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Web Standards Interop 2022 ~TechFeed Conference 2022講演より

本記事は、2022年5月に開催されたTechFeed Conference 2022のセッション書き起こし記事「Web Standards Interop 2022(@1000ch⁠⁠ — TechFeed Conference 2022講演より」を転載したものです。オリジナルはTechFeedをご覧ください。

「Web Standards Interop 2022」というタイトルで発表させていただきます。

最近のWeb標準を取り巻くキーワードともいえるInteropについて、5分間に圧縮して現状と問題をお話しできればと思います。

私はこういうもので、Web標準技術の動向なんかが好きでやっております。

Shogo SENSUI(@1000ch)

なので今日もWeb標準に関するお話をするんですが、最近、私がWebに懸念していることに強く関係するキーワードがInteropに帰結するかなと思っています。

Webにおける"Interop"とは

Interopは日本語だと「相互運用性」になりますが、Webにおいては「Web標準に沿って実装されたWebページがブラウザを問わずに機能すること」を意味しています。

WebにおけるInterop
WebにおけるInterop

広く捉えると「ソフトウェアが実行環境を選ばずに動作すること」とも言えて、この場合はソフトウェアがWebページ、実行環境がブラウザにあたります。

たとえばTC39がリードしているECMAScriptの標準化プロセスでも、ステージ0から4まであって、標準化完了を表わすステージ4では2つの実装が存在することを含めているように、仕様が存在するだけでなく実装されて、相互運用性が確保されることで価値があると認識しています。

相互運用性が耳慣れない言葉でも重要であることは理解できると思います。これが改善されることで閲覧者の閲覧体験や開発者の開発体験といった利便性が高まり、その結果、プラットフォームとしてのWebが持続可能なものになります。

Interopの進化の過程

相互運用性の改善は、GoogleとMozillaを中心に、開発者のペインポイントの調査から始まりました。

各種サーベイの結果をもとに2021年としてはかなり広く使われている5つのWeb標準技術、CSS Flexbox、CSS Gridなどがフォーカスされて各ブラウザベンダによって相互運用性が大きく改善されたという結果につながりました。

2021年までのInteropの歩み
2021年までのInteropの歩み

そして、2021年の成果を通じて2022年もイテレーションを回すことになったようで、こちらの6社AppleBocoupGoogleIgaliaMicrosoftMozillaが協力してInterop 2022に取り組んでいくという声明が出ています。2022年はCSS Cascade Layers(@layers)CSS Subgrid<dialog>要素などを含めた、15個の機能がフォーカスされています。

2022年も主要なブラウザベンダ6社が協力してInteropに取り組むことに
2022年も主要なブラウザベンダ6社が協力してInteropに取り組むことに

なぜInteropは重要なのか

では、⁠なぜInteropが重要なのか?」というところなんですが、2022年も相互運用性が改善されていくことで、Webに関わる人がよりハッピーになっていくことはなんとなく予想できます。

ここで先ほどの「プラットフォームとしてのWebがより持続可能なものになる」ということを少し深掘りしていきましょう。

Interopのゴールとしては、こういったことが書かれているんですけれども、これだけではないと思っています。

Interopのゴールとして、開発者が使いやすい(=ブラウザ間の不整合に悩まされない)プラットフォームであることが掲げられている
Interopのゴールとして、開発者が使いやすい(=ブラウザ間の不整合に悩まされない)プラットフォームであることが掲げられている

相互運用性の低下は特定ブラウザの寡占を進めて、Webプラットフォームが中央集権的になってしまうことを意味しています。

では2022年5月現在、ブラウザを取り巻く状況がどうなってるかというと、IE11のサポートがついに終了する一方で、Firefoxのサポートを打ち切るサービスが散見されているのが非常に残念です。ニュースによってこうした流れが助長されることを強く懸念しています。

日本ではIE11のサポート終了とともに、Firefoxサポートを打ち切る企業のニュースが相次いだ
日本ではIE11のサポート終了とともに、Firefoxサポートを打ち切る企業のニュースが相次いだ

単純にサポートするブラウザを減らすことは、開発コストの削減をはじめ、事業としては経済合理性があることも事実だと思うのですが、結果的にはブラウザの多様性を失うことにつながってしまい、将来的なWebの健全性を損なっていることを認識しなくてはいけません。

今まさに、IE11のサポートに苦しんでいた状況に戻ってしまいかねないということです。

開発者とブラウザベンダがやるべきこと

それでは開発者、ブラウザベンダは何をしていけばいいのでしょうか?

Interop 2022の話では、ブラウザの実装レベルの相互運用性がフォーカスされていました。ですが、Webページの実装レベルの相互運用性を維持/改善することがとても重要なのではないかと思っています。

Webは「開発者がどのブラウザでも動くWebページを実装してこそ」という前提があると思っています。極端に言えば、⁠あらゆるWebページがFirefoxだけをサポートしていけばシェアが増えていく」という引力も働くかなと思っています。

標準化されたWeb基準に沿って実装し、⁠Webページの相互運用性に貢献する」⁠非互換性はバグレポートする」ということがブラウザの相互運用性に貢献し、Webプラットフォームの健全性の維持につながるかなと思っています。

開発者がInterop実現のために取るべきアプローチ
開発者がInterop実現のために取るべきアプローチ

(ブラウザベンダの動きとしては)DuckDuckGoがWebKitを使ったMac OS向けブラウザを発表していたりMightyのようにChromiumに手を加えたブラウザなども出ていて、こうした動きはブラウザのシェアをリバランスする意味でとても期待しています。

一方で、エンジンレベルの多様性を保つにはWeb標準技術が大きすぎるという問題は引き続き存在しています。これはExtensible Webを前進させ続けるしかないかなと思います。

仮にブラウザをスクラッチで実装できるまで敷居が下がったとしても、そこに参入するメリットがどのくらいあるのか、という話が次に出てきます。ブラウザについても、次の参入者が利益を享受できないと続きません。

それはOSSの持続性とも似ていて、そういう意味では有志の集まりがオープンソースのブラウザエンジンをフォークして公開してもいいのかもしれないのですが、最終的にはGoogle Searchより使われるプロダクトが生まれることの方がWebの中立性を維持していく上で重要かもしれないと思っています。

ブラウザベンダはWeb標準技術の複雑さを低減させる努力とともに、オープンソースのブラウザエンジンのフォークを進めてもよいかもしれない
ブラウザベンダはWeb標準技術の複雑さを低減させる努力とともに、オープンソースのブラウザエンジンのフォークを進めてもよいかもしれない

警鐘を鳴らすだけ鳴らしてしまったんですが、放っておくと進んでしまうのも事実だと思っていて、Webのあり方をも左右してしまう深刻な問題だと捉えています。Interopの取り組みに貢献して、Webプラットフォームの未来について考える人が増えてくれると嬉しいです。

ご清聴ありがとうございました。

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