完璧なOKRを設定することは非常に困難です。しかし、チームのOKRに問題が見つかった場合であっても、ボトムアップで改善を提案することができます。あなたのOKRでは、アプリのクラッシュ率1%が容易に達成できてしまうため、目標を「アプリのクラッシュ率が0.1%以下」に変更し、チームの成果指標もそれに合わせて変更してもらうことにしました。

また、あなたのOKR内での整合性を保つことも重要です。たとえば、アプリのクラッシュ率を0.1%に引き下げるためには、現状の成果指標では不十分であることがわかったとします。その場合は、たとえばユニットテストのカバー率を高めるなど、図12で示されているとおり、OKRを調整する必要があります。

図12 十分な実力を発揮する
図12

目標の価値が低い

OKRでは、ビジネスの成長を測るために、成果指標を設定します。したがって、もしその成果指標を100%達成しても、ビジネスに影響を与えないのであれば、そもそもOKRとして不適切です。

また、成果指標を設定する際に、個人の目標だけでなく、さらにその先にある、会社の目標も意識しなければなりません。あなたのOKRでは、それぞれの成果指標を達成することで、⁠フィットペットの黒字化につながるのか」を、自分自身に問いかける必要があります。

たとえば、あなたのOKRでは「有料プラン契約者の25%がSNS連携機能を利用する」という成果指標が設定されています。しかし、ログインのためだけにSNS連携機能が利用され、ログイン以外に使われることがなければ、アプリの継続率を高めたり、黒字化にはつながらないかもしれません。

もしあなたが、SNS連携機能をログインのためだけでなく、ユーザーがSNSにペットの健康状態を毎日投稿するために使ってほしいと考えたとします。そうすることで、ユーザーが毎日フィットペットにログインするようになり、最終的にフィットペットの黒字化につながるのであれば、そのことを成果指標とすることで、より価値の高いOKRを設定することができます。

そこであなたは、価値の高いOKRを設定するために、図13で示されているとおり、OKRを調整することにしました。

図13 価値の高い目標
図13

目標に対する成果指標が不十分

OKRを設定する際に、大局的視点に対して客観的指標が不足しているため、局所最適解に陥ってしまうケースがあります。その場合は、目標を達成するためには、1つの側面だけから成果指標を設定するのではなく、対になるような成果指標を複数設定することで、さまざまな側面から目標達成を補い合うことができます。

あなたが設定したOKRでは、⁠80%以上のユーザーがUXに満足と答える」という目標に対して、新UIをリリースし、さらにアンケートで改善が認められることだけを成果指標として設定しています。しかし、アンケートに答えてくれるユーザーが、すべてのユーザーを代表していない可能性があります。もしかしたら、アンケートを受けてくれた時点で好意的なユーザーだけに絞られており、本当に不満を抱えているユーザーの意見が汲み取られていない恐れがあります。あるいは、OKRを逆手に取って、初めからフィットペットに好意的なユーザーに対してだけアンケートを送ることで、簡単に目標を達成することすらできてしまいます。

そこであなたは、図14で示されているとおり、⁠レビューで書かれたクレームの50%を解消する」といった成果指標を設定することにしました。そうすることで、フィットペットに不満を抱えているユーザーの意見を積極的に取り込むことができ、一面的な指標だけで目標達成が測られる問題を避けることができます。

図14 対になる成果指標
図14

絞り込みが不十分

OKRは、最も重要な目標だけに注力するための目標管理手法です。もし目標や成果指標が多すぎて、重要な領域に注力できないようであれば、過度な負担になってしまうだけでなく、本末転倒になってしまいます。

本特集では、目標と成果指標を3~5個までにとどめることを推奨してきました。しかし、このように伝えると、5個の目標に対して、成果指標を5個ずつ設定することで、1つのOKRに対して最大25個の成果指標が設定されてしまうケースがあります。しかし、一般的にOKRが四半期ごとに運用されることを考えると、それらすべてを達成するために70~80営業日しか与えられないことになります。つまり計算上、1つの成果指標を達成するために、3日もかけられないことを意味します。

そのような状況下では、ビジネスに影響のある挑戦的な目標を達成することは困難です。今回作成したOKRは、初めから絞り込みを意識したため、このような問題は発生しませんでした。しかし、今後あなた自身のOKRを設定する際には、絞り込みが十分にできているかを意識する必要があります。

完成したOKR

注意すべき落とし穴と照らし合わせながらドラフトに修正を加えたところ、あなたは図15のOKRを完成させることができました。

図15 完成したOKR
図15

OKRでは、運用していく過程で得られる発見があります。また、どれだけ完璧なOKRであっても、初めから想定していたとおりに進められなくなってしまうこともあります。しかし、途中で困難にぶつかったとしても、適切に軌道修正を行う柔軟さを忘れてはいけません。

まとめ

第2章では、⁠初めて個人のOKRを設定する」というシナリオを通じて、OKRを設定する際の注意点と落とし穴について解説しました。続く第3章では、チームにOKRを導入する流れを詳しく解説します。

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