Wantedly人事責任者が語る エンジニア採用の失敗あるある

採用の新しい考え方が学べるすごい採用を10月26日に上梓する、ウォンテッドリー株式会社 人事責任者 大谷昌継氏。今回は書籍発売を記念して、gihyo.jp読者からの注目度が高いエンジニア採用の分野で、各社がおかしがちなミスについてインタビューを行った。

採用失敗のあるある

――本日はエンジニア採用について、失敗という視点からお話を聞かせください。

現在、ウォンテッドリーの人事責任者を務めています。私自身も採用では失敗を重ねてきましたし、今でもうまくいかないことはあります。今回はその経験をもとに、皆さんの参考になるような話ができればと思います。ウォンテッドリーに来る前、最初にエンジニアの採用を任されたときもうまくいきませんでした。当時は採用人数が決まっていて、そこを目標に、会社に求められる「特定技術n年以上」のような条件で見るだけでスカウトを送っていました。ただ、スカウトを送るだけでは当然うまくいきませんでした。自社の魅力づけもできず、ずっと失敗していたんです。

当時既に持っていたエンジニア以外の採用の経験、他の職種と同じ方法論をそのまま使ってしまっていたんです。現在もエンジニア採用は難しいですが、当時もこれではうまくまわりませんでした。

あるとき、エンジニアリングをしている人たちが楽しそうで、そこに影響されてRuby on Railsのチュートリアルなどをやってみました。そうやってエンジニア文化に触れることで、エンジニアへの尊敬の念が高まり、エンジニア側の視点を少しずつ獲得できました。そこで、エンジニアにとって魅力的な発信を全然できていないことに気づいたんです。相手が求める情報を出していなかった。行動変容がそこから始まりました。

――エンジニア採用は激化していますが、エンジニア採用に特効薬のようなものはあるのでしょうか

エンジニアの採用は企業が選ぶ側から選ばれる側になっていることを意識する必要があります。総合力が必要で、環境や働きがいなど会社の魅力を上げつつ、それをちゃんと発信することが重要です。私も特効薬のようなものを探して、新しい募集媒体を試したり、人材紹介も何社も探したりしましたがそんなものは存在しませんでした。

特効薬はありませんが、きちんとやれば、少しずつ採用の成功は積み上がっていくものです。会社自体の魅力向上、情報発信、カジュアル面談、長期的な関係構築などを自社の特質に合わせて行ったことで、採用できる人数が少しずつ増えてきました。採用がうまくいっている会社は条件面や働き方(フレックス・リモートワーク導入)などを積極的に見直して会社自体の魅力を上げています。さらにそれをSNSやブログなどで対外的に発信しています。

日々の積み重ねで、採用できる体質に徐々に変わっていきます。

エンジニアに不信感を持たれないために

――エンジニアから顰蹙を買う求人が話題になることがあります。たとえば、⁠3年前に出た技術Xに対して、5年以上のX経験者を求める」といったようなおかしな求人情報を出して、エンジニアに不信感を持たれる会社がSNSで話題になります。

この求人を出すだけで、会社が「選ぶ側」として自分たちの都合だけでさがしていることや、どのような人が必要なのか理解する努力をしていないことが相手に伝わっています。

こういうネタが話題になるのは、相手が不勉強なのをバカにしているというよりも、⁠ここはまずい会社だな」というのが見えてくるからです。

技術に理解がない求人票を出すと、そもそもエンジニアの仕事を知ろうともしない、勉強せずにエンジニアになんでも押し付けるという体質が透けて見えます。⁠エンジニアリング」中心の会社ではなく、やりたいことをエンジニアに投げる会社だろうと思われてしまいます。人事がこういう求人を出すことの意味を理解してないのです。

こういった求人が出る会社は、ちょっと見せ方を変えればいいという話ではないんです。会社の体質を変えてエンジニア中心の会社にしないと、人が来てくれない。

――古いバージョンのソフトウェアやライブラリを使っていることを示す求人もたまに話題になります。

これも重要です。RubyやPythonのようなプログラミング言語であったり、ミドルウェアであったり、それらのバージョンアップ対応などをちゃんとできるのか。バージョンアップ対応に投資ができる会社かが見られています。

たとえばすごい古い技術スタックを使っていると、その企業への不信感が生じますよね。セキュリティなどの問題もありますが、古いバージョンを維持するだけの仕事はエンジニアのキャリアにとってマイナスです。新しい経験が積めないですし、古いソフトウェア対応のための保守だけでは他の企業では経歴を活かしづらいですから。

求人にあるソフトウェアスタックは、サービスの品質や、エンジニアのキャリアへの考え方を映し出しています。エンジニアにとって魅力的な技術を使っていたり、バージョンアップ対応にも工数をきちんと割いたりするのはエンジニアに魅力的に映ります。

ここも見せ方の巧拙というよりも、会社が実際にエンジニアを大切にしているかが見られていると考えてください。

――エンジニアに不信感を持たれないためにどう動けばいいのでしょうか。

エンジニアが尊重される会社なのかどうかが最重要です。もしそうでないなら、そもそも考え方をあらためないといけません。表面的に取り繕っても、エンジニアにはバレます。さらに、SNSなど情報を取得できる方法も広がっています。人事だけがいいこと言って、実態と離れたことを説明するとお互い不幸になってしまいます。会社の考え方を変えて、その上でそれを発信することが重要です。

また、テンプレやコピペのメッセージではエンジニアに不信感を抱かれます。実際にエンジニア一人ひとりに向き合ってやりとりをしないと、バレますし、採用という結果に繋がりません。

情報発信の重要性

――先ほどから話題に出ている情報発信についても教えてください。

いくら会社が働きやすくても、それを発信しないと見つけてもらえません。自社を紹介するSNSやブログをちゃんとやる、会社を伝え続ける必要があります。

――企業が公式にブログやSNSを用意するべきということでしょうか。

はい。それに加えて、従業員個人のSNSやブログの重要性も増しています。現代では、形式張った企業公式の発信だけでなく、従業員一人ひとりが発信してくれる生きた情報が大切です。SNSで知人が楽しそうに会社の話をするから入ってみた……なんて事例も増えています。ブログやSNS以外に、社員の技術イベントや勉強会への登壇を推奨するのもおすすめです。登壇できるような学びのある環境で働けている、社員の発信を応援しているという企業ブランドの構築に役立ちます。

――情報発信で失敗しやすいポイントやコツを教えてください。

大事なスタンスがあります。⁠ついでにやる」ではなく「頑張る」ことです。⁠頑張らないと続かない」からです。情報発信は本業のうちに入れるべきです。よくある問題がブログ更新が途切れがちになるというものです。立ち上げメンバーで記事一巡したら燃え尽きる...というのを見聞きした方も多いでしょう。

私たちの場合は継続的に情報発信していくために、登壇/ブログをちゃんと奨励して評価項目に入れています。経営層も含めて、情報発信について会社でのコンセンサスをとらなくてはいけません。また、同時にテックブログや登壇はエンジニア本人のキャリアにもプラスになるということを理解してもらうのも重要だと思います。

メディア選定も重要です。エンジニアに強いメディアやSNSは、自社のエンジニアがよく使っているものを聞いてみるといいですね。実は結構変わります。はやりのものに乗っかるのはいいが、ちゃんとリサーチはしたほうがいいです。

――ブログやSNS、登壇奨励以外にはなにかやっていますか?

ウォンテッドリー株式会社では技術同人誌(Wantedly Tech Book)もやっています。技術書典などの人気もあり、同人誌は注目を集めているジャンルです。

自社と関連の深い領域では、技術イベントのスポンサーも積極的にやっています。金額などの負担は小さくはないですが、自社の認知度を高め、またエンジニアのコミュニティに利益を還元する会社だと思ってもらえる効果は大きいです

情報の発信量や内容で、⁠すごい会社」と思ってもらえます。印象が一気によくなって、そこでモメンタムが生まれます。しっかりと力を入れてやってもらいたいです。

カジュアル面談さえすればいいというわけではない

――エンジニア採用ではカジュアル面談が流行っていますね。カジュアル面談の失敗についてお聞かせください。

カジュアル面談は、特に誤解されている採用の手法の1つだと思います。失敗例は枚挙にいとまがありません。

カジュアル面談は「転職」を考えていない人も使う手段です。合否のない、キャリアについて話し合うための、名前の通りカジュアルな場です。候補者側は情報収集、他社事例の収集や現在の市場の確認などに使えます。採用側はそもそもエンジニアに会うのが大変です。そのハードルを少しでも下げてくれるカジュアル面談はよい機会です。自社を認知してもらう、魅力的に思ってもらう、またとない機会です。

まず、一番大きいミスがカジュアル面談をした相手に「合否を伝えること」です。カジュアル面談直後にメールなどで「合格です。選考に進んでください」⁠ご期待に添えませんでした。またのご応募を...」というように合否を伝える企業があります。これは間違いです。カジュアル面談はあくまでも面談で、選考ではありません。合否判定を出すような場所ではないのです。相手が選考を受けるつもりもないのに、合否を出すというのは失礼なことです。と言いつつ、恥ずかしながら、私も以前合否を候補者の方に送ってしまったことがあります。

カジュアル面談は合否を伝える場ではないので、カジュアル面談でピンときた人には「ぜひ選考を受けてもらえないか⁠⁠、そうでない人には「今後ともお付き合いよろしくお願いします」とご連絡するのがのぞましいでしょう。

私が聞いたことがあるひどいケースが、⁠カジュアル面談を装って採用面接を無理やり組む」ものです。実は「カジュアル面談と聞かされて行ったら面接させられた」というのはWantedlyでも苦情として多数いただいています。残念ながら企業側がカジュアル面談を理解しておらず、こういった事態が起きてしまうことがあります。我々も引き続きこの点の周知を続けていきたいと考えています。

また、⁠ぜひ弊社に遊びに来てください」といった誘い文句でカジュアル面談に招待することは多くあります。私も以前はそこまで違和感のない表現だったのですが、最近はキャリアのご相談やカジュアル面談と言ってしまったほうがシンプルに話が進むことが多いと考えています。

――カジュアル面談は「選考」ではないことに気をつければ、あとはなんとかなるものでしょうか。

カジュアル面談は魅力づけの場と言いましたが、自社の魅力づけだけに気をとられる会社が少なくありません。会社側が自分たちの話ばかり伝えてしまうということがよく起こります。自分たちの宣伝ではなく、お互いにわかり合う、語り合うための場所がカジュアル面談です。自分たちの言いたいこと、事業内容や技術スタックをだーっと一方的に話す場所ではありません。相手が聞きたいことを引き出してそれに答え、こちらが今困っていることもきちんと話したほうがいいです。また、それ以上に相手にキャリアや現在の働き方のことを喋ってもらうことが欠かせません。

カジュアル面談に来てくれた方に、時間をとってもらったという敬意が必要です。質問攻めにしてもいけないし、こちらが向こうから知見を引き出すだけの技術的な相談の場にしてもいけません。

最初にどういう話をするかお互いに合意する、あらかじめメッセージなどで伝えておくことは重要です。

――カジュアル面談を成功に導くためにはどうすればいいのでしょう。

カジュアル面談とは選考に進んでもらうための「魅力づけの場」というのが、企業側に必要な視点です。ファンを作るための活動。企業やエンジニア組織を好きになってもらうことも重要です。カジュアル面談で接点を作り、キャリアの遷移の中で、想起してもらう企業になることが目標だと考えましょう

できるだけ、現場の人、相手が話を聞きたくなる人をアサインするのは重要です。

短期的な成果をもとめるというより、長期的に関係をつくれるといいです。数字にすぐにあらわれるわけではないですが、採用したい貴重な人材と関係を築いていくという視点を持ちましょう。

エンジニアの力量を見極める

――エンジニアの力量を見極めるにはどうすればいいのでしょう? あまり考えずに採用して、スキルマッチしない人材が入って現場が混乱するという話を聞いたことがあります。

コーディングテストが人気ですね。特にアメリカでは盛んです。ウォンテッドリーでもコーディングテストはやっています。ただ、それでわかるのはスキルが中心。仕事の仕方や好み、指向性というところがコーディングテストだけではわかりません。一緒に働きたい人か見極めるには、実際に、一日でも半日でも一緒に働いてみるといいと考えています。あうあわない、考え方や議論の仕方、会社と自分があっているかが見える就業型インターンが理想です。インターンが難しい中途の人と働くときは有給/半休とってもらって一緒に働くのも有効です。NDAを結んで、コード書くまで行かなくても課題についてディスカッションしたり、仕事の現場を見てもらったりするようにしています。

――インターンはどう進めればいいのでしょう。

新卒も中途も、研修型より就業型がおすすめです。新卒のインターンで比較的人気のある研修型の弱点は学生側の理解が深まらないことです。何らかのワークを課すような研修型だと学生の能力はある程度見えてくる。ただ学生側からするとどう働くかのイメージがつくりづらい。こういうケースでは会社は学生にいいところだけ見せるような形になりがちです。実際に中にはいって働く就業形だとお互い、実態が見れる。そこで好きか嫌いかもわかりやすくなります。

――インターンがやりがい搾取的になってしまう危険性は?

就業型ならちゃんと見合った給料を支払う。そういう当たり前のことを、きちんとしなくてはいけません。そういうことをしない会社は、長期的にエンジニアが来なくなるはず。SNSでの炎上リスクもあります。学生とコミュニケーションをとって、ちゃんと搾取にならないように、意見を言ってもらうようにします。

立場の強弱を利用して働かせるようなことも当然問題があります。内定を餌に長時間労働させるといったものですね。

インターン制度を利用して実際の現場で働いてもらうのが、エンジニアを見極めるうえで一番いいと考えています。ただ、きちんと整備して始めないと不必要なリスクを抱えることになってしまいます。私たちも、現在は理想的なかたちでインターンを実施できていますが、不慣れなうちは課題もあり、インターンに来てくれた方にご迷惑をおかけしたことがあります。

――自社でインターンした学生が、インターン経験を持って他社、たとえばより人気の高い大企業や外資系などに行ってしまう危険性についてはどう考えていますか?

大前提として、インターン生に選んでもらう会社になる努力はし続けるべきです。

そのうえで、他社に行ってしまってもいい、長期的な関係を築くきっかけづくりだと思えばいいんです。真摯にエンジニアリングをやっていれば、ここでできた縁は続きます。たとえば、インターンしてくれた学生が最初に入った大企業が合わず、インターンで働いていた会社に第二新卒として入社するようなケースは少なくありません。4月に入ってもらうことだけが重要なことではないのです。新卒の人が他社をやめようと思ったときに想起してもらうまでが新卒採用だと発想を転換してください。

また、有名企業に入れるインターン先として有名になれば、それで魅力もあがります。

優秀なエンジニアと働くには、自社に入ってもらえないかもしれないけどアタックしていく覚悟が必要です。

採用の好循環のために

――最後に読者にメッセージをお願いします。

ここまで、皆さんの参考になればとインタビューを受けてきましたが、実際のところ、今でも私は日々の採用で失敗してしまうことがあります。つい最近も、カジュアル面談なのに最終選考のようなスタイルで接してしまい、相手から「これではカジュアル面談というより選考ですね」と注意を受けました。私自身、失敗や試行錯誤を重ねて、よりよい採用のスタイルを目指しています。本稿で紹介した失敗事例を反面教師にしていただき、皆さんの採用活動を改善できるとうれしいです。

また、2022年10月26日発売の著書すごい採用では、採用を成功させるための考え方やウォンテッドリー株式会社の採用の手法などを紹介しています。こちらをご一読いただけると、エンジニア採用の解像度が一段上がると思います。

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