OSSデータベース取り取り時報

第93回MySQL Day Tokyo開催、PostgreSQLの透過型暗号化機能とPGECons成果報告会

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

[MySQL]2023年4月の主な出来事

2023年4月のMySQLの製品リリースは、MySQLサーバー8.0.33、5.7.42の各マイナーバージョンをはじめ、MySQL NDB Clusterや各種Connector, MySQL Shell, MySQL Workbenchなどのクライアントプログラムの商用版およびコミュニティ版のほぼ全ての製品のマイナーバージョンアップが行われました。MySQLのマネージドサービスMySQL HeatWave Database Serviceのイメージも8.0.33にアップデートされています。Kubernetes環境向けのOperatorも、MySQL InnoDB Cluster用のMySQL Operator for Kubernetes 8.0.33-2.0.9MySQL NDB Cluster用のMySQL NDB Operator 8.0.33-1.0.2があわせてリリースされています。

なおMySQL 8.0.33は、MySQLの新しいリリースモデルであるLong-Term Support(LTS)リリースとイノベーション・リリースが発表されて最初のマイナーバージョンですが、このバージョンは従来のMySQL 8.0と同じくバグ修正とともに機能追加が行われています。

4月24日には日本オラクルのセミナールームでMySQL Day Tokyoが開催されました。なお5月8日以降は、毎週月曜午後に多彩なテーマのセミナーを、同じく日本オラクルのセミナールームで開催予定です。

MySQL Day Tokyo

MySQL Summitでの重要な発表が新しいリリースモデルです。基調講演であるState of the Dolphinでは、LTSリリースとイノベーション・リリースをはじめ、MySQL HeatWaveの機械学習機能HeatWave AutoMLに追加された教師なし学習の異常検出やレコメンデーション機能、MySQL Autopilotの自動シェイプ予測などの最新のアップデートの概要が紹介されました。その後MySQL HeatWaveやMySQL Enterprise Edition, InnoDB Clusterなど、各技術をテーマにした講演が行われました。

今回のイベントで注目を集めたのが、MySQLのクライアントプログラムであるMySQL ShellをVS Codeに組み込む拡張機能のMySQL Shell for VS Codeと、MySQLサーバーのデータをRESTful APIを経由してアクセス可能にするMySQL REST Serviceのセッションです。このセッションではそれぞれのデモも行われ、MySQLのデベロッパー向けの新たな取り組みが紹介されていました。

MySQL 8.0.33リリース

MySQL 8.0.33ではバグ修正に加えていくつかの機能追加が行われています。MySQL Enterprise Editionのデータマスキング機能が、これまでのプラグインからコンポーネントに切り替わっています。MySQLの「コンポーネント」はプラグインに変わる機能追加用のモジュールです。これによってさらなる機能拡張が可能となり、MySQL 8.0.33ではマルチバイト文字列のマスキングにも対応しています。

このほか、監査機能のMySQL Enterprise Auditのメタデータ格納先スキーマをデフォルトのmysql以外に設定できるaudit_log_databaseも追加されました。

レプリケーション関連の用語の修正は引き続き行われており、エラーメッセージでも⁠source⁠⁠replica⁠への統一を進めています。またユーザー定義の照合(Collation)は非推奨となりました。

[PostgreSQL]2023年4月の主な出来事

4月はPostgreSQL本体のリリースはありませんでした。今回は5月下旬に予定されているPostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)の成果報告会の概要と、透過型暗号化(TDE)の状況を取り上げます。

5月26日にPostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムが成果報告会を開催

PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)では、毎年の活動成果を報告するセミナーを開催しています。2022年度分の成果報告会は、5月26日(金)にオンラインで開催されます

ここでは、活動の中心となっている部会やワーキンググループ(WG)が2022年度にどのような活動を行っていたかを簡単に紹介します。

定点観測(バージョン間性能比較)

例年通り新旧バージョンの性能比較としてマルチコアCPUにおける性能検証を行い、バージョン14から15への性能変化の有無や傾向を確認しました。

ロジカルレプリケーション新機能

ロジカルレプリケーションの新機能についての調査・検証をしています。PostgreSQL 15で追加された主な機能、およびPostgreSQL 16で追加予定の機能を用いたマルチマスタレプリケーションの可能性についても整理しました。

性能トラブル調査編@Amazon Aurora

2018年度検証で実施された⁠性能トラブル調査編⁠をAmazon Auroraで活用するにはどうするかをテーマにして、チューニングがAuroraでも適用可能か否かの確認や、Auroraの機能を用いた各監視項目の整理を実施しました。

PgBouncer性能評価

PostgreSQLにおけるコネクションプールを実現する代表的なツールとして、PgBouncerがあります。今回はPgBouncerを使用することで懸念される性能面の影響について調査と検証を行い、その結果を元に、利用時の方針や確認するべき事項を提言します。

PostgreSQLのパーティショニング運用

WG2(移行WG)では、PostgreSQLへのデータベース移行について調査・検証を進めています。今回は、PostgreSQLのパーティショニングの機能や運用上で必要となる保守作業について、異種RDBMSからの移行の観点を踏まえてご紹介します。また、これまでの活動内容や、PostgreSQLの近年の移行に関わる変更についても併せて報告します。

CR(Community Relations)部会

CR部会では、エンタープライズ領域へのPostgreSQL適用拡大を目指し、PostgreSQL開発コミュニティに技術的課題のフィードバックを実施中です。今回は以下の活動概要についてご報告します。

  • 監視結果を運用に活かすにはどうするかについて本家wikiサイト情報の充実
  • 性能情報事例を収集するために開設した本家Wikiサイト情報の充実
  • IVM(Incremental View Maintenance⁠⁠ 開発の支援活動
  • CoC(Code of Conduct; コミュニティの行動規範)の原文が改訂されたことを受け、日本語訳の更新について

PostgreSQLでの透過型暗号化(TDE)機能の紹介

データの暗号化はデータベースの基本的な機能と言ってよいでしょうが、そのひとつである透過型暗号化(Transparent Data Encryption; TDE)についても、各社からのサポートが充実しつつあります。

最新のPostgreSQLバージョン15のサポート付き製品EDB Postgres Advanced Server 15(EPAS15)が2月から提供されていますが、このEPAS15で透過型暗号化(TDE)機能が使えるようになっています。このEPAS15でのTDEの検証情報などが揃いつつあるので、簡単に紹介します。

EPAS15のTDE機能

データベースに保存されているすべてのユーザーデータを透過的に暗号化します。対象データには、テーブルやその他のオブジェクトに格納されている実際のデータと、オブジェクトの名前などのシステムカタログが含まれます。

  • 不正なデータアクセスを防止するためのブロックレベルの暗号化。Postgresデータ、先行書き込みログ ⁠WAL⁠⁠、一時ファイルはディスク上で暗号化され、システムユーザーが読み取ることはできません。
  • データの暗号化と復号はデータベースによって管理され、アプリケーションの変更やクライアントドライバの更新は必要ありません。
  • Amazon AWS Key Management Service、Google Cloud Key Management Service、Microsoft Azure Key Vault、および Thales CipherTrust Manager をサポートし、外部にあるキー管理が可能です。

なお、TDE機能を含むEPAS15の新機能を紹介するウェビナーがオンデマンド配信されています。

性能への影響

TDEの有無による、スループット、CPU等の計算資源の負担、DBエンジンのバージョンアップの際の一括暗号化の性能などについての検証結果が報告されています。これを見ると、ある程度の影響はもちろんあるのですが、その影響を事前に勘案しさえすれば支障なく運用できる範囲でしょう。

各社のTDE対応

現在、PostgreSQLは大手ITベンダの多くからサポートサービスや独自に機能拡張した製品が提供されていることを第91回で述べましたが、このTDE機能についても各社が対応しています。

上記は筆者が把握している範囲なので、もっと他にもあるのかもしれません。このように、PostgreSQLでも透過型暗号化が徐々に普通になりつつあります。

2023年5月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動

オンサイト(会場)開催が復活しつつあります。また、利便性のあるオンライン開催もこの3年間で定着し、オンサイト/オンライン/ハイブリットが混在するようになってきました。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

Amazon RDS/AuroraからMySQL HeatWave Database Serviceへの移行

日程 2023年5月8日(月)15:00~17:00
場所 日本オラクル株式会社 本社 セミナールーム
内容 MySQL HeatWaveはMySQLサーバーの開発元であるオラクルが提供するコストパフォーマンスの高いMySQLマネージドサービスです。MySQL HeatWaveへAmazon RDSやAuroraからの移行時の考慮点やデータ移行方法などを解説します。Amazon RDSやAuroraと同等のスペックで比較すると、MySQL HeatWaveの運用コストは半分から1/3程度でありながら、標準で1GBあたり75 IOPS出せる高性能なストレージを採用しています。更に、IOリクエスト数による課金もないため、毎月のコストの変動も小さく抑えられます。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

MySQLサポートエンジニアが語るMySQLのパフォーマンスチューニングの要点

日程 2023年5月15日(月)15:00~17:00
場所 日本オラクル株式会社 本社 セミナールーム
内容 MySQLやリレーショナル・データベースに関する書籍の著者としてもおなじみのMySQLサポートエンジニアの木村 明治がMySQLのパフォーマンスチューニングにおける要点を解説します。MySQLの性能を最大限に活かし、また性能問題を解決するために必要なノウハウやツール類を、MySQLサポートサービスを業務とするエンジニアの目線からご紹介します。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

MySQLサポートエンジニアが語るMySQLのトラブルシューティングの要点

日程 2023年5月22日(月)15:00~17:00
場所 日本オラクル株式会社 本社 セミナールーム
内容 MySQLやリレーショナル・データベースに関する書籍の著者としてもおなじみのMySQLサポートエンジニアの奥野 幹也がMySQLのトラブルシューティングにおける要点を解説します。MySQLの運用時に発生する可能性のあるさまざまな問題に対して、問題の検知や分析、そして解決に結びつけるために役立つツールや機能などをご紹介します。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

EDBが待望の機能をついに実装!TDE(透過的データベース暗号化)の実力やいかに?

日程 2023年5月18日(木)14:00~14:30
場所 オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容 クラウドへのリフト&シフトが増加を続ける中、OSS-DBを採用する企業も年々増え続けています。一方でOSS-DBならではの課題・問題があるのもまた事実。データの暗号化もそのひとつと言えるのではないでしょうか。2023年2月にリリースされたEDB Postgres Advanced Server(EPAS)15では、それを解決に導く新機能、TDEが実装されました。今回、TDEを徹底的に検証!TDEの性能や利用時の注意点等をお伝えします。
主催 株式会社アシスト

PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム成果報告会

日程 2023年5月26日(金)13:30〜16:45
場所 オンライン開催(Zoomウェビナー)
内容 PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)では部会やワーキンググループの活動報告を毎年恒例で行っています。
今回のオンラインセミナーは、2022年度の成果発表会として、技術部会の3つのWG(Working Group)とCR部会の成果発表を行います。約1年にわたり、正会員が参加し、検証・評価を進め、知識を結集したアウトプットが出来上がっております。報告書はご自由にダウンロードしてご覧いただけますが(5月公開予定⁠⁠、非常にボリュームに多いものとなっておりますので、本セミナーでサマリーおよびエッセンスをご紹介し、今後の報告書をご覧いただく際の参考としてください。
主催 PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム

オープンソースカンファレンス2023

日程 2023年5月20日(土)〔Online/Nagoya〕
2023年5月28日(日)〔Nagoya〕
2023年6月17日(土)〔Online/Hokkaido〕
2023年6月24日(土)〔Hokkaido〕
場所 オンライン開催または会場開催
内容 オンサイト(会場)開催のオープンソースカンファレンスが戻ってきました。当面、セミナーはオンライン開催、展示は会場開催と、日程を分けての実施になります。遠方からも聴講しやすいオンライン開催のセミナーと、対面での交流や情報交換が可能な会場開催です。それぞれ日程と開催方法、内容にご注意いただきご参加ください。なお、会場開催の回に参加する場合でも、参加人数把握のために参加登録をお願いします。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

MySQL HeatWave テクノロジー・アップデート

日程 2023年5月29日(月)15:00~17:00
場所 日本オラクル株式会社 本社 セミナールーム
内容 MySQL HeatWaveはトランザクション処理と分析処理を高速に処理可能でかつ高い性能拡張性をもつクラウドデータベースです。機械学習エンジンを内包し、専門家のノウハウがなくてもデータベース内のデータに対して機械学習を高速かつ自動的に実行できる環境を提供します。このセミナーではMySQL HeatWaveがもたらすアプリケーション開発とデータベース運用への革新とマルチクラウド戦略、最新の技術アップデートをご紹介予定です。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

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