あけましておめでとうございます。株式会社ミツエーリンクスの中村直樹です。昨年と同じく、2022年のWebアクセシビリティに関連する出来事を振り返りつつ、2023年のWebアクセシビリティの展望について俯瞰していきたいと思います。
WCAG 2.2
2022年9月版のWCAG 2.
達成基準4.
- 要素には完全な開始タグ及び終了タグがある
- 要素は仕様に準じて入れ子になっている
- 要素には重複した属性がない
- どのIDも一意的である
おおまかにこれは、構文を遵守したHTMLを記述すれば満たすことができます。
歴史を振り返ってみますと、WCAG 2.
この当時はHTMLを解析するときにHTMLの構文エラーを検出した場合、エラーの処理方法が十分に規定されていなかったために、達成基準4.
WCAG 2.
この達成基準が削除されたときに、これまで達成基準4.
いずれにせよ、達成基準4.
なお、JIS X 8341-3の改正について気になる読者もいると思いますが、典型的な流れとしては、ISO化を待ってJIS化するという手続きになります。仮に2023年にWCAG 2.
WCAG 3.0
2022年はWCAG 3.
9月に行われたTPACでは、多方面にわたって議論が行われた様子が伺えます。議論の概要はTPAC SummaryとしてGoogleドキュメントで提供されています。その内容については議論そのものが途上という印象であり、詳細についてはここでは触れません。
さて、WCAG 3.
事実として、2020年のWebアクセシビリティでは、WCAG 2.
WAI-ARIA
WAI-ARIA周辺については、毎年5月の第3木曜日に行われるGlobal Accessibility Awareness Day (GAAD)にあわせて、WAI-ARIA Authoring PracticesをリデザインしたARIA Authoring Practices Guideが公開されたのが2022年の目に見える出来事といえます。
WAI-ARIA 1.
Webアクセシビリティの学習に関する文書・書籍
Webアクセシビリティに言及するブログ記事などを見かける機会は、日増しに増えてきているという感触があります。しかし、英語圏のまとまったWebアクセシビリティの解説文書が翻訳された形で複数存在するものの、最初から日本語で書かれた資料については、不足しているように思えるのが正直なところでしょう。
そのような中で、デジタル庁が
内容については、謳い文句のとおり、Webアクセシビリティにこれから取り組もうとする方にお勧めできるものとなっています。主に行政の担当者を念頭に作成されたものであり、Webアクセシビリティの行政機関へのさらなる浸透が期待できます。また、行政とは関係なく民間事業者でも利用できる内容です。こういった文書が官公庁から出されることは大きな意義があると考えます。
このガイドブックではまた、文字サイズの変更や、アクセシビリティ・
さて、2022年には、Webアクセシビリティに言及している書籍がいくつか出版されました。筆者と太田氏による共著
柴田氏による
WebアクセシビリティとHTMLの関係性について、改めて少し触れておきましょう。本記事の
このように、HTMLはWebアクセシビリティで大きな役割を果たしていますが、一方でWebページのデザインもアクセシビリティで大きな役割を果たしています。間嶋氏の
Webアクセシビリティに初めて取り組むときに、何から手を付ければよいのかわからないという声がありますが、これに対する解として、鮮度の高い役立つ文書や書籍が登場してきています。Webアクセシビリティを推進する側にとっても心強いものです。
障害者政策とWebアクセシビリティについて
法律的な観点からは、障害者権利条約、障害者基本法、障害者差別解消法がWebアクセシビリティに対して中心的な役割を果たしているといえるわけですが、これらの条約・
障害者権利条約と国連審査
2022年の8月から9月にかけて、国連の障害者権利委員会によって、障害者権利条約の取り組みに対する審査が行われ、日本に対する総括所見が出されました。これは、これまでの我が国の障害者施策の取り組みに対して、評価できる点と改善を求める点について勧告という形で出されるものとなっています。
総括所見の中ではアクセシビリティに関していくつものコメントがなされていますが、その中の1つにaccessibilityやinclusiveを含むいくつかの用語の翻訳が不正確であるという指摘がなされています
条約の和文について、accessibilityをアクセシビリティという翻訳にアップデートすることがひとつの望ましい姿であると考えます。それと同時にアクセシビリティとは何なのか、アクセシビリティの概念、役割や意義を改めて足固めする必要があるように感じます。
第5次障害者基本計画と情報アクセシビリティ自己評価様式
障害者基本法関連では、第5次障害者基本計画について、12月に障害者政策委員会での取りまとめが行われました。今後は、パブリックコメントを経て閣議決定され、今年4月から実施される予定です。原稿執筆段階の計画案では、みんなの公共サイト運用ガイドラインの見直しについて明示されているのが1つのポイントといえますが、
これは、総務省で情報アクセシビリティ自己評価様式として提示されているものであり、議論が進みつつあります。米国において、製品がリハビリテーション法508条の基準にどのように適合するかを示すVPATという枠組みがありますが、この枠組みを日本でも採り入れようという試みです。
筆者が所属しているウェブアクセシビリティ基盤委員会でも情報アクセシビリティ自己評価様式について話題に上がってきています。筆者の聞き及ぶ限りでは、どうやら自己評価様式の内容は、技術的に固まっている状態ではないようです。その一方で、この様式を推進すること自体は決まっているような感触があります。
筆者の個人的な意見としては、そのような枠組みを導入しようとすること自体はよいことだと考えます。しかし、自己評価様式を使ってどのようにアクセシビリティを前進させていくのかのビジョンがあまり見えないことと、この様式を推進する法的な根拠が明瞭ではないことが懸念材料であると考えます。
障害者差別解消法と基本方針改定案
障害者差別解消法により策定される、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
この基本方針の改定案では、合理的配慮の提供と環境の整備について、Webサイトの例が以下のように明示されています。
まだパブリックコメント募集の段階ですので、文言が確定したわけではありませんが、Webアクセシビリティについて、基本方針で具体的な考え方が示されることは大いに評価できるところです。
ここで注意したいのは、
改正法の施行を前にして、Webアクセシビリティへの機運が高まっていくのは望ましいことではありますが、WebサイトでWCAGへの対応が必須であるというような、不正確な解釈のもとにアクセシビリティ対応を謳っていくような動きも一部で見られます。正確な情報をもとにWebアクセシビリティに取り組んでいきたいところです。
なお、改正差別解消法の施行ですが、改正法の施行を定める政令について準備が進んでいるという話です。基本方針の改定を受けて、対応指針の策定についても行われていくわけですが、これと並行して改めてスケジュール等が提示されるのではないかと思われます。
Webアクセシビリティ施策のゆくえ
2022年5月には障害者情報アクセシビリティ・
防災分野での動きとして、国土交通省ではハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会が行われています。Webアクセシビリティについても触れられているのですが、残念ながら正確さに欠ける理解が見受けられます。Webアクセシビリティの専門家がこうした場にコミットできていないという問題もありますが、オブザーバーとしてデジタル庁が参加できていないという問題もあります。デジタル社会の実現に向けた重点計画では、
読書バリアフリー法との絡みでは、電子書籍フォーマットEPUBのアクセシビリティに関するJISとして、2022年8月にJIS X 23761が制定されたのは大きな動きでしょう。11月に行われた日本DAISYコンソーシアムと共催で行われた日本電子出版協会(JEPA)のセミナーは、EPUBアクセシビリティにスポットを当てたものでした。
筆者がこのセミナーを録画視聴した限りでは、JIS X 23761対応のシステム作りはこれからであるという印象を受けました。また、JIS X 23761は、JIS X 8341-3つまりWCAG 2.
総務省による令和3
このようにさまざまな分野でWebアクセシビリティが取り上げられつつあるわけですが、まだまだ省庁や企業へのWebアクセシビリティの認知や理解が途上であるということを改めて認識しています。
そのためにも、まずはWebアクセシビリティを知ってもらうという働きかけを継続的に取り組んでいく必要があります。そのようなWebアクセシビリティの周知とともに、省庁や分野の垣根を越えた、横断的なWebアクセシビリティ政策の必要性を訴えていきたいところです。